僕は弁慶と名乗る男と眞城くんを交互に見る。
(……そうだよ、弁慶が家来になるのは、知盛じゃなくて義経じゃないか)
歴史では、弁慶が橋で挑むのも、負けてお供になるのも義経だ。この弁慶……何を考えている? そもそも挑む相手を間違えた……? いや、挑む相手が刀を持つ者であれば誰でもよかったとして、お供になるのも自分を負かす相手であれば誰でも良いのだろうか。
対する眞城くんは、信じられないという様子のまま弁慶を凝視する。
「この騒ぎ……弁慶と名乗る者が、出た、と……聞いて、……。」
そう言う眞城くんは、うまく言葉が続かない。あのポーカーフェイスな眞城くんが、ここまで動揺するのも意外だと思った。
「本当に、弁慶……?」
「いかにも」
「なんで
「……さぁ」
「……」
「行きましょう伊月殿」
眞城くんは受け入れられない、とでも言うように、愕然とした表情のまま、動かない。
いや……本当にこの人が本物の弁慶だったら、そういう反応になるんだろうか。
……だけど。
「いや、行きましょうと言われても……僕、
「備後?」
こんな大事になってしまったけれど、もうそろそろ帰らないと遅くなってしまうし早く京を出たい。日はだんだんと傾きかけ、そろそろ夕刻時を告げている。どうしたらええのか。
「待って、伊月くん」
その声に顔を上げると、先程とは打って変わって、今までに見たこともないくらいに殺気立つ眞城くんが、腰に佩刀した太刀……
「……許さない」