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記憶と神巡る『平安』物語
記憶と神巡る『平安』物語
はる
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年04月25日
公開日
1,446字
連載中
時は平安時代……壇ノ浦の戦の場面から始まる。 いよいよ源平合戦が終局を迎え、平家一門が滅びようとする、その時。 平氏の指揮を執っていた平知盛が海に沈みゆく中聞いたのは、不思議な声だった。 『……時に、この世界の先のどこかには、ふぁんたじぃな世界があるようじゃが』 「……ふぁん、た……なんだって?」 『次はその世界へ生まれ落つる可能性が高いようじゃよ。じゃけぇ、そぉじゃな……そこでの貴殿の氏は【伊月】でええかの。俺がお主だと、分かるように』 「……ええかのと言われても」 半ば意味不明だが、この先に待つのは滅亡と再生を繰り返した果ての世界……『疑似平安時代』と呼ばれる世界だった。 この世界の言い伝えでは、『神が顕現する』そして……時々、『前世の記憶を持ったまま生まれる人がいる』世界だという。 そしてその世界では。 この世界で「僕」こと【伊月 晃】は、前世の記憶が一切ない、ごく普通な中学生として生活をしていた。……が、時折ひっかかる記憶と、この地に根付いた平氏への関心の高さ、そして目の前に現れた同年代と思われる不思議な少年との出会い等によって、少しずつ自分の前世に関心を持つようになる。 自分や近しい人たちとの前世でのつながりは一体どのようなものだったのだろうか。 また、この不思議な少年の正体とは……。 記憶と神の存在をめぐる、平安時代な転生×歴史ファンタジー、ここに開幕します。 ※所々歴史上人物や史実等時代背景描写も出てきますが、事実と関係ない場合も多く、またファンタジー色が強めのフィクション作品となります。苦手でなければ、ぜひお付き合いいただけましたら幸いです。 何卒よろしくお願いいたします。

第零話 壇ノ浦の戦……い?

- 西暦1185年3月24日 平安時代末期 …… 壇ノ浦 -



「もはや、これまでか」



長い源平合戦が終局を迎える。平氏は敗れるのだ。

私……平知盛たいらのとももり安徳あんとく天皇の乗る御座船に乗り移って最期の掃除をする。平氏の棟梁である、兄・平宗盛たいらのむねもりに任され軍の指揮を執ったが、陸と海から追い込まれた我らに道は無い。船に乗る女房に話しかけられる。



「知盛殿。何をしておいでですか」

「見苦しいものはすべて海の中へお投げ入れください」

「戦の、様子は」

「はは、珍しい東の国の男源氏の武士がご覧いただけますよ」

「何を……御冗談を」



安徳天皇を見る。彼はまだ8つ。あまりに幼い崩御である。

幼い彼は祖母・二位尼にいのあまに抱かれながら最期の時を彼女に尋ねる。



「どこへゆくのですか」

「……波の下にも、極楽浄土と呼ばれる素晴らしい都が御座います。そこへ、お連れするのですよ」



死期と知り、涙ながらに答える二位尼の言葉を、どれほど理解できたのだろう。幼い彼は、伊勢神宮の方へ頭を下げ、西方浄土のある西へ手を合わせると、二位尼に抱かれたまま海の中へ消えてゆく。




……これで、終わりだ。




「知盛殿」




そう、私に話しかけるのは乳兄弟の平家長たいらのいえなが。彼奴も一族の最期を悟っているのであろう。……この時が来てしまったのだ。

私は言う。




「見届けるべきことはもうすべて見届けた。 このあと、何を期待することがあろうか」



……



「逝くぞ」




浮き上がらぬようにと鎧二枚を羽織り、家長と共に入水を決する。重い鎧はこの身を海へ海へと沈めてゆく。

これで、いいのだ。

源義経みなもとのよしつね。自分たち平氏一門を滅亡へ追い込んだ、あの者は。

……思う所は色々とあるが、もう多くは語るまい。



……



だんだんと海面が遠くなる。息が、できない。




意識が、薄れていく。





すべてが、終わり、なのだ




……





『平殿』




……?




『おーい、平知盛どのー』




……誰だ




『お、まだ意識があった。まぁこの際誰でもえかろう、そんなこまいこと。この戦い、始終見届けたぞ』




……なんと大雑把な。私はこの期に及んで夢でも見ているのか。

だが、この声は誰なのだ




『この世に、未練は』




私だけ生き延びても意味がなかろう




『ほぉ。潔いな』




一族は……ここで皆、共に滅びるのだ




『海に生きた平氏一門が海に没するとはな』




……




『この、瀬戸内の海は、………。まぁ、良い。俺もお主らにはちぃとばかし思い入れがあるけんこうして最期に会いに来たのじゃ。……時に、この世界の先のどこかには、ふぁんたじぃな世界があるようじゃが』




……ふぁん、た……なんだって?




『ファンタジー。つまりは空想世界じゃな。崩壊と再生を繰り返した先に、今のこの時代と似た世界があるんだと。次はその世界へ生まれ落つる可能性が高いようじゃよ。じゃけぇ、そぉじゃな……そこでの貴殿の氏は【伊月いつき】でええかの。俺がお主だと、分かるように』




……ええかの、と言われても




『ははっ、決まりじゃな。そう、伝えとくけん。この世界じゃ俺にもできることが限られとるけど、その特殊な世界ならまた別かもの。まぁお主も新たに生を受けたからと言うて、今の記憶が残っとるとも、家族兄弟近しい者がまた一緒になるとも限らんがな。じゃが、こうして会いに来られたんは、先程も言うたように、たまたまお主がこの海で命尽きることとなったが故じゃ。俺はお父上の清盛きよもり殿には会えんかったけん心残りだったんよ。

……それから、潮の流れと戦局。海で栄えた平一族が……お主にも分かっておったんじゃろ。まぁ色んな見解で語り継がれるんじゃろうよ。

じゃあの、知盛殿。そろそろ時間じゃ。今度はきちんと人の姿で会いに行くけん。ゆるりとお休みよ』

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