目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第十九話 兄

 兄……眞城く義経んの兄って、頼朝だったりするんか?

 僕を見て少々怖い顔をしているのは、もしかしたら、と思った。だけど彼は僕をじろりと一瞥するだけで、眞城くんに問う。



「九郎。なぜおまえはたいらと仲良くしている?」

「仲良くなんて」

「それとも、平がお前に手を出してるのか」

「違うよ、前世は関係ない」



 なんとなく緊張した空気が流れるも、僕はこの時完全に傍観者である。この兄弟の間に入っていくことなんて、絶対にできない。



「……平の者とお友達だとでも?」

「違うけど………いや、そうだね、違わない」



「!」



 僕は思わず眞城くんの顔を見る。けど、いつものように飄々とした眞城くんである。眞城くんは続ける。



「僕は、前世に囚われながら生きたくない」

「何を言って……だろう」

は友達だよ」

「……そうか」



 眞城くんの言葉に、僕も一緒に驚いている。今『友達』って、言った。



「今世はきちんと殿かと思えば……もう、いい。その考えが変わるまでは京から出るな」

「……」

「この地で好きにしたらいい。私よりもこの地で会いたい者がいるようだしな」

「……それは、」



 だけどこれは……修羅場?

 えっ、僕のせいで??



 少々動揺を隠せないままに、僕は何も言葉を発せない。その時、「専務! こんなところに!」と秘書らしき女性がやってきた。



「何をしておいでですか、時間です!」

「……」

「次の会議が……っ」

「わかっている」



 眞城くんの兄という人は「平」と低い声で僕に言う。一瞬ドキッとしたが、僕をその鋭い眼差しで見下ろすなり、そのまま去っていってしまったのだ。



 このまま次の予定が入っていなかったら、どうなってたんだ?


 ……


 ……だけど。



「なぁ……なんで僕のこと友達なんて……お兄さんとこ行かんでええん?」

「いい」

「どうして!」

「行ったって仕方ないよ。忙しいしね。ただのツンデレだから、いい」

「ツン……?」



 若干意味が理解できないままに、眞城くんはお兄さんとは別の方向へ向かって歩き出す。



「眞城くん、どこへ行くん!」

「その辺」



 ……。



 兄弟喧嘩? 僕のせいで? 源氏の人たちは今世でも仲悪いん?? まぁ僕が首突っ込んだらややこしくなりそうじゃし、放っとくしかないんじゃけど……。

 そうして僕は二人が向かった方とは別の方向へ向かって歩いていくことにした。すると、人ごみを歩く中、気になる会話を耳にする。




「今日の子、天皇様直々の任を断ったらしいて」

「そうらしいなぁ。すんごい子って噂やったけど、まだ小学生か思てもうたわ」



 ……小学生?



「随分と可愛かいらしかったなぁ。でも、兄に辞退するように言われとります、の一点張りやったさかい、なんやちょっと可哀そうやないの」



 ……眞城くんのはなし? 眞城くん、今日用事があると言っとったのって、それか?



「そうやなぁ。天皇様から勝手に官職もろて頼朝はんと対立関係になった義経はんと似たはったと噂やね。まぁ色々あるんやない、兄弟って。ウチ男兄弟いーひんし、よおわからへんけど」




 ……眞城くん、前世は前世、なんて言いながら、めちゃくちゃ引き摺っとるんじゃ……?



 ……。



 ……追いかけなくては。




◇ ◆ ◇



 …



 ……



 ……で、本日二回目の迷子である。



 (僕は阿呆なのか?)



 人もまばらな橋を通りながら、御所はどっちだろうと辺りを見回す。



 困ったな、わからん……



 ……と、そんな折。近くで「おい、そこの小童こわっぱ!」と大きな声がした。振り向くと、随分と体格の良い、怪しい格好の法師がこちらを見下ろしている。



「?」

「今日刀を拝受した者がいると聞いた。お前の事だろう!」

「……いや、ただの迷子」

「ただの迷子?……確かに随分ちっさ……やい、お前いくつだ!俺は女や元服前の童に手を出す主義はないからな!」

「14……」

「14? じゃあただのちびか。うーん……14でその刀が本物なら元服しててもおかしくない……か? いやでもこいつの刀、玩具では……?」



 ぶつぶつと独り言を言うその男は、僕をしげしげと眺めながら沢山の疑問符を浮かべている。が、誰がちびじゃ、誰が。僕がむっとしていると、男はなんでもいいや、とばかりに快活に喋り始めた。



「まぁ、いい! 俺は武蔵坊弁慶むさしぼうべんけい! ひとは宝を千そろえて持つべきだというからな。俺は太刀を千本集めてやるのだ。その腰の刀、おいていけっ」

「武蔵坊……? 今、そんな時間ないんじゃけど……っ!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?