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第63話 辺境伯の招待

辺境伯フォルスト侯爵の招待


王都に新たに建設された辺境伯フォルスト侯爵の邸宅で、華やかなパーティーが開催されるという知らせが貴族たちの間を駆け巡った。フォルスト侯爵は、その卓越した武勇と知性、そして抜群の容姿で知られ、独身ながら貴族令嬢たちから絶大な人気を誇る人物だった。しかし、これまで彼が特定の女性に興味を示したことはなかった。


そんな彼の招待を受け、ミラも邸宅を訪れることとなった。パーティー当日、彼女が到着すると、その豪華な装飾と洗練された雰囲気に思わず息をのむ。広大な庭園に面したホールでは、煌びやかな衣装に身を包んだ貴族たちが談笑し、音楽が軽やかに流れていた。


談笑のひととき


ミラはすぐにヒルデガルトやクラリスを見つけ、彼女たちと合流した。

「ねえ、ミラ様。この邸宅、本当に素敵ね。まるで宮殿みたい」とヒルデガルトが言うと、クラリスが微笑みながら答える。

「ええ、さすがは辺境伯様ね。王都にこれほどの邸宅を建てるとは、さすがだわ。」


「本当に。でも、これだけの人の前で話すなんて少し緊張するわ」とミラが肩をすくめると、クラリスは励ますように言った。

「大丈夫よ、ミラ様。あなたなら堂々と振る舞えるわ。」


その時、背後から落ち着いた声が聞こえてきた。

「ミラ様、ヒルデガルト様、クラリス様。お楽しみいただけていますか?」


振り返ると、そこにはフォルスト侯爵が立っていた。その端正な顔立ちと穏やかな笑みは、周囲の視線を一身に集めていた。

「フォルスト侯爵様、お招きいただきありがとうございます」とミラが礼儀正しく挨拶すると、侯爵は軽く頭を下げて微笑む。

「こちらこそ、遠路お越しいただき光栄です。」


特別な会話


フォルスト侯爵は貴族令嬢たちに挨拶するふりをしながらも、明らかにミラに特別な関心を向けていた。

「ミラ様、よろしければ少しお話ししませんか?」


突然の誘いに驚きながらも、ミラは頷いた。「もちろんです、フォルスト侯爵様。」


二人は会場の一角に移動し、静かに話し始めた。フォルスト侯爵は落ち着いた口調で、先日の子爵令嬢誘拐事件の解決について切り出す。

「ミラ様、あの事件でのご活躍には感銘を受けました。特に、冷静な判断力とリーダーシップは目を見張るものでした。」


ミラは少し照れながらも答えた。

「ありがとうございます、フォルスト侯爵様。でも、あれは私一人の力ではなく、皆の協力があってこその成果です。」


侯爵は深く頷き、優しい眼差しで続けた。

「もちろん、それは承知しております。しかし、指揮を執る者の判断が正しいからこそ、皆がその力を発揮できるのです。」


その言葉にミラはほっと息をつき、微笑みを返した。「そう言っていただけると嬉しいです。」


優雅なダンス


音楽が流れ、ダンスの時間が訪れる。フォルスト侯爵はミラに向かって手を差し出し、紳士的に尋ねた。

「ミラ様、このダンスを私と踊っていただけますか?」


その申し出に驚きながらも、ミラはその手を取り、微笑みながら応じた。「喜んで、お相手させていただきます。」


広いダンスフロアで二人は優雅なワルツを踊り始めた。フォルスト侯爵のリードは見事で、ミラは彼の腕の中で自然と軽やかにステップを踏んだ。その姿に周囲の人々も見惚れ、会場全体が彼らに注目していた。


「ミラ様、あなたのダンスは本当に美しい」とフォルスト侯爵は微笑んで言った。


ミラは少し照れながらも答えた。「ありがとうございます。侯爵様のリードが上手だからですわ。」


月明かりの庭園


ダンスが終わると、二人は人目を避けるように庭園へと向かった。静かな月明かりが庭園を照らし、二人だけの時間が流れる。


フォルスト侯爵は少し真剣な表情になり、ミラに向き直った。

「ミラ様、あなたとこうして話すことができ、とても嬉しく思います。これからも、ぜひお会いできる機会を増やしたいと思っております。」


その言葉にミラは一瞬驚いたものの、すぐに微笑んで答えた。

「光栄です、フォルスト侯爵様。」


月明かりの下、二人の会話は深まり、特別な絆が静かに紡がれていった。この夜、辺境伯の邸宅は新たな物語の舞台となり、ミラの心にも一つの変化が芽生え始めていたのだった。



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