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第二十話 勝負!

「問答無用っ! うおりゃ!」

「いや、でもこんな橋の上で勝負なんて」



 武蔵坊弁慶と名乗る怪しい格好の法師は、3約90cm程もありそうな薙刀を振りかざしている。いや、でもこんな人通りのあるところで戦闘なんて、トンデモナイ。これを見ている通行人は「出た!」「噂は本当だったの!?」と、騒がしくしながらも、危険を感じて僕たちから距離をとる。……だけど。



「人がおる場所ではどう考えたって危険すぎるじゃろ!」

「それは自分の腕に自信が無い者の言うことだぞ」

「……っ、そもそもなんで、」

「お喋りは終いだと言ったはずだ!」



 弁慶は手にした薙刀を両手で大きく振り回す。上背もある上にリーチも長いためにかなり迫力がある。体を半身にして膝を落とし、薙刀のきっさきをこちらに向ける。獲物を狙うようなこの目つきは本気だ。……こちらも太刀を抜かないわけにはいかない。

 改めて弁慶と対峙すると、弁慶は満足そうに名乗り始める。



「我が名は武蔵坊弁慶! いざ尋常に勝負致せ!」

「僕は、伊月……知成」

「伊月か! ゆくぞ!」

「!」



 早速賜った名を名乗るも少々こそばゆい。だがそんな事を言っている場合ではない。目の前にはもう弁慶が迫っている。


 ガキン!と刃がかち合う音がして、弾かれる。僕は抜刀した太刀でその長い薙刀の鋒を受けるも、パワーに押し負けたのだ。



「くっ……」

「まだまだぁっ!」

「……!」



 弁慶は薙刀を自在に振り回し、その鋒は僕の足元や髪のすれすれをひゅっ、と薙いでいく。突きの一つ一つが鋭く、パワーがある。少しでも距離感を誤ろうものなら、即、薙刀の餌食。



「なんだ、やっぱりただの迷子か!? 先ほどまでの勢いはどうした!」

「……っ」



 圧倒的なリーチとパワーを前に押される一方で、どうにか反撃のチャンスを伺う。……が、なかなか決定的な隙が生まれない。その間にも弁慶は攻めの手を休めることなく、着実に僕を橋の欄干の方へ追い詰める。弁慶の「覇!」という突きの一撃は、身体を斜にしてギリギリで回避したが、間近で見ると改めて物凄いパワーである。あんなのを食らったら体に大穴が開いてしまう……!

 ぞっとしたが、怯んでいる暇は無い。腹から声をあげ、反撃する。



「はあぁああっ!」

「なんだ、軽いな」



 刀を振るうも、すべて柄で受けられてしまい、圧倒的体格差を前にびくともしないようにも見えた。まさに岩を相手に戦っているようだ。対する弁慶は余裕の表情である。



「ふん、つまらん。その刀はおいていけ。童には興味がない」



 弁慶は薙刀の鋒をやや下に向けて構え、僕を仕留めるタイミングを計らう。だが、こちらとて策がないわけじゃない。に言われた言葉を思い出す。僕の……武器は。

汗ばむ両手で太刀の柄をぎゅっと握り、刹那弁慶と睨み合いになる。橋の周りには先程より人が集まっているようだったが、さわさわと風と川の流れる音だけが耳に届く。軽く深呼吸をすると、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。

 タイミングを見計らい、助走をつけて切り込みにかかる。


……今、



「はああぁああっ!」

「なぁに、まだまだ詰めが甘いっ!」



 弁慶がその太刀を受けようと薙刀を大きく振り上げた瞬間、僕は低姿勢に入る。



「……っな!?」



 弁慶の薙刀は空を切り、僕は太刀ので弁慶の両足を両断するかのように打ち付けた。



「ここじゃあっ!!!」

「――……っ!!」



 弁慶は脛に受ける衝撃に怯み、態勢を崩す。そしてすぐさま、その鼻先に太刀の鋒を突き付けた。

 ……勝負あり、だ。



「しびれた?」

「くっ、……そ!!」



 弁慶は悔しそうにこうべを垂れる。気づくと周りには見物人が多数おり、「あの子、すごい……!」とざわついていた。だけどそれよりも、彼の驚きの発言に耳を疑う。



「参った、参った。俺を家来にしてくれ」

「!???」



 いや、ちょっと待って。弁慶がお供になるのって知盛じゃなくて……

 と、そこまで考えた時、人混みの中から「弁慶……?」と聞き覚えのある、少年らしい高い声がした。

 多くの人をかきわけてそこにいたのは、大きな目をさらに大きく見開いて、戸惑いを露わにする眞城くんだった。

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