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第十六話 関係

 目の前の眞城くんは眉を顰めて、えー……という顔をしている。



「なんでそうなるんだよ……ちょっと、短絡的すぎない?」

「……だって」

「僕が言ったのは、君だってちびだろってこと」

「……!」



 ちびにちびと言われたくは無い。……が、どんぐりの背比べとはこういうことなのだろう。僕は思わずぐぬぬ、という表情のまま何も言えなくなる。

 眞城くんはそんな僕を上目づかいで見ながら、小首をかしげ、覗き込むようにして話す。



「本当に記憶、ないんだね」

「……」

「教えてあげる。は、僕」

「……!」

「それで、君は……」



 ジリリリリリリリリリ……ッ



「 「……!」 」



 眞城くんがそこまで言ったところで、再び海の方で警報が鳴り響く。これは……海が荒れていること知らせる警報だ。もしかしたら、魔物も出現しているかもしれない。警報に続いて「高波が来とる!  危ないけぇ全員避難ー!」という声が聞こえてきた。



「……っ、また!?」

「最近魔物が活発化してるらしくて」

「……!」

「僕は討伐に行くけど、伊月くんは避難して」

「そんな」

「昨日もだったでしょ」

「……っ」



 もっともだ。昨日も僕は、足手まといだった。

 ……だけど……、



 ……。



 何も言い返せない。僕が行ったところで、できることなんかきっと何もない。その言葉にぐっと思いとどまる僕に、眞城くんは挑戦的な笑みを浮かべながら言い放つ。



「戦いたいなら、君も早く元服しちゃえば」

「……」

「それで、今世は僕を討ってみせてよ。平知盛たいらのとももりさん」





◇ ◆ ◇





 平、知盛。……僕が?

 平知盛って、だって……平家の武将で、宗盛の、弟で……軍を、指揮……



 ……



 ……今までのは確かに、全部平知盛に当てはまる。

 前世の記憶を持つ人の記憶が流れ込んでくるんじゃなくて、これは、僕が持つ前世の記憶ってこと?



 ……



 ……



 ……でも、本当に?

 本当に、僕の前世は平家の武将なの???

 突然そんなことを言われても今一つピンとこない。

 だけど混乱したままの僕を置いて、眞城くんはどこかへ去っていこうとしてしまう。



「じゃあね、伊月くん。僕は行くから」

「行くって……そっちは海の方じゃないけど」

「この辺は朝霞くんの担当だから」

「……!」

「僕、あの人苦手なんだよね、怖くてさ。昨日も僕がこの辺の魔物討伐しちゃったから『身に覚えのない賞与なんか受け取れない』って言って怒ってたし」

「……そういうことだったんか」



 少しずつ、いろんなことが繋がってくる。じゃあ、改めて、朝霞くんは誰の記憶を持つのだろう。

 ……だけど、噂をすれば、だ。



「そこにおるんは眞城か!?」



 少々怒気を含んだ声でこちらへ走ってくる朝霞くんを見て、眞城くんは言わんこっちゃない、という顔をする。



「それじゃ」

「あっ、眞城くんっ……」



「眞城ォ! 待てや!!」



 なんなんだ、この三角関係みたいな構図は。

 颯爽と去っていく眞城くんを、朝霞くんが追いかけようとするのを、僕が止める。



「待ってよ朝霞くん!」

「伊月ィ! そうやって俺を止めようとするんか!?」

「っ、そうだよ!」



 僕は小さい体で、でかい体の朝霞くんの腕を掴み、全力で引き留める。前世云々いうよりは、僕自身が一番、まだ前世を信じられていないからかもしれないけれど……とにかく、ここで争うのはまずい気がした。前世関連となれば、尚更である。

 だけど、朝霞くんも留まろうとはしない。



「離せ……っ! あいつ義経を討つんが俺の使命なんじゃ!」

「なんで……それは前世の話じゃろ!?」



 朝霞くんと取っ組み合いになる中、僕は急に頭がぎゅっと痛み出すような感覚に襲われる。……僕の頭の中に、本日二度目となるの記憶が流れこんできたのだ。



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