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第40話 弱音


「な、何だと」


「いなくなる前はここ最近お体の調子がすぐれないとのことで、市内の病院へお一人で向かわれました。

 私もあのとき着いて行けばよかったのですが、その後、浅蔵様のお屋敷にもご用事があるとのことだったので、私は自粛したのです」


 零に言われた「ナイツオブアウェイクが集合する」の意味を病院の後に浅蔵家へ話し合いに行ったのだろう。


「私の落ち度でした。いつもならば途中まででもお見送りいたしましたのに――」


「夕陽さんのせいじゃない。それで浅蔵には連絡したのか?」


「はい、その日の夜、遅くなる場合は普段なら連絡があるのですが、何の連絡もなかったので夜分遅くではありましたが、浅蔵様に確認いたしました」


「だが、いなかった……と」


「はい。浅蔵様のお父上、浅蔵剛堅様が経営なさっている病院が掛かりつけですので、そこで一言二言、浅蔵壬剣様と会話した程度だったそうです」


「つまり病院で見たのが最後か」


「はい。浅蔵様も現在捜索してくださっております。私もこうして凛那さんを探していたら、丁度、昂我様を見つけました」


「夕陽さん、だったら今戻るわけにはいかない。凛那を探さなくちゃ」


「駄目です。凛那さんのご友人、昂我様をこのままにはしてはおけません」


「俺だったら大丈夫、ほら、この――通、り」


 夕陽さんの肩から手を放し歩こうとしたのだが、膝を折り地面に手をついてしまう。


(駄目だ、血が足りない……)


 視界はふらつき、足の芯に力が入らない。


「強がりは良くありません。このまま凛那さんを探しに行ったとして、昂我様の事を聞かれたとき、私は何と答えられましょう」


「ぐっ――」


「それに昂我様も、逆のお立場になったらそうなさると思います。だから今は急ぎましょう。浅蔵様も一度こちらのお屋敷に合流なさるお時間ですから」


「何から何まで……すまない」


 助けられ、こうして肩まで貸してもらい、再び二人の騎士に力を貸してもらうことを不甲斐なく感じていた。自分にも戦う力があればと考えるが、今はあんな化け物を退けるほど人間離れした能力は流石に有していない。


「珍しいですね」


 夕陽さんがナイトレイ家へ続く坂を登りながら、不思議そうに言った。


「ん?」


 意味が分からずに俺は首をかしげる。


「弱音を吐く姿、初めて見たかもしれません」

「そ、そうか?」


 弱気を吐くのはそんなに珍しいだろうか。


「いつものイメージとは少々違いました。

 普段は皆さんを励ましておいででしたから」

「……こういうときこそ、すまないじゃなくて、ありがとう、だな」


 自分の顔を何度か軽く叩いて気合を入れる。

 走馬燈を見たり、血を少し流しすぎて弱気になっていた。


「ここまでありがとう。もう一人でも歩けそうだ」


 今度は強がりじゃない。やる事があるのだ、この重たい体も背負ってまだ歩ける。

 昂我の表情を見て夕陽は理解してくれたのか、無理はなさらないでくださいと言ってくれた。


 ナイトレイ家に到着後は夕陽から改めて治療を受けた。彼女の治療は素人目から見ても手馴れているのが分かる。彼女曰く、凛那さんにもしもの事があったいつでも治療できるように覚えました、との事らしい。


 びしょ濡れになった服を無理やりドライヤーで乾かし、少し湿っていたがすぐさま凛那捜索の準備を終える。


 時刻は丁度日を跨いだ頃だった。


 もう少しで浅蔵が来る時間というので、いても立ってもいられず外で待つ。

 見上げた空はどんよりとしていて、雪がちらつき始めている。湿気は含んでおらず粉のような雪で、手のひらに落ちるとすぐに溶けて消えてしまった。


 高梨がこれから雪が積もるといっていたがその予報は的中したようで、もっと強くなるだろう。

 あの二人は大丈夫だろうか。凛那を探す流れで、あの二人の様子も確認したほうが良いだろう。幾ら戦術的撤退をしたといっても罪悪感は残っている。


「きたか」


 坂道を上ってこちらに向かってくる白いコート姿の浅蔵が見える。

 表情は険しく、より今の現状が深刻だと感じられた。

 心配そうな夕陽も外へ出て浅蔵をお出迎えをする。


「遅かったな、早く探しに行こう」


 近寄ってきた浅蔵に声をかけると、浅蔵は言葉を無視して昂我を追い抜き、夕陽の前に立ちこちらを振り向く。


 そして白く輝く左手を強く握りしめ、昂我へと腕を伸ばした。

 つまりダイヤモンド・サーチャーを展開し、昂我の喉元に剣を突き付けた。


「信じたかった、貴様をな」


 剣先が震えている。浅蔵の感情がダイヤモンド・サーチャーに伝わっているのだろう。


「ど、どうした……」


 分けが分からず、微動だにできない。


「もう分かっている、ただの高校生のフリは辞めろ。僕たちと同じように振舞えば騙しとおせると思ったのか?」


 浅蔵の瞳は真っすぐに俺を見据えている。まるで他人を見るような眼に昂我の体が竦んだ。


「裏切者の黄玉騎士、赤槻昂我!」


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