「零が、騎士――我らを救うだと? はははは、考えられない」
ひとしきり笑った後に、剛堅は大きく息を吸って、髪型を整える。
「零はな。騎士たちを監視し、手駒にならなければ騎士の息の根を止める断罪者だ。そんな奴らが俺たちを救うだと? 馬鹿げている!」
「本当だ。師匠は常々そう言っていた。
騎士を助け、解放できるのはお前だけだ、ってな。
だから俺はいつか騎士に会ったら、力一杯手を貸してやろうって決めてたのさ」
「これは呑気なものだ。どれ程私を笑わせてくれたら気が済むのかね、君は」
だがね――と剛堅は続ける。
「不愉快だよ、それ以上はね」
左目の瞳孔だけが狐のように細くなり、目に赤い炎を灯す。それに呼応するかのように今まで黙っていたファントムの体が、ビクッと跳ね、空へと持ち上がる。
「これが零の力を宿した――
剛堅は空に何かをばら撒く。
一つ一つ己から光を発しているようで、キラキラと空で輝く。
「そして騎士は私の思うがままに動く」
剛堅がばら撒いた騎士紋章の原石たちは、己が宿る場所を見つけたように闇を貫く彗星となって黒騎士ファントムへと進み、飲み込まれていく。
「な、何をしている――」
空間が振動し、地鳴りのような音が昂我と壬剣の鼓膜を震わせる。
「宝石は地球という一つの生命体から生まれた。本来騎士も十二席ではなく、王だけだった」
「無駄だ父さん、誠司さんに託された黄玉と僕には金剛の紋章がある。全てが揃うことは無い」
「我が息子とは思えない、おめでたい思考をお持ちのようだ」
剛堅が手をふると一瞬にして、壬剣の周囲に六体の女神の軍団が現れ、あちらの零――白銀騎士が、腰から抜き去った剣を横に凪ぐと、女神たちは光へと戻り、白銀の鎧の中に飲み込まれ、羽の装飾へと変化した。
「この女神は私のダイヤモンド・エクソダスから生み出した輝き。
私は自身の力を
光を操り空間を屈折させ、在るモノを消し、無いものを存在させる。
――壬剣、分かるか、お前の騎士鎧は私の金剛の欠片だ。
女神像たちと同じなのだよ。まさに親の七光りだ――ふははは」
壬剣の身体が一瞬光に包まれ、ダイヤモンド・サーチャーが無理やり展開される。
ダイヤモンド・サーチャーは剛堅言葉に戸惑う壬剣の手から、黄玉の原石を無理やり奪う。
白銀騎士ダイヤモンド・エクソダスが再び剣を振るうと、ダイヤモンド・サーチャーはダイヤモンド・エクソダスのマントへと変化した。
「そ、そんな――僕は、僕は今まで――」
己の左手の甲を見る。
そこにはもう金剛の騎士紋章だった剣の痣はない。
「他人の光で輝いていただけさ。
まさにお前らしいじゃないか、私の金、地位、その全てにお前はあやかり、あたかも自分の力で道を踏みしめてきたかのような素振りをする。
あのまま黄玉騎士を見つけなければ、そのまま手駒にしていても良かったのだが、悪い友人を持ったようだからな」
ダイヤモンド・エクソダスから黄玉の原石を受け取り、空中で苦しみもがいているファントムに投げ入れる。
「だが、まだだ、まだ凛那君の紅玉がある、それさえ守り切れば――」
自身の力が奪われようとも、壬剣は父親に声を上げる。
その言葉を待っていたかのように剛堅は唇を吊り上げる。
「壬剣、そろそろ賢くなってくれ、分かるだろう?
お前の行動は計画の一部だ。
誰がナイトレイの娘にあの髪飾りを渡すように指示した?」
笑いが止まらないのか、くくくと、口元を押さえる。
「ナイトレイの娘は何処で消え、代わりに生まれたのは何だろうなあ?」
昂我はハッと空に十字架のように張り付けられたファントムを見上げる。
(そうか、あの聞いたことがある駆動音は――俺が獣と化した黒騎士と相対したときに聞いた――)
「騎士王を作り出すには、純粋な騎士の生贄が必要だった。
しかし私はこの計画は騎士紋章に違反していると知っているからね。
念のために零の生き残りが襲撃してくるのを警戒し、金剛の権限を含む力を壬剣に受け渡していた。つまり騎士は一人しか残っていなかった。それがあの娘だ」
剛堅の隣に控えていたダイヤモンド・エクソダスの鎧がバラバラになり、ファントムの黒鎧の上に装着されていく。その度にファントムの絶叫がこだまする。
「しかしずっと気になっていた。
悪役というのは何故最後になって計画をぺらぺらと語るのか」
ファントムが白銀鎧に覆われ、がくんと生命線が切れたように項垂れる。
「驚愕の表情が気持ちいいからなんだろうなあ。
その場を支配しているのが自分で、誰もこの現実を変える事は出来ない。
自分とは関係のないところで、恐怖や不幸に沈んでいく姿を高みの見物出来るのは本当に楽しい、ああ、零たちは常にこんな目線で騎士たちを見ていたのかと思うとぞくぞくする」
十字架に張り付けられてたようなファントム、いや、今や白銀騎士と化した凛那が剛堅の脇に着地する。兜はすっと昂我と壬剣を見つめる。
「そうだな、ルビー……いや、騎士王ナイツオブアウェイクと呼称しよう、これこそがな」