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A5章 安心から激動に潰された行方

第A−23話 彼女の正体

◇◆◇◆


 私は一人ぼっちで暗い世界にいた。

 何も聞こえない。

 外からの音は遮断されていて、光さえも届かない。


 いや、もしかしたら、とっくの時間むかしに太陽は沈み、すでに夜かも知れない。

 だってこんなにも肌を刺すような冷たい空気だから……。


 ──しばらくして、どこからか、人の声が聞こえてくる。


 私は、とあるベッドに寝ていたので、動いて状況を把握しようとしたが、体はピクリとも動かない。


 もう一度、体を確認してみるが、何ともならない。


 目を凝らして、よく見ると体が縛られている。


 気のせいか、薄着の白いシャツだけのせいだろうか、体が寒い。


 それに足先の感覚がない。

 ……というか、足自体がない。


 さらによく見ると、私の下半身が一切なかった。


 なぜ、こんな場所で、こんな格好で縛られているのか。


 なぜ、私の体が半分ないのか。

 疑問点ばかりが浮上する。


 すると、闇の世界から長方形の空間の光がさして、一人の白衣の中年の男がやってくる。


 手には火のついた蝋燭ろうそくが入ったランプを持っていた。


「気分はどうかな。ジャンヌ・ダルク」


 ジャンヌ・ダルクとは私の名前だろうか。

 えらく御大層ごたいそうな名前だ。


「体が吹き飛んでも、こうして意識はある。

実に君の体は興味深い」

「気安く、私に触らないで!」


 そう言いながら、私の体に触れようとしてきた男を言葉で拒絶する。


「おやおや、怖いな。随分ずいぶんとおっかないなあ。この私が助けてあげたのに」

「えっ、助けたとはどういう事なの?」

流石さすがに覚えていないよな。

あの時、君は体はグチャグチャで瀕死状態だったから」

「なに、それ……」

「でも、安心したまえ。

こうして君は話すまでに回復したのだから」


 瀕死に回復。

 考えすぎて、私の頭がパンクしそうになる。


「それよりも、もっと大切な話があるんだ。

今日は君の新しい足を持ってきたんだ」


 足……。

 私の灰色のロングズボンを履いた生足。

 ああ、また、あの二本足でのびのびと自由に歩きたい……。


「さあ、少々痛いかも知れないけど大丈夫。

優しく繋げるからね」


 男が私につけるズボンを軽くめくり、私の新しい足を見せる。


 傷ひとつない、白く艶のある滑らかな素足。


『ドンドン!!』


 ──その途端、いきなり激しくドアが叩かれる。


「何だね。いいところだったのに。

誰かね?」


 そのドアをゆっくりと開ける白衣の男。

 それと同時に緑の軍服の男が入り込む。


「外にデカイ壁を築き上げたのは君か?

あれは入るのに手こずったよ」

「まさか。あの超合金のベルリクの壁を壊したのか!?

ただの人間に、そんなことができるはずがない!?」


 白衣の男がヒステリックに責めたてる。


「それができるんだな」


 そう言った次の瞬間、白衣の男の腹部を素手で貫いていた。


「ぐぶっ、そんな、ことが……」


 その場に血の池を流して、ランプとともに倒れていく塊。


 それから手術台の作りのような緑色のベッドに固定している、私の縛っていた縄を持参のナイフで解き放つ。


「さあ、私と共にこい。ジャンヌ・ダルク。

いや、ダルク」

「どうして、名前を?」

「お前はこの戦乱では有名人だからな。

それに、この世の中を支配するには、お前の力が必要だ」

「あなたの名前は?」

「私か……。

エンカウンター・ケドラーだ」


 男が笑いながら、私の体を確認して、『体は痛くないか、大丈夫か?』とやんわりと尋ねてくる。


 そんな彼は、目鼻が整った白い肌に、腰まである長い黒髪を灰色のリボンで束ねていて、年齢は20代くらいに見える。


 先ほどの乱暴的な行動とは裏腹に、心優しい好青年だった。


 ケドラーは手早く私の足を取り付け、ぎこちなく歩く私を見て、幅広い肩を貸してくれた。


「大丈夫か。これで歩けるか?」

「ありがとうございます」

「そう、緊張して敬語はいい。

私と年齢は変わらないだろう。お互いタメ口でいいさ」


 ……という事は、まだ彼は18歳だろうか。


 落ち着いた気品のある立派な大人に見えるのに、人は見かけによらないものだ。


「まずは着替えだな。優れた選手はそれ相当の衣装が必要だ。すぐさま武器と防具の店にいくぞ」


 ケドラーが私の体を支えながら、ゆっくりと歩み出す。


「あの、失礼しますが、私はどうしてこんな場所に?

それにどうして、こんな体に?」

「もしや、お前には記憶がないのか」

「はい、気づいたらここに」


 ケドラーは神妙な顔つきになる。


「そうだな。これからのためにも、それらの説明は必要だな」


 彼はドアの前で立ち止まり、私を下ろし、その場に座り込む。


「ここで話そう。少し長話になるからな」


 近くにある燭台しょくだいにて、目線にあった木製の棚に置いているマッチでケドラーが蝋燭に火を灯す。


 長い二人の影が揺れながら、彼は静かに語り始めた……。


◇◆◇◆


 ……時は14世紀前半、イキリスとブランスで領土をめぐって戦争が起きた。

 後に噂となる百年戦争の始まりである。


 戦争はイキリスが有利な戦法へ動いてはいたが、とある場所にてブランスの一人の少女が激戦で活躍していく。


 その少女の名前がジャンヌ・ダルク。

 彼女の百戦錬磨な活躍により、ブランスは見事に勝利をおさめた。


 しかし、それによりブランス軍は、この少女がいれば、すべての世界は我が国の物になるのではないかと認知し、様々な世界を占領しようと企んだ。


 だが、それもつかの間、疫病のペストが大流行して、多くの人々が命を落とす。


 そう、あのジャンヌ・ダルクもこの病にかかり、この世を去ったのだ。


 ──そのはずだったのだが、ブランスはそれに備えていたのかは定かではないが、表向きには病院からの年一回の定期の健康診断として、彼女のDNAの細胞を採取していた。


 その結果、研究を重ね、当時は中々上手くいかなかった実験も長い年月をかけ、ついに彼女のクローン技術は成功したのだ。


 こうして生涯独身だったジャンヌ・ダルクに、初めての子供が誕生した。


 子は英才教育や特殊訓練を受けて、たちまちのうちに、戦士としての器が出来上がっていった。


 時は1939年、トイツ大国から仕掛けた第二次世界大戦の最中、アメリコ側の連合国側に味方していたブランスは、このジャンヌ・ダルクさえも戦力にしようとしたが、考えが甘かった。


 もう、その時代は人が剣をふるう戦法ではなく、たった一つの爆弾で大量の敵を倒せる核戦争の時代だった。


 これにより、ブランスは枢軸国のトイツ大国に敗北して、次第に戦況は追い詰められていった。


 そんな時、同じく核を開発していたアメリコから提案が上がった。


 ジャンヌ・ダルクの体内に新たに核爆弾の遺伝子を埋め込み、それを上手く利用して、いざという時は彼女の自爆もろとも、その大陸を滅ぼしてしまえと……。


 さらに、そのジャンヌ・ダルクを殺戮人間として改造して、人としての神経の痛みを無くした殺戮兵器に変え、人の欠点である老いがくることがない永遠の命に仕上げてしまえば、怖いもの知らずの核兵器が誕生するのではと……。


 しかし、ひんぱんに爆弾を作動して自爆するには、DNAの移植などの生産リスクが高いため、長年研究していた反核兵器開発派主義だったアインジュタインを捕らえ、彼が開発した時間空間の揺らぎのシステムも埋め込み、彼女に特殊能力として装備していた剣を大地に刺した時に、普通の人には聴こえない可聴領域を超えた高音の周波数を発生させ、その時を止める特殊能力開発にも成功した。


 こうして戦闘兵器となった彼女は、幾度もの大陸を滅ぼしていった。


 そうやって、第二次世界大戦も終わりを向かえ、ジャンヌ・ダルクは普通の女性として過ごすようになった。


 ──だが、その平和も束の間。

 今度はアメリコと東朝鮮との間から、第三次世界大戦が勃発。


 縦横無尽に核兵器を使用する相手に対して、再びジャンヌ・ダルクの力が必要になったのだが、平和を満喫し過ぎて、行方不明となっていた彼女の詳細をつかめなかったブランスは寂れ、当の昔に滅びてしまっていた。


 滅んだブランスに残されたのは精鋭部隊の一部の軍のみだった。


 このままでは世界はアメリコと東朝鮮のなすがままになってしまう。


 そこで祖父のアドルフ・ケドラーの遺書により、ジャンヌ・ダルクという兵器の存在を知った孫のエンカウンター・ケドラーは、その書類から過去に戦闘を交えた彼女の存在を味方にするために、ずっと彼女を探していたのだ。


 まさか、日本首相の手続きをしていた頃に我が故郷トイツ大国にて、ブランス軍の国旗を着けた戦闘服の生き残りの軍と戦乱を繰り広げていたとは知らずに……。


 しかも、戦っていた軍の兵士達はジャンヌ・ダルクの存在を認知しており、恐らく彼女が無闇に逃亡しないように、巨大なベルリクの壁を作っていた。


 彼らは最強の戦士の彼女を倒し、一躍有名になり、様々な軍事国からの資金援助を企んでいたみたいだが、ブランスの上層部は滅び去り、その軍には秘密のアイテムとしての情報しかなく、体内に核爆弾があるという詳しい内容までは知らなかったようだ。


 その後に、自己爆発した彼女に興味を持った医師が、この肉塊と化した彼女を拉致し、この小屋に運び込んで、複合手術をした筋が妥当だろう。


 多少、変態的な部分もあった医師だったが……。


 こうして、第三次世界大戦は休戦になり、日本が世界を侵略するには再び彼女のちからが必要となったのだ……。


****


「そうなの……。私は殺戮兵器なんだ……」


 ケドラーによる話が終わり、自分の腕を触りながら、まじまじと見つめる。


「……でも、とある男性には私の時を止める力は通用しなかったわ」

「それは誠か。

じゃあ、相手は人間じゃないな」


 ケドラーが腕組みをして、何か考え事をしながら、私から視線を逸らす。


「それなりの対策を持ち、アイテムの謎も解け、自爆できることも知られてしまったか……。

どうやら、ここでゆっくりしている場合ではないな」


「……とりあえず、外にヘリを待たせてある。ダルクよ、今から日本に行くぞ」


 そう言うとケドラーは立ち上がり、再び私に肩を貸し、外へと歩き出した。


****


「……ユミ、ユミ!!」


 ──私の記憶の片隅で、いきなり背後から見知った若い男性の声が聞こえてきた。


 私の名前はジャンヌ・ダルクではないのか?


「ユミ!!」


 それにしても聞き応えのある声だ。

 確か、名前は……。




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