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第十三話 前世と今

「眞城……!」

「伊月くんだって負傷してるでしょ。戦闘は危険だよ」

「でもっ! 俺はお前と共闘する気なんかないっ!」



 あぁー……やっぱり。朝霞くんは、教経のりつねとしての思いが強い。前世と今の感情がごっちゃになっているとは思っていたけど、これは少々厄介かもしれない。……だけど、前世の記憶が蘇る中で、その気持ちが少し分かりつつある僕もいた。

 眞城くんはぽつりと言う。



「でもさ、死にものぐるいの魔物って」



 その言葉を聞き終わらないうちに、バシィッ!と触手が朝霞くんのに命中する。



「怖いんだよね」

「……!」



 僕は思わず息を飲む。眞城くんの言う通りだ……先程よりも動きがめちゃくちゃな上に、向こうも、必死。



ギギヤアアァッアアアアァツ!!!


「くっっっそ……ッ!」



 なんとか受け身を取った朝霞くんだったが、触手の命中した左腕からは夥しい血が滴り落ちる。しかし勢いよく振り下ろされる鞭のような触手の勢いは留まらず、防戦一方となっていた。



 「どうやら彼には嫌われているみたいだけど」

 そう言う眞城くんは、僕に向き直って話をする。



「伊月くん、元服したんだ」

「……そう」

「いいね」

「……」



 今そんな話をしている場合ではないと思うと同時に、眞城くんは何を考えているのか正直よくわからないと思った。感情を顕わにする朝霞くんとは対照的に、その意思が分かりにくいからだろうか。

 ……だけどそこには、僕の奥の感情を呼び起こすような何かがあるような気がした。自分の意志とは関係の無い闘志というのだろうか、チリッと導火線に火がつくような、そんな、感覚。



「僕が」

「……?」

「伊月くんの代わりに、囮役をするよ」

「……! それはっ、」


 僕が何か言おうとするのを制して、眞城くんは朝霞くんに呼びかける。


「朝霞くん。なら、いいよね」

「……っ、勝手にしろっ!」



 そう話す間も、魔物は朝霞くんを打とうと残った触手を打ち付ける。その様子を見ながら眞白くんは「伊月くんはここにいて。僕は行ってくるから」と、僕を残していってしまった。

 その様子を見る僕は、また足手まといになっているような気がして握りこぶしが痛くなるほどに握りしめた。刀がないだけじゃない。圧倒的に、のセンスと経験が足りない。



 ……悔しいなぁ……っ



 だけど、だからこそこの戦闘はしっかり目に焼き付けなければと思った。成行きとはいえ、義経と教経の共闘かぁ……なんて。僕のせいでもあるけれど、平安時代の人がこれを見たらどう思うんだろう。知盛は、一体どう思っているのだろう。



 短刀を手に、タタッ、と横から魔物に駆け込む眞城くんに、魔物は全く気づいていない。魔物も朝霞くんに気を取られていたというのもあるだろうけれど、それほどまでに、静か。

 小さな体のどこにそんな脚力があったのだろうかと思わせる跳躍に、僕は目を開く。そして、



「はっ」



ギヤアアァアアアアアッ!!!!!



 眞城くんが手にした短刀で、どすっと魔物の目を刺していた。すごい……そのまま行っちゃうんだ……。

 短刀が目に刺さったままの魔物は、奇声を上げながら着地した眞城くんを向いて触角のような触手を打ち付け始める。



「朝霞くん、今だよ」

「……っ、わかっとるっ!」



 魔物の意識が眞城くんに向くと、少々遅れて朝霞くんはその魔物の目をズバアッッ!と、切り裂いた。



ギギィイイイイィイァッアアッッ!!!



 痛みに悶え、苦しむ魔物。だけど。



「 「」 」



 声がそろったのは、僕と眞城くんだった。浅い。これでは斃れない。今の微細なタイミングのズレは連携ミスか……朝霞くんは、先程受けた左腕のダメージも大きく影響しているようにも見受けられた。

 だけど僕は昨日を思い出す。昨日の敵のねらい目は「脳」だった。これは、もしかすると。



「朝霞くん! 目の表面ではきっと浅い! そこから脳まで突き刺して!」

「……脳か」



 悶える魔物は既にぼろぼろと大量の涙を目から流している。ちょっとかわいそうにも見えるけれど致し方ない。

 突きに刀を持ち直し、魔物が悶えている間に朝霞くんは魔物の目のど真ん中を貫く。



「逝っけえっ……!!」



ギィァアアアアアアアアアッ!!! ……ア、アァ……ッ!



 目から脳を貫かれた鮟鱇あんこうのような巨大な魔物は陸にずどんと落ちる。次第にしなしなと脱力していくが、まだ緊張を緩めるわけにはいかない。だけど最終的に、ぴく、ぴくりと動くだけになったかと思ったら、動かなくなってしまったのだ。

 眞城くんはその様子を見て魔物に手を合わせると、目に刺さったままの短刀を引き抜き、綺麗に拭いて仕舞う。そうして朝霞くんに「お疲れ様」と声をかけるも、朝霞くんは複雑な顔をして眞城くんを見るだけだった。


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