目の前の眞城くんは眉を顰めて、えー……という顔をしている。
「なんでそうなるんだよ……ちょっと、短絡的すぎない?」
「……だって」
「僕が言ったのは、君だってちびだろってこと」
「……!」
ちびにちびと言われたくは無い。……が、どんぐりの背比べとはこういうことなのだろう。僕は思わずぐぬぬ、という表情のまま何も言えなくなる。
眞城くんはそんな僕を上目づかいで見ながら、小首をかしげ、覗き込むようにして話す。
「本当に記憶、ないんだね」
「……」
「教えてあげる。
「……!」
「それで、君は……」
ジリリリリリリリリリ……ッ
「 「……!」 」
眞城くんがそこまで言ったところで、再び海の方で警報が鳴り響く。これは……海が荒れていること知らせる警報だ。もしかしたら、魔物も出現しているかもしれない。警報に続いて「高波が来とる! 危ないけぇ全員避難ー!」という声が聞こえてきた。
「……っ、また!?」
「最近魔物が活発化してるらしくて」
「……!」
「僕は討伐に行くけど、伊月くんは避難して」
「そんな」
「昨日も
「……っ」
もっともだ。昨日も僕は、足手まといだった。
……だけど……、
……。
何も言い返せない。僕が行ったところで、できることなんかきっと何もない。その言葉にぐっと思いとどまる僕に、眞城くんは挑戦的な笑みを浮かべながら言い放つ。
「戦いたいなら、君も早く元服しちゃえば」
「……」
「それで、今世は僕を討ってみせてよ。
◇ ◆ ◇
平、知盛。……僕が?
平知盛って、だって……平家の武将で、宗盛の、弟で……軍を、指揮……
……
……今までのは確かに、全部平知盛に当てはまる。
前世の記憶を持つ人の記憶が流れ込んでくるんじゃなくて、これは、僕が持つ前世の記憶ってこと?
……
……
……でも、本当に?
本当に、僕の前世は平家の武将なの???
突然そんなことを言われても今一つピンとこない。
だけど混乱したままの僕を置いて、眞城くんはどこかへ去っていこうとしてしまう。
「じゃあね、伊月くん。僕は行くから」
「行くって……そっちは海の方じゃないけど」
「この辺は朝霞くんの担当だから」
「……!」
「僕、あの人苦手なんだよね、怖くてさ。昨日も僕がこの辺の魔物討伐しちゃったから『身に覚えのない賞与なんか受け取れない』って言って怒ってたし」
「……そういうことだったんか」
少しずつ、いろんなことが繋がってくる。じゃあ、改めて、朝霞くんは誰の記憶を持つのだろう。
……だけど、噂をすれば、だ。
「そこにおるんは眞城か!?」
少々怒気を含んだ声でこちらへ走ってくる朝霞くんを見て、眞城くんは言わんこっちゃない、という顔をする。
「それじゃ」
「あっ、眞城くんっ……」
「眞城ォ! 待てや!!」
なんなんだ、この三角関係みたいな構図は。
颯爽と去っていく眞城くんを、朝霞くんが追いかけようとするのを、僕が止める。
「待ってよ朝霞くん!」
「伊月ィ! そうやって俺を止めようとするんか!?」
「っ、そうだよ!」
僕は小さい体で、でかい体の朝霞くんの腕を掴み、全力で引き留める。前世云々いうよりは、僕自身が一番、まだ前世を信じられていないからかもしれないけれど……とにかく、ここで争うのはまずい気がした。前世関連となれば、尚更である。
だけど、朝霞くんも留まろうとはしない。
「離せ……っ!
「なんで……それは前世の話じゃろ!?」
朝霞くんと取っ組み合いになる中、僕は急に頭がぎゅっと痛み出すような感覚に襲われる。……僕の頭の中に、本日二度目となる