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第十一話 元服

「またそんなめちゃくちゃなことを……」

「俺は本気やぞ」

「……」



 どうしよう。そもそも勝手に元服するなんて……

 だけど、やるしかない。



「わかった、元服する。どうしたらいいん」

「ちゃんとしたのは天皇様の前でやるとして。お前の前世の記憶は」


 僕は一度大きく深呼吸をする。


「僕の前世の記憶は、『平知盛たいらのとももり』、平氏最後の軍を指揮した武将」

「平……知盛」



 ……平知盛。帰ったらきちんと調べなくては。それから、元服についても。今一つ、こう言いながらもピンと来ていない自分がいる。

 だけど目の前の朝霞くんは、僕が思っていた以上に驚いている。



「平の誰かとは思よったけど……伊月、ほんまに知盛なん……?」

「……多分」



 「ほんまに?」と聞かれると、自信がなくなるのは人間の性なのかもしれない。だけどそこに、聞き覚えのある声が降って来た。



「おぉ、伊月くん。元服するんか。ほんまは昨日するかと思おとったけど、まさか義経のために元服するとはのぉ。どれ、俺が元服親になったろか?」



 ゆったりとした声と共にひらりとやってきたのは、昨日の神官さん……秋宮くんだった。



「秋宮くん!? なぜここに?」

「ずっといたが?」

「えっ、いつから?」

「んーお主が眞城くんを見つけたところから」

「割と最初からおったん!?」



 全然気が付かなかった。というか。



「なんで……」

「まぁそもそも、俺は君との前世の約束を果たしに来たんじゃが」

「……?」

「でも昨日になってようやっと記憶が戻ってきたということは、もうちょいかかるというところかの」

「……」



 半分くらい何を言っているのかわからなかったけれど、僕以上に驚いていたのは朝霞くんだった。



「秋宮さん……伊月は、ほんまに知盛なんですか」

「いかにも」

「伊月が……だったんかぁ」

「……!?」



朝霞くんは今までの剣幕とは打って変わって、嬉しそうに僕の肩をがしっと掴む。まだほんの一部しか記憶が戻っていない僕は、まだこの状況を理解できていないし、朝霞くんが秋宮くんと知り合いだったことにも驚きを隠しきれない。



「???」

「伊月くんがどこまで思い出しとるんかわからんが、平知盛と教経は従兄弟いとこだったんよ」

「従兄弟」

「『兄者知盛の指揮で教経が戦えば、平家は無敵だ』と。栄華を極めた平家の雲行きが暗転する中、それでもこの人なら再起を図れるのではと……俺は兄者にどこまでもついていこうと思った」

「……」

「結局、壇ノ浦で共に滅びることとなったが、それでもまたこうして出会えたんは、何かしらの縁があるんじゃないかって。……覚えとらんの?」

「……ごめん、まだ、そこまでは」

「そぉかぁ~」



 朝霞くんは少々残念そうな顔をするが、思い出せないものは仕方がない。だけど秋宮くんが「時に」と割って入る。



「魔物は討伐しに行かんでええんか」

「 「あ」 」



そうだった。こんなことをしている場合ではない。



「伊月くんの元服については、その前世の記憶に於いて、俺がそれを認めよう」

「……!」

「じゃが、形式的なものと刀はまた後日天皇様の元で賜りんさい。今日は朝霞くんの活躍を見してもらおうかの」



 少々残念なような気もしたが、この言葉に驚いたのは朝霞くんだ。だけど朝霞くんはその意味を解っていたのかもしれない。



「それは……ということですか」

「いつも通りで構わんよ。俺が見たいだけじゃけん」

「でも、俺はまだ……」

「『兄者の指揮で俺が戦えば、平家は無敵だ』と。先ほど言うておったではないか」

「……!」

「貴殿の刀は、ずっと大事に守って来たけん、安心しぃ。貴殿の兄者はここにおるんじゃし、平家最強と謳われた平教経殿なら大丈夫じゃろ」

「……それは」

「【友成ともなり】も、そろそろ主の下に帰りたいのでは」

「……」



 【友成】……かつてとされる太刀で、現在は国宝に指定されていたはず。そうか……朝霞くんが賞与の国宝、と言っていたのは太刀・友成のことだ。でも……改めて、秋宮くんって何者なんだ? 神様かと思っていたけれど、天皇家とも関係があるってこと??

 秋宮くんをじっと見据えていた朝霞くんは、何か、覚悟を決めたような顔をする。



「わかりました。俺に、やらせてください。だけど伊月にも一緒に来てもろうてもええですか」

「かまわんよ」



 えっ、と思ったのは僕だ。でも、二人ともそんなの当たり前じゃろ、という顔をしている。



「頼んだで、指揮官知盛殿

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