公園でのひととき
アイリーンは、公園の木陰で大きく伸びをしながら歩き出した。
「うーん、やっぱり、この方が楽だわ」とつぶやく。
毎日、公爵令嬢としての堅苦しい生活に肩が凝るアイリーンにとって、こうした息抜きは欠かせない。王都の賑やかな街並みや商店の活気は、彼女にとって自由を感じさせるものだった。興味深げに店先を眺めながら歩き回るアイリーンは、少し歩き疲れるととある喫茶店に足を踏み入れた。
店内は落ち着いた雰囲気で、窓際の席に座ると、アイリーンは紅茶を注文した。
「お安いけど美味しいお茶」と一口飲んで満足そうに微笑む。
そんな穏やかな時間を楽しんでいたアイリーンだったが、店内に響く客たちの話し声が耳に飛び込んできた。
「この前起きた子爵令嬢誘拐事件、学院の聖女ミラ様が解決したらしいわよ!」
「しかも、クーデターまで企んでいた犯人を一人で全員制圧したって話よ!」
アイリーンは心の中で叫んだ。
『ええ!?そんなわけないでしょう!』
さらに続く話に、アイリーンは両耳を押さえてぷるぷる震えた。
「さすがミラ様、強くて優しくて、しかも学院では首席なんだって!」
『やめて~、恥ずかしい~!』
結局、耐えきれなくなったアイリーンは店を飛び出した。しかし、市場や公園のベンチでも同じような噂話が耳に入り、彼女の顔は次第に真っ赤になっていく。
「みんなで解決したのに、なんで私一人の手柄になってるのよ…」
そう呟きながら、アイリーンはまた次の行き先を考えた。
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偶然の再会
そんな時、突然背後から声がかけられた。
「やあ、久しぶりだね」
振り返ると、そこには騎士団員のガレスが立っていた。彼は親しげな笑顔を浮かべてアイリーンに近づく。
「君も散策中か?」
「ええ、そうよ」とアイリーンが答えると、ガレスは少し真剣な表情になり、「もしよかったら、少し付き合ってくれないかな?」と申し出た。
「はぁ?また何か事件のお手伝いでしょうか?」
アイリーンが警戒して尋ねると、ガレスは手をぷるぷると振り、「いやいや、違う。今日は久しぶりの休暇なんだ。一人だと時間を持て余してしまってな。お茶でもどうだ?俺がおごるから」と笑った。
少し迷ったアイリーンだったが、さっき喫茶店を飛び出したことを思い出し、「私でいいんですか?」と確認した。
「もちろん、この間の礼もあるし、ぜひ奢らせてくれ」
ガレスの申し出を受け、アイリーンは一緒に歩き始めた。
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二人の時間
ガレスが案内したのは、静かな路地裏にある小さな喫茶店だった。落ち着いた雰囲気の店内に足を踏み入れると、アイリーンは感心して言った。
「こんなお店を知っているなんて意外ですね」
ガレスは少し照れくさそうに笑った。
「同僚の女騎士に教えてもらったんだ。女性にはこういう場所がいいってな」
窓際の席に座ると、二人はメニューを開きながら会話を続けた。
「普段も休暇はこんな感じなんですか?」とアイリーンが尋ねると、ガレスは少し苦笑して答えた。
「まあな。一人で過ごすことが多いよ」
「彼女さんとかいないんですか?」アイリーンが何気なく尋ねると、ガレスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「いないよ。仕事が忙しいし、そんな時間もないからな」
「ガレスさんってモテるんじゃないですか?格好いいし、人気ありそうなのに」とアイリーンが言うと、ガレスは手を振って否定した。
「いやいや、全然そんなことない。ただの騎士だよ」
アイリーンは心の中で思った。
『確かに見た目はいいけど、怖いからなぁ…』
ガレスはふとアイリーンを見つめ、「君はどうなんだ?」と尋ねた。
「え?何がですか?」
「恋人とかいるのか?」
アイリーンは咄嗟に婚約者候補の三馬鹿王子の顔を思い浮かべたが、すぐに首を振ってその考えを打ち消した。
「いません!全然いません!」と焦った様子で答えた。
ガレスはその反応に微笑みながら言った。
「それなら良かった。君が誰かと付き合っていたら、その相手が嫉妬するかもしれないからな」
アイリーンは驚きの表情を浮かべながらも、少し安堵の笑みを返した。
「何それ、変な冗談…」
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二人の連携
その後、広場で布教活動をしている少女が不審な集団に襲われそうになる場面に出くわした二人は、即座に協力して行動に出た。
「アイリーン、少女を守れ!」
ガレスが叫びながら剣を抜き、アイリーンは少女をかばうために駆け寄った。
ガレスは見事な剣技で敵を制圧し、アイリーンも冷静に少女を守りきった。
事件が一段落すると、二人は改めて協力し合ったことを確認し、次の手を探ることを約束した。
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微妙な距離感
その日、二人が築いた連携と信頼はさらに深まったように思えたが、どこか微妙な距離感が残るのも事実だった。
「またこうして一緒に行動する日が来るかもしれないな」とガレスが言うと、アイリーンは少し照れくさそうに答えた。
「その時は、よろしくお願いしますね」
二人の関係は、まだどこか曖昧で微妙なバランスの上に成り立っている。それでも、お互いに感じた信頼と尊重は確かなものであり、未来への可能性を秘めているようだった。
前日談1:ガレスとエレナの会話
その日の訓練を終えたガレスは、女騎士エレナに話しかけた。
「エレナ、少し時間をもらえるか?」
「はっ!何かご用でしょうか、ガレス様」
エレナは、普段ガレスから剣術について教えを請うことが多かった。しかし、今回の様子は少し違う。ガレスが何かを頼むのは珍しいことで、彼女は少し驚いた表情を浮かべた。
「実は、教えてほしいことがある」
「え?ガレス様が私に?何でしょうか?」
ガレスは少し言いにくそうに言葉を選びながら続けた。
「女性に人気のあるカフェを教えてほしい」
「…はい????カフェ、ですか?」
エレナは完全に想定外の質問に目を丸くした。
「そうだ。頼む」
「えーと、それってデートのためですか?」
ガレスは慌てて手を振り否定した。
「そんなのではない!」
「でも、一人で行くわけじゃないんですよね?」
「まあな」
「恋人さんですか?」
「そんなんじゃない!」
エレナは怪訝そうな顔で腕を組むと、じっとガレスを見つめた。
「じゃあ、どんな人なんです?」
「どうでもいいだろう」
「どうでもよくありません!相手がどんな人か教えてくれないと、お店なんて教えませんよ!」
ガレスは深いため息をつき、しぶしぶ答えた。
「知り合いだ」
「どんな知り合いです?」
「街で時々会う程度の、ただの知り合いだ」
「じゃあ、デートに誘ったんですね?」
「誘ってない!」
「じゃあ約束したんですか?」
「約束もしていない」
「はぁ?それって次に会えるんですか?」
「わからんが、また会えるような気がするんだ」
エレナは呆れたように肩をすくめた。
「それ、大丈夫ですかね…」
最終的に、エレナはガレスにカフェを教えることにした。
「とりあえず、女性に人気がある落ち着いたお店を教えますけど、ガレス様、ちゃんと相手の方に失礼のないようにしてくださいよ」
「ああ、感謝する」
ガレスは満足げにエレナに礼を言い、ご機嫌でその場を去っていった。
エレナはその姿を見送りながらつぶやいた。
「一目惚れかな…。でも、ちゃんと会えるのかしら?」
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後日談1:再びエレナとガレスの会話
訓練が終わった後、エレナがガレスに話しかけた。
「ガレス様、どうでした?」
「何のことだ?」
「この前教えたカフェ、行ったんでしょう?お相手には会えたんですか?」
ガレスは少し間を置いて答えた。
「ああ、会えた。けど、別にデートじゃない。ただお茶を飲んで少し一緒に歩いただけだ」
エレナは思わず吹き出しそうになりながら言った。
「それ、立派にデートですよ!」
「そうなのか?」
「そうですよ!そんなことも知らないんですか?」エレナは呆れたように言ったが、続けて真剣な表情になった。
「でも、ガレス様。逃がしちゃダメですよ。その方とデートしてくれるなんて、他にいませんから!」
「どういう意味だ?」
「だって、ガレス様は目付きが鋭いから怖いんです。普通の人はみんな逃げちゃいますよ!」
ガレスは少し考え込んでしまった。
「俺は怖いのか…」
「良く言えば、迫力があるってことです!」
「ふむ、そうか」
エレナはガレスを励ますように笑いながら言った。
「頑張ってくださいね!私も応援してますから!」
ガレスはその言葉に深く感謝しながら、自分の行動を見直すことを決意した。
後日談2:ミラとゼクスの会話
「しろがね様を邪神って呼ぶ教団があるらしいけど、どう思う、ゼクス?」
ミラは頭の中でゼクスに話しかけた。
ゼクスは即答した。
「わからん。」
ミラは苦笑しながら言った。
「でしょうね。」
ゼクスは続けて話す。
「君たち人間が私を理解できないのと同じように、私も君たち人間のことを理解できないことがある。」
ミラは少し驚きながらも、さらに尋ねた。
「そうなの?」
ゼクスは冷静に答えた。
「例えば、君たちが夢中になっているラノベというものだ。それが全く理解できない。」
ミラは心の中で苦笑しつつ、さらに問いかけた。
「ラノベのどこが理解できないの?」
「現実でない空想に夢中になるところだな。現実逃避というならまだ理解できる。しかし、君たちは、そうした弱い存在ではないと知っている。それなのに、なぜそんなにも熱中するのかがわからない。」
ミラは少し考え込んでから答えた。
「それはね、物語が私たちの心を豊かにしてくれるからよ。現実では経験できない冒険や恋愛、友情を体験できる。それが私たちにとってとても大切なことなの。」
ゼクスはしばらく黙った後、静かに言った。
「理解はできないが、君たちにとって大切なものだということはわかった。」
ミラは優しく微笑みながら答えた。
「それだけわかれば十分よ、ゼクス。」
ゼクスはその言葉に満足したのか、それ以上何も言わなかった。ミラはゼクスとの会話を思い返し、彼の存在が自分にとってどれほど特別で安心感をもたらしているかを改めて感じた。そして、これからもこの対話を大切にしようと心に誓った。