王都の新たな波乱
王都の穏やかな昼下がり、貴族学院のカフェテリアで、ミラとその友人たちがいつものテーブルを囲んでいた。陽光が窓から差し込み、談笑する彼女たちを優しく照らしている。
ミラが一枚の封筒を取り出し、周囲に見せながら口を開いた。
「ねえ、辺境伯様からパーティーの招待状が来たのだけれど、みなさまも招待されていらっしゃる?」
ヒルデガルトが頷きながら答える。
「家にも来たわ。」
「私もよ。」クラリスが続ける。
「私もです。」セシリアも微笑みながら封筒を掲げた。
クラリスが優雅に説明する。
「あの子爵令嬢誘拐事件に功績のあった者全員が招待されたようですわ。」
アリアの能力と存在は極秘事項であり、事件は「子爵令嬢誘拐事件」として一般的に知られているが、その詳細は伏せられていた。
セシリアが少し首をかしげながら言った。
「だけど、王都邸落成記念って、辺境伯ほどの方が今まで王都邸をお持ちになっていなかったなんて意外ですわ。」
クラリスが冷静に答える。
「辺境伯は、辺境にあって国境を守ることが信念で、王都にいたのでは役目を果たせないと考え、これまで王都邸を持っていなかったのです。」
その言葉にアリシアが感心して言った。
「クラリス様は本当に情報通でいらっしゃるのね。」
セシリアがさらに興味津々の表情を浮かべて問いかける。
「では、なぜ、今になって王都邸を?」
クラリスは少し微笑んで答えた。
「辺境伯様にとって、王都にいたいと思う理由ができたのですわ。」
セシリアが身を乗り出して言う。
「その理由とは?」
クラリスが意味ありげに微笑みながら答えた。
「それは、ある方がとても気になっているからですのよ。そのお方がいる王都にとどまりたいのだとか。」
「あるお方?」セシリアがさらに問い返す。
クラリスはわずかに間を置いて、全員を見回しながら答えた。
「もちろん、ここにいる中の一人ですわ。」
その瞬間、全員の視線が一斉にミラに向けられた。
「えええ?それって、ただのうわさですわよね?」ミラは顔を赤らめ、慌てて手を振る。
クラリスが薄く笑みを浮かべながら言った。
「いえいえ、確かな筋の情報ですのよ。それも裏付けまで取れております、ねえ、ハンゾウ。」
その言葉と同時に、どこからともなくアーバンフェイム諜報機関の特捜部隊長ハンゾウが姿を現し、ひざまずいた。
「御意。辺境伯様が王都にとどまる理由は間違いございません。」
ミラは目を見開き、抗議の声を上げた。
「ク、クラリス様!そのようなことに諜報機関を使わないでください!」
クラリスは平然と微笑みながら応じる。
「あら、むしろ動かすべき重要な案件ですわ。何しろ、王国の重鎮である辺境伯様がご結婚されるとなれば、王都中どころか王国全体に影響を及ぼす大きな問題ですもの。」
「それに、お相手によっては、さらに大きな変化をもたらしますわね。情報を耳に入れておくのは当然のことですわ。」クラリスは楽しげに続けた。
ミラはますます顔を赤くして言い返す。
「そ、そんな噂、信じないでください!それに、私は何も知りません!」
友人たちは微笑みを浮かべながらミラをからかい始めた。ヒルデガルトが茶目っ気たっぷりに言う。
「でも、もし本当にそうだったら、ミラ様は王国のヒロインですわね。」
セシリアも続ける。
「さすがはミラ様、学院の誇りですわ。」
「も、もう、やめてください!」ミラは恥ずかしさに耐えきれず、顔を両手で隠した。
カフェテリアには笑い声が響き渡り、ミラと友人たちのいつもの日常が繰り広げられていた。しかし、ミラはその一方で、辺境伯の真意を全く知らず、内心では少しだけ落ち着かない気持ちを抱えていたのだった。
こうして、学院生活に新たな波乱が訪れる兆しが見え始めていた。