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第十五話 閑話 ― 眞城


◇ ◆ ◇


- 眞城家 -


 はシャワーで念入りに身体を洗い、魔物の返り血が残っていないかを確認する。自分の肌の白さは義経と同じなのだろうかと、時々思う。湯に浸かるもなんとなく落ち着かず、さっさと出て薄い寝間着に着替える。長時間湯に浸かっていたわけでもないのに体が火照り、じんわりと汗がにじむ。

 部屋に戻ると、本日討伐に使用した二振り……今朝拝受したばかりの太刀・薄緑うすみどりと、守り刀である短刀・今剣いまのつるぎをきちんと手入れし、薄緑は壁際に、今剣は枕元に丁寧に置いた。これらは、かつて源義経が使っていた刀だとされている。

 手入れを終えると布団に入り、今日のことを振り返る。

 平氏と源氏の記憶を持つ者の共闘……か。


 ……


 ……。



 後、の前世はどうなったか。幼い帝をお救いすることはできず、三種の神器のうちの草薙剣くさなぎのつるぎは海の底に沈み、もう二度と見つかることはなかった。



 平氏討伐を、よくやったと褒める者もいた。

 ……だけど帝と三種の神器さえ戻れば、平氏を滅ぼす必要なんかなかったと言う者もいた。非戦闘員である水夫かこを討ったことも、非道だと。



 ……だが、これは、戦だ。時には非情にならねばならない時もある。



 ……。



 平氏を滅ぼす必要なんてなかった?

 ……まさか。彼らは父の仇じゃないか。

 もしそれが正しかったとして、今更にできることなんか、何もない。手段ヲ選バナクテ? 命ヲ奪ッテゴメンナサイ? それは、違う。あれは各々の義をかけた戦。贖罪なんか、彼らにも、にも失礼だろう。そもそも平清盛公に討たれた源義朝の敵討ちをしたいと思ったことが、すべての事の発端だった……はず。そうして打倒平氏と挙兵した、頼朝に自分の全てを捧げたのだ。だけどこれが記憶なのか、現世で歴史を学ぶ中で得た知識なのか、時々よくわからない。

……どちらにせよ僕は、彼ら平氏の前では堂々としていなければならない。



 あの奇襲も、奇策も、強行も。全ては義のため……兄・鎌倉殿頼朝のため。



 ……



 だけど平氏討伐後は様々なことが重なる中で、頼朝とは亀裂が生じて会うことも叶わず、結果、追討令にて全国を追われ、最終的に自害に追い込まれた。享年、三十一。



 ……



 ……壮絶な人生だ。

 彼は結局、なぜ兄に追われなければならなかったのか、理解わかって死んでいったのだろうか。



 僕は、あんなにも兄を敬愛し、全てを捧げたは、『よくやったな』と、兄に褒めて貰いたかっただけなんじゃないかなって、時々……思う。



 ……



 ……。



 ……そんなの、中学生の考えだよね。実際そんなに簡単な話じゃない。朝廷やら立場やら色々とあったのだろうけれど、前世は前世、今は今だ。当時何を考えていたのかまで全てのこっているわけじゃないし、それを混同したりなんか、は、しない。



 布団の中で、微睡みに落ちていく。

 大変疲れているのか、全身が緩やかにほどけていきそう……だ。



 ……



 前世と、今。

 でも、だからこそ一つだけ……ずっと、夢に見ることがあるん、だ……



 ……



 …

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