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第55話 誘拐

誘拐事件の幕開け


貴族学院の夕暮れ、学生たちが授業を終え、それぞれ帰路についていた頃、キャナルの妹であるアリアも学院の門を出た。アリアは友人たちに笑顔で別れを告げ、校門の外へ足を踏み出したその瞬間だった。


「え?」


黒い服をまとった見知らぬ男たちがアリアに近づき、一瞬の隙をついて彼女を囲んだ。アリアは驚きの声を上げる間もなく、素早い動きで連れ去られてしまった。


アリアが抵抗しようとした瞬間、鼻先に甘い香りが漂った。それは薬剤の匂いだった。脳裏に薬品の化学構造が浮かび、彼女は即座に薬の効果を理解した。


「この成分は…鎮静作用…意識を混濁させ、四時間以上は持続…」


その思考が最後だった。薬が瞬時に効き、アリアは意識を失った。



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キャナルからの報告


その頃、ミラ・アルスランド公爵令嬢は学院の授業を終え、校門を出たところだった。すると、キャナルが駆け寄り、涙ぐんだ表情でミラを掴んだ。


「ミラ様、大変なの!アリアが…アリアが誘拐されたの!」キャナルの震える声が響いた。


ミラは一瞬息を飲み、冷静さを保とうと努めながら問いかけた。「何ですって?落ち着いて、詳しく話して。」


キャナルは涙を流しながら説明を始めた。「授業が終わってから、アリアが学院を出たところを男たちに連れ去られたの!周りの人たちが助ける暇もないくらい、あっという間に…私が一緒に帰るべきだったのに…!」


「キャナル、あなたのせいじゃない。」ミラは毅然とした声でキャナルを諭した。「ここで嘆いていてもアリアちゃんは戻らない。今すぐ行動を起こしましょう。」


キャナルは涙を拭い、ミラの言葉に力を得たように頷いた。「お願い、ミラ様…アリアを助けて!」


「もちろんよ。何があってもアリアを取り戻すわ。」ミラの目に決意の光が宿っていた。



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緊急会議


ミラはセシリア、ヒルデガルド、クラリス、アリシアを呼び出し、学院の一室で緊急会議を開いた。全員が緊張した面持ちで集まる中、ミラは冷静に現状を伝えた。


「アリアちゃんが誘拐されました。私たちは全力で救出に向かいます。」


セシリアが不安そうに呟いた。「どうしてこんなことが…どうすればいいの?」


ヒルデガルドが強い口調で言う。「今は動揺している場合じゃないわ。冷静に対処するべきよ。」


クラリスも頷き、「まずは情報収集が必要ですね。犯人たちの手がかりを掴みましょう。」


ミラは頷き、指示を出した。「全員で目撃者を探し、情報を集めましょう。それから具体的な救出計画を立てます。」



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情報収集


ミラたちは現場となった学院の校門前に急行し、まだ残っていた学生たちに声をかけた。


「皆さん、アリアちゃんを助けるために協力してください。何か目撃した方はいませんか?」


少しの沈黙の後、数人の学生が手を挙げた。


「黒い服の男たちがアリア様を連れ去って、馬車で逃げました。」 「東の方向に走っていくのを見ました。」


クラリスが手をパンと叩くと、黒装束の男がどこからともなく現れ、跪いた。「お呼びですか、姫。」


「アリアが誘拐されました。不審な馬車を追跡し、情報を集めなさい。」クラリスは冷静に命じた。


「既に部下が動いております。」男は答えた。


「さすがね。引き続き追跡を。」クラリスの言葉に、男は姿を消した。


ミラは目撃者の証言をもとに分析を始めた。「手際が良すぎる…これは計画的な犯行ね。プロフェッショナルか、訓練を受けた集団の仕業に違いない。」



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囮の馬車


しばらくしてクラリスの諜報部隊の指揮官が戻り、報告を行った。「追跡中の馬車のうち4台が囮と判明しました。まだ1台が残っていますが、完全に見失いました。」


ミラはその報告を聞き、険しい表情で呟いた。「周到な計画ね…囮を複数用意しているなんて。」


セシリアが提案した。「それなら、近隣の住民や商人からさらに情報を集めましょう。犯人たちが目撃されている可能性があります。」


全員がその案に賛同し、迅速に行動を開始した。



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アリアの状況


その頃、アリアは薬の効果で深い眠りに落ちており、馬車の中で身動き一つ取れない状態だった。犯人たちは黙々と馬車を走らせ、時折互いに目配せするだけだった。


「これでうまくいくはずだ。」一人が低い声で呟く。 「間違いない。この子がいれば計画は成功する。」もう一人が答える。


アリアはその会話を聞くこともできず、無防備なまま馬車の揺れに身を任せていた。



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