「彼らは物質文明よりも精神文明を好んだ。
彼らは感情を殺して生きていく種族だが、気持ちや目に見えないものを大切にしていた。手に入らないからこそだろう。
彼らとの契約内容はこうだ。
騎士団長は彼らの友人となり、金剛騎士は零の永遠の友人ということ。
そして彼らはその代わりに金剛騎士の手助けをしてくれるというわけだ」
「それはつまり……ただ話し相手のような者になることで、彼らに騎士討伐命令を下せるようになったと……?
馬鹿げている。価値に差がありすぎる」
「そうでもない。
彼らはそれほどまでに友人を欲していた。
零の民は少数であり、外部から訪れる人間もいない、故に孤独だ。
唯一接触できるのは騎士団長のみなのさ。
だから永遠の友人を得て大いに嬉しかったのだろう。
感情は殺していても湧き上がるものだからな」
「これが僕に継がせたいもの、ですか」
「そうだ。騎士団長として金剛所持者として壬剣には、零とうまく協力してほしい」
「そういうことですか、分かりました」
壬剣はソファーから立ち上がり、零の前で手を差し出す。
「よろしく、零」
すると零は兜をこちらに向ける。
どこから外を見ているのか分からないが、差し出した手を握り返してくれた。
二人が手を結ぶ姿を見て剛堅が拍手をする。
「ここに新しいチームが結成された。私としても肩の荷がやっと下りた気分だ」
剛堅は立ち上がり、眼鏡を中指で調整しながら言う。
「それでは新しい任務だ。いや、継続した任務というべきかな」
新しい任務?
黒騎士討伐はこの零が済ませたはずだ。
何とも不穏な気配を壬剣は感じてしまう。
「私は零としての掟を破りつつも、個人的に行動している。
感情を殺せきれなかった」
「ああ、零がそういうのも、もっともだ」
大げさに目元を押さえて剛堅が零と並ぶ。
「私も実に悲しい。零がここにいる理由は、先ほど話した零の集落がある騎士によって滅ぼされたからだ」
「ある騎士……それはもしや」
「ああ、そうだ。彼は騎士というシステムに恨みを持っていたからね。
人知を超える力を有しているにも関わらず、何故好きにこの力を使えないのか、とね。己が騎士鎧の力を自由に使うために私を騙し、零の情報を聞き出し、集落を破壊した。私も応戦したが、彼らを守れなかった」
父親がスーツの袖をまくると、左腕に酷い傷跡が残っている。
これがその戦いで付いた傷なのだろう。
もう治ることはないのか、縫われた跡が痛々しい。
「だがここに唯一、生き残りの零がいた。彼は黄玉騎士を追ってここまで来た」
「それで父さんも一緒に黒騎士を追っていたのですか」
「そうさ、彼一人ではこの町の事は分からない」
だから書斎に騎士に関する文献が置かれていたのだろう。
騎士紋章を壬剣に受け渡しても、忙しそうにしていたのはこれが理由だったのだろう。
「ですが黒騎士はもういないはずでは?」
「いや、私も甘かった。零が捕まえてきた方は黄玉騎士の被害者。
黒騎士の精神支配により、言語や身体の自由さえ奪われ傀儡となった人間の末路だ」
「な、なんですって。では本体は――」
「黄玉騎士は《強固なる意思》という絶対防御を持っている。
それは物理的に硬いだけではなく、老いや病気とも無縁のものだ。
それは騎士鎧を展開せずとも常に効果を発揮し、若さを保つことができる」
「では、年齢的な見た目では判断つかないということですか」
「ああ、しかも騎士は《聖域》にて現代兵器や騎士同士の能力を無効化する。
だが逆に考えるのだ。見えないものが本物だと。
私たち金剛騎士は常に全てを見通す者だ。
私たちに見えないもの、それは、なんだ?」
見えないモノが本物――それはダイヤモンド・サーチャーでも認識できないもの……騎士同志は《聖域》によって理解できない。
騎士同士は近くにいると共振が発生するが、壬剣の近くには常に凛那がいたから別の共振が発生しても気が付かない。
「……まさか、そんな、ありえない」
だが確かに、奴に騎士紋章が反応していたのは事実。
「そうだ、そのまさかだ」