第十五話 閑話 ― 眞城
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- 眞城家 -
僕はシャワーで念入りに身体を洗い、魔物の返り血が残っていないかを確認する。自分の肌の白さは義経と同じなのだろうかと、時々思う。湯に浸かるもなんとなく落ち着かず、さっさと出て薄い寝間着に着替える。長時間湯に浸かっていたわけでもないのに体が火照り、じんわりと汗がにじむ。
部屋に戻ると、本日討伐に使用した二振り……今朝拝受したばかりの太刀・薄緑と、守り刀である短刀・今剣をきちんと手入れし、薄緑は壁際に、今剣は枕元に丁寧に置いた。これらは、かつて源義経が使っていた刀だとされている。
手入れを終えると布団に入り、今日のことを振り返る。
平氏と源氏の記憶を持つ者の共闘……か。
……
……。
平氏を討ち滅ぼした後、僕の前世はどうなったか。幼い帝をお救いすることはできず、三種の神器のうちの草薙剣は海の底に沈み、もう二度と見つかることはなかった。
平氏討伐を、よくやったと褒める者もいた。
……だけど帝と三種の神器さえ戻れば、平氏を滅ぼす必要なんかなかったと言う者もいた。非戦闘員である水夫を討ったことも、非道だと。
……だが、これは、戦だ。時には非情にならねばならない時もある。
……。
平氏を滅ぼす必要なんてなかった?
……まさか。彼らは父の仇じゃないか。
もしそれが正しかったとして、今更僕にできることなんか、何もない。手段ヲ選バナクテ? 命ヲ奪ッテゴメンナサイ? それは、違う。あれは各々の義をかけた戦。贖罪なんか、彼らにも、彼にも失礼だろう。そもそも平清盛公に討たれた父の敵討ちをしたいと思ったことが、すべての事の発端だった……はず。そうして打倒平氏と挙兵した、兄に自分の全てを捧げたのだ。だけどこれが記憶なのか、現世で歴史を学ぶ中で得た知識なのか、時々よくわからない。
……どちらにせよ僕は、彼らの前では堂々としていなければならない。
あの奇襲も、奇策も、強行も。全ては義のため……兄・鎌倉殿のため。
……
だけど平氏討伐後は様々なことが重なる中で、兄とは亀裂が生じて会うことも叶わず、結果、追討令にて全国を追われ、最終的に自害に追い込まれた。享年、三十一。
……
……壮絶な人生だ。
彼は結局、なぜ兄に追われなければならなかったのか、理解って死んでいったのだろうか。
僕は、あんなにも兄を敬愛し、全てを捧げた彼は、『よくやったな』と、兄に褒めて貰いたかっただけなんじゃないかなって、時々……思う。
……
……。
……そんなの、中学生の考えだよね。実際そんなに簡単な話じゃない。朝廷やら立場やら色々とあったのだろうけれど、前世は前世、今は今だ。当時何を考えていたのかまで全て憶っているわけじゃないし、それを混同したりなんか、僕は、しない。
布団の中で、微睡みに落ちていく。
大変疲れているのか、全身が緩やかに解けていきそう……だ。
……
前世と、今。
でも、だからこそ一つだけ……ずっと、夢に見ることがあるん、だ……
……
…