「問答無用っ! うおりゃ!」
「いや、でもこんな橋の上で勝負なんて」
武蔵坊弁慶と名乗る怪しい格好の法師は、3
「人がおる場所ではどう考えたって危険すぎるじゃろ!」
「それは自分の腕に自信が無い者の言うことだぞ」
「……っ、そもそもなんで、」
「お喋りは終いだと言ったはずだ!」
弁慶は手にした薙刀を両手で大きく振り回す。上背もある上にリーチも長いためにかなり迫力がある。体を半身にして膝を落とし、薙刀の
改めて弁慶と対峙すると、弁慶は満足そうに名乗り始める。
「我が名は武蔵坊弁慶! いざ尋常に勝負致せ!」
「僕は、伊月……知成」
「伊月か! ゆくぞ!」
「!」
早速賜った名を名乗るも少々こそばゆい。だがそんな事を言っている場合ではない。目の前にはもう弁慶が迫っている。
ガキン!と刃がかち合う音がして、弾かれる。僕は抜刀した太刀でその長い薙刀の鋒を受けるも、パワーに押し負けたのだ。
「くっ……」
「まだまだぁっ!」
「……!」
弁慶は薙刀を自在に振り回し、その鋒は僕の足元や髪のすれすれをひゅっ、と薙いでいく。突きの一つ一つが鋭く、パワーがある。少しでも距離感を誤ろうものなら、即、薙刀の餌食。
「なんだ、やっぱりただの迷子か!? 先ほどまでの勢いはどうした!」
「……っ」
圧倒的なリーチとパワーを前に押される一方で、どうにか反撃のチャンスを伺う。……が、なかなか決定的な隙が生まれない。その間にも弁慶は攻めの手を休めることなく、着実に僕を橋の欄干の方へ追い詰める。弁慶の「覇!」という突きの一撃は、身体を斜にしてギリギリで回避したが、間近で見ると改めて物凄いパワーである。あんなのを食らったら体に大穴が開いてしまう……!
ぞっとしたが、怯んでいる暇は無い。腹から声をあげ、反撃する。
「はあぁああっ!」
「なんだ、軽いな」
刀を振るうも、すべて柄で受けられてしまい、圧倒的体格差を前にびくともしないようにも見えた。まさに岩を相手に戦っているようだ。対する弁慶は余裕の表情である。
「ふん、つまらん。その刀はおいていけ。童には興味がない」
弁慶は薙刀の鋒をやや下に向けて構え、僕を仕留めるタイミングを計らう。だが、こちらとて策がないわけじゃない。
汗ばむ両手で太刀の柄をぎゅっと握り、刹那弁慶と睨み合いになる。橋の周りには先程より人が集まっているようだったが、さわさわと風と川の流れる音だけが耳に届く。軽く深呼吸をすると、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
タイミングを見計らい、助走をつけて切り込みにかかる。
……今、
「はああぁああっ!」
「なぁに、まだまだ詰めが甘いっ!」
弁慶がその太刀を受けようと薙刀を大きく振り上げた瞬間、僕は低姿勢に入る。
「……っな!?」
弁慶の薙刀は空を切り、僕は太刀の
「ここじゃあっ!!!」
「――……っ!!」
弁慶は脛に受ける衝撃に怯み、態勢を崩す。そしてすぐさま、その鼻先に太刀の鋒を突き付けた。
……勝負あり、だ。
「しびれた?」
「くっ、……そ!!」
弁慶は悔しそうに
「参った、参った。俺を家来にしてくれ」
「!???」
いや、ちょっと待って。弁慶がお供になるのって知盛じゃなくて……
と、そこまで考えた時、人混みの中から「弁慶……?」と聞き覚えのある、少年らしい高い声がした。
多くの人をかきわけてそこにいたのは、大きな目をさらに大きく見開いて、戸惑いを露わにする眞城くんだった。