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第十八話 再会

そこで出会ったのは、眞城くんだった。



「眞城……くん?」

「あれ、伊月くん久しぶり。……あぁ、元服の儀も今日だっけ」

「眞城くんは、なぜここに」



 あの飄々とした雰囲気はそのまま、僕たちは会う場所だけが違っていた。



「僕は元々天皇様にお仕えしてからはこの辺りが本拠地。備後びんごには一時的に行ってただけ。それに今日はちょっと用事があってね」

「ほぉなんじゃ……また備後へ来ることはあるん?」

「どうかな」



 ハイ出たー「どうかな」。眞城くんがいまいちつかめないのって、こういうところな気がする。同時に、方言を喋らないのはそういうことだったんかと納得した。だけど眞城くんは少し周りを見回したかと思ったら、にこっと笑って僕に言う。



「でも伊月くん。元服おめでとう」

「……ありがとう」

「僕のために元服してくれたんでしょ」

「えっ」

「あの後、朝霞くんから聞いた。君は僕の前世が義経だと知っても、朝霞くんみたいに捕まえようとしてこないんだね」

「……前世のことじゃし」



 『前世の事じゃし』。これは事実だ。だけど、そう言いながらも胸の奥でチリッとするものを感じているのもまた、事実。……眞城くんはどう思っているのだろうか。



「そう。で、伊月くんはなんて名前承ったの」

「知成だって」

「ともなり?」

「勝手に元服したけぇ、『皿』抜いておきました、って」

「皿……?」

「知盛の『盛』という漢字から『皿』を抜いたら『成』になるじゃろ」

「名前のつけ方ってそういう感じなの」

「そう。先日秋宮くんが言っていた名刀・友成と関係あるんかと思ったら、全然関係ない」


 僕がそう言うと、眞城くんは珍しく、ぷっと笑った。


「『皿』抜いておきましたって……ははっ」

「なっ、そういう眞城くんはなんて名前賜ったんっ」

「僕はね……九郎。義経のあざなだよ」

「くろう?」

「そう」

いみな(義経)の方じゃなくて?」

「うん」

「くろう?」

「……なんだよ」



 確かに平安時代は『本名であるいみなは隠すもの』として、通称であるあざなや官職などで呼ばれることが多かったはず。源義経なら、九郎(字)や判官ほうがん(官職)、平知盛なら新中納言とか。

 時代が進むにつれ『諱と字を分ける』という習慣は廃止されて、この世界現在でも名いえば1つだけだし、呼んで失礼とかいうこともないからこういったあたりが微妙に平安時代と異なっている。

 ……けど眞城くんて、くろうっていうんだ。ふーん……確かに、義経っていう強そうな名より、九郎の方がそれっぽい。



「何。またちびとか言いたいの」

「いや、そうじゃない。眞城くんは、今日もこの後魔物の討伐を?」

「ううん。人を探しに。……今日こそは、いるかもしれないから。ねぇ、伊月くん」

「うん?」

「……。いや、なんでもない」



 何を言おうとしたのか気になったけど、言うのをやめた理由はおそらく、背後に感じた人影だった。



「九郎、今話しているのはたいらか」



 低く響く声。そこにいたのは綺麗に手入れされたスーツを着た、しっかりした体格の男性だった。どことなく眞城くんと似ていなくもないけれど……



「ごめんね伊月くん。僕の兄さんだよ」

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