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第十四話 友成

 なんとなく微妙な空気が流れる。やや一触即発な空気を打開してくれたのは、秋宮くんのゆったりとした声だった。



「お疲れ様じゃったの。朝霞くんも、眞城くんも。それから、伊月くんも。お主ら、腕や足は大丈夫か」

「うん……なんとか」

「こっちぃ。手当したるけん」



 そう言って手当をしてくれる秋宮くんを見ながらも、今日もやっぱり足手まといだったなぁ、と昏い気持ちになる僕がいた。



「足手まといだったと、思っとるか?」

「え……」

「やっぱそうじゃろ。足手まといだなんて、そんなことはない。君はしっかり戦っとったじゃないか」

「……そんなこと」

「そんなこと、あるある。それにその短刀も、使うまいとしとったじゃろ」

「だって、こんな高価なもの」

「君は見る目があるんじゃなぁ」

「……」

「それは南北朝時代につくられた名刀じゃよ」

「……んなっ」



 そんなすごいものを貸してくれていたのか! やっぱり、使わなくてよかったよ!



「まぁ、あの眞城くんが持っとる刀も、すんごいやつなんじゃけどな」



 ……そういえば眞城くんて、刀2本持ってなかった? 身の丈の半分はありそうな大ぶりの刀を腰に1本と、もう1本……先ほど使っていた短刀。どっちが凄いやつ? それともどっちもすごいやつ??

改めて眞城くん……義経だと、言っていた。本当にそうであるなら、彼は知盛の宿敵のはず。先ほどから何かが胸の奥で滾るのは、やはり因縁からなのだろうか。

 僕が眞城くんをぼんやりと見ていると、秋宮くんが「朝霞くん」と呼ぶ声がした。



「はい」

「お疲れ様じゃったの」

「……」

「腕は、」

「……俺っ、やっぱりまだ、だめだと思います」

「……何故、そう思う?」



 なんとなく一緒に緊張していた僕は、ちら、と目を上げる。



「俺は……前世の記憶と自分の感情がきちんと区別できていません」

「……ほぉ」

「今のは今世で得た中途半端な知識と、前世の強い思いだけで、眞城を敵対視しているような気がします。でも……眞城義経を見ると、どうしても感情が高ぶってしまう。これではだめだと思いながらも、まだそれをコントロールできない」

「……そうじゃな」



 朝霞くんも、自分でわかってたんだ。眞城くんはそんな話を聞きながら長い睫毛を伏せる。眞城くんも、朝霞くんの前世がわかっているのかもしれない。



「元服したとはいえ、まだ中学2年生じゃけんね。まだまだ未熟な部分もあろうよ」

「……」

「前世と、今。自分なりにきちんと納得できるようになったら、君に【友成】を返そうか。その時は、俺んとこ来んさい。いつでも待っとるけん」

「……はい」



 秋宮くんの横顔を見ながら、ちょっとしたことだけど、あっ、と思った。昨日は反対側の耳飾りを見たからなのか、八重菊結びに房飾りは同じなのだが、右側のこちらには月ではなく太陽の形をした石がきらりと光っていた。白と朱の神官姿に、【友成】を、返す。……こんな話を聞きながら、なんとなく僕は秋宮くんの正体が、わかりかけていた。

 これはわかったらそれだけで消えてしまうんだろうか。口にしなければ平気……?


 そんな疑問を秋宮くんは見透かしているようで、こちらを見ながらふふっと笑っている。僕と朝霞くんの手当をしてくれた秋宮くんは、「今度はお主が会いに来てくれるんを待っとるけんね」と言うと、また姿を消してしまったのだ。

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