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第二十一話 導火線

 僕は弁慶と名乗る男と眞城くんを交互に見る。



(……そうだよ、弁慶が家来になるのは、知盛じゃなくて義経じゃないか)



 歴史では、弁慶が橋で挑むのも、負けてお供になるのも義経だ。この弁慶……何を考えている? そもそも挑む相手を間違えた……? いや、挑む相手が刀を持つ者であれば誰でもよかったとして、お供になるのも自分を負かす相手であれば誰でも良いのだろうか。

 対する眞城くんは、信じられないという様子のまま弁慶を凝視する。



「この騒ぎ……弁慶と名乗る者が、出た、と……聞いて、……。」



 そう言う眞城くんは、うまく言葉が続かない。あのポーカーフェイスな眞城くんが、ここまで動揺するのも意外だと思った。



「本当に、弁慶……?」

「いかにも」

「なんで違う橋こんなところに……僕、いつもの方で探していたんだよ……! ねぇ、僕のこと、覚えて、ない?」

「……さぁ」

「……」

「行きましょう伊月殿」



 眞城くんは受け入れられない、とでも言うように、愕然とした表情のまま、動かない。

 いや……本当にこの人が本物の弁慶だったら、そういう反応になるんだろうか。

 ……だけど。



「いや、行きましょうと言われても……僕、備後びんごに帰るんじゃが」

「備後?」



 こんな大事になってしまったけれど、もうそろそろ帰らないと遅くなってしまうし早く京を出たい。日はだんだんと傾きかけ、そろそろ夕刻時を告げている。どうしたらええのか。



「待って、伊月くん」



 その声に顔を上げると、先程とは打って変わって、今までに見たこともないくらいに殺気立つ眞城くんが、腰に佩刀した太刀……薄緑うすみどりに手をかけているところだった。



「……許さない」

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