- 西暦1185年3月24日 平安時代末期 …… 壇ノ浦 -
「もはや、これまでか」
長い源平合戦が終局を迎える。平氏は敗れるのだ。
私……
「知盛殿。何をしておいでですか」
「見苦しいものはすべて海の中へお投げ入れください」
「戦の、様子は」
「はは、珍しい
「何を……御冗談を」
安徳天皇を見る。彼はまだ8つ。あまりに幼い崩御である。
幼い彼は祖母・
「どこへゆくのですか」
「……波の下にも、極楽浄土と呼ばれる素晴らしい都が御座います。そこへ、お連れするのですよ」
死期と知り、涙ながらに答える二位尼の言葉を、どれほど理解できたのだろう。幼い彼は、伊勢神宮の方へ頭を下げ、西方浄土のある西へ手を合わせると、二位尼に抱かれたまま海の中へ消えてゆく。
……これで、終わりだ。
「知盛殿」
そう、私に話しかけるのは乳兄弟の
私は言う。
「見届けるべきことはもうすべて見届けた。 このあと、何を期待することがあろうか」
……
「逝くぞ」
浮き上がらぬようにと鎧二枚を羽織り、家長と共に入水を決する。重い鎧はこの身を海へ海へと沈めてゆく。
これで、いいのだ。
……思う所は色々とあるが、もう多くは語るまい。
……
だんだんと海面が遠くなる。息が、できない。
意識が、薄れていく。
すべてが、終わり、なのだ
……
『平殿』
……?
『おーい、平知盛どのー』
……誰だ
『お、まだ意識があった。まぁこの際誰でもえかろう、そんなこまいこと。この戦い、始終見届けたぞ』
……なんと大雑把な。私はこの期に及んで夢でも見ているのか。
だが、この声は誰なのだ
『この世に、未練は』
私だけ生き延びても意味がなかろう
『ほぉ。潔いな』
一族は……ここで皆、共に滅びるのだ
『海に生きた平氏一門が海に没するとはな』
……
『この、瀬戸内の海は、………。まぁ、良い。俺もお主らにはちぃとばかし思い入れがあるけんこうして最期に会いに来たのじゃ。……時に、この世界の先のどこかには、ふぁんたじぃな世界があるようじゃが』
……ふぁん、た……なんだって?
『ファンタジー。つまりは空想世界じゃな。崩壊と再生を繰り返した先に、今のこの時代と似た世界があるんだと。次はその世界へ生まれ落つる可能性が高いようじゃよ。じゃけぇ、そぉじゃな……そこでの貴殿の氏は【
……ええかの、と言われても
『ははっ、決まりじゃな。そう、伝えとくけん。この世界じゃ俺にもできることが限られとるけど、その特殊な世界ならまた別かもの。まぁお主も新たに生を受けたからと言うて、今の記憶が残っとるとも、家族兄弟近しい者がまた一緒になるとも限らんがな。じゃが、こうして会いに来られたんは、先程も言うたように、たまたまお主がこの海で命尽きることとなったが故じゃ。俺はお父上の
……それから、潮の流れと戦局。海で栄えた平一族が……お主にも分かっておったんじゃろ。まぁ色んな見解で語り継がれるんじゃろうよ。
じゃあの、知盛殿。そろそろ時間じゃ。今度はきちんと人の姿で会いに行くけん。ゆるりとお休みよ』