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(
私、
ただし相手は異性限定で、しかも本気で好きになった人の心しか読めない。
私は、この不思議なちからを利用して、意中の男子と付き合ってきた。
だけど相手の心を読んで先回りしているうちに、次第に相手の男子から気味悪がられた。
もしかして影で、ストーカー行為でもしているのではないかと。
私はそんなつもりは
こうして前の高校にいる時、気持ちが悪いストーカーでヤンデレなびっちな私という、でっち上げの噂が広まり、私は周りから疎外され、段々、一人ぼっちになっていった。
それに懲りた私は、今回の転校の際に、もう恋は二度としたくないと感じていた。
そんな矢先に、あの
久々の一目惚れだった。
私は彼の心を読むうちに、彼は今までの男子相手とは、何かが違うと感じ始めていた……。
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「はっ? なん、アタイに聞きたいこと?」
繁君と別れて校内に戻った昼休み、あの繁君との問題解決のために、偶然にも一階の廊下ですれ違いそうになる、
「舞姫ちゃん、ちょっと時間いい? ここじゃあ、まずいから、向こうで二人で話さないかな?」
「オッケー、愛の告白かいな。モテる女はツラいわ!」
私は仲間達と別れた舞姫を連れて、人気のない音楽室へと誘った。
鍵は職員室で音楽顧問に、音楽の授業で教科書の忘れ物をしたという嘘の理由で、難なく借りられた。
この部屋は防音工事がされているので、多少の会話が漏れる心配はないだろう。
チャンスは今しかない。
それにこの場所なら、聞き耳される心配もない。
固く決心した私は、堂々と舞姫に会話を切り出した。
「……あのさ、舞姫。アニメイドって知ってる?」
すると、多少緊張していた舞姫の口角が『プッ』と緩んだ。
「きゃはははー! アンタ、そんなことも知らんとー!?」
「ちょ、ちょっと、声がデカイよ!」
「大丈夫、やましい言葉じゃないけん」
ひとしきりツボに入っていた舞姫が笑い、涙を指で拭い、急にシビアな顔になる。
「それで、どこでそれを聞いたん……?」
その事は
これは下手な発言はできない。
私は慎重に言葉を選んだ。
「実は教室で、そんな言葉を耳にして……」
「それ、男子から? それとも女子?」
性別関係あるんだ? と焦りながらも、慎重に答えを出す私。
「……だ、男子かな……?」
「オッケー、ウチのクラスで知らない間に、
「えっ、
「そうそう」
大丈夫だ。
何とか、意志疎通はできている。
あと、よく分からないけど、男子達ごめんね。
「そやな、すまん。本題やったな。
アニメイド、それは喫茶店や」
はっ?
意味が分からない。
「だから、メイド喫茶のことや!」
め、メイド!?
『ドカーン!!』
あまりの衝撃に、私の思考回路がパンクする。
メイドとは、あの白い前掛けがついたフリフリのエプロンドレスを着用して、
お客さんの食べるオムライスに、ケチャップでハート模様を描き、
そのオムライスに向かって、ハートサインの指のポーズで『美味しくな~れ、美味しくな~れ、萌え、萌え、きゅ~ん♪』と、
恥じらいながら、魔法の呪文をかけるという素振りの、
巷のテレビ番組で拝見する、あの恥ずかしい生き物達のことだろうか……。
「まあ、多少は偏見があるけど、それはあながち嘘ではないっしょ……」
「わ、私の心を読んだの!?」
「いやいや、ぶつぶつと弥生たんが呟いていたから。それにアタイはエスパーじゃないし、心とか読めるわけないっしょ……」
そうだった。
まあ、普通の反応ではそうである。
普通は人の考えている心など、読めるはずがないのだ。
しかし、メイド喫茶に入ったことはないので、どんなお店か、想像できないのも事実だった。
「なあ、弥生たん。アニメイド、そんなん気になるんなら、今度の休日に行かへん?」
「えっ、この辺にあるの?」
「そう、東京の海の真ん中にある
舞姫の話によると『秋葉島』とは今の呼び名で、昔は秋葉原という土地にあったが、代々埋め立て地であったため、地球温暖化による海面上昇により、その土地が水没し、やむなく秋葉原一体を、とある無人島へと場所を移転したらしい。
そこが未知に潜んだ夢の孤島、『秋葉島』だわさ~と、舞姫は説明してくれた。
「それなら、
一体、どこから話を聞いていたのだろう。
咲がキラキラと瞳に、星の粒を浮かべながら、私達の会話に乱入する。
どうやって来たんだろう?
確か、ドアには鍵をかけたはず……。
「ちなみに弥生たんは、何か特殊能力とかもっとん?」
不意の投げかけで私の背が凍りつく。
私のこの能力を知っているとは?
まさか、この舞姫もあの人の祝福を受けていたのだろうか?
◇◆◇◆
(弥生回想シーン)
──時は再び
父と母との夫婦関係が悪化して、とても家に居られない状況だった頃。
とある夏の夜、私はそれに耐えられなくなり、一人であてのない家出をした時があった。
半袖の青いカットソーに灰色の綿のズボンで、とても年頃の女の子とは思えない出で立ちの私。
無数の田んぼに老朽化で、点灯する電灯が立ち上る、薄暗いあぜ道を走り疲れて、真っ赤な色のママチャリを押して歩いていた。
……中学の金銭面の状況では行く先は見えている。
財布の中を確認しても、目につくのは500円玉硬貨が1枚のみ。
これでは満足な夕食にもありつけそうにない。
それからすぐに、『きゅー、グルグル』と私のお腹が可愛らしい空腹を訴えていた。
しかたない、今日はパンにするか。
私は近所のコンビニで食材を購入し、近くの青いベンチに座って、メロンパンの袋を空けようとしたその時……。
『──だっ、誰かいませんか?』
声がした山側にある、登山経路の方向を振り向く。
でも、そこには誰もいるはずがない。
確か、幼い男の子の声だった。
「誰かいるの?」
私は立ち上がり、声のした、木々の
そこには灰色の全身タイツの着ぐるみを着た、園児のような体格の少年が、杉の木の下で寝ていた。
……いや、寝ているというより、血を流して、ぐったりと倒れている。
とらばさみの罠に挟まれた足から出血していたが、流れていた血は人間とはかけはなれた乳白のような液体だった。
「君、大丈夫っ!?」
だが、今は人命優先。
血液の色うんぬんどころではない。
私は慌てて、お構いなしにその少年に声かけして、とらばさみを外す。
この近所は山に囲まれているため、野生の
それで、たまりにかねた
少年の口の回りには、トウモロコシやトマトなどの食べかすがついていた。
よほど、空腹で飢えていたのか。
育ての親は、一体何をやっているのだろう……。
「とりあえず、これ食べて元気出して」
私はタマゴサンドの封を開けて、それを少年の口にあてる。
すると、少年の鼻がピクピクと動き、口を開けてそれをかじる。
『!?』
それを噛んだ瞬間、物凄いスピードでタマゴサンドが口の中へ消えてゆく。
『これおいし~、ありがとう』
少年が目をパチリと開け、私に目を合わせ、お礼をいう。
少年の言葉は、なぜか頭の中に語りかけているような感覚だが、恐らく私の疲れによる気のせいだろう。
「どうして、こんな所に一人でいるの?」
『……実はお母さんと喧嘩したんだ』
「そうなんだ」
『……ちょっと我慢できずに、お菓子を勝手に食べたら怒られたんだ。……ボクのこと、嫌いになったのかな……?』
「それはないよ。お母さんも悪気があって、怒ったわけじゃないよ。今ごろ、言い過ぎたと思って、君を捜してるよ」
『本当かな……?』
「うん、いくら仲良しでも喧嘩もするよ。時にはぶつかり合い、不平や不満も分かち合うもの。親子って、そんなもんだよ。
……さあ、一緒に帰ろうか。おウチはどこ?」
私は少年の肩を
少し変わった灰色の着ぐるみを着ているわりには意外と軽い。
先ほどのパンのがっつき方といい、この子は、きちんと食事はしているのだろうか……。
それに目の玉がやたらと大きい。
片目だけでも、私の握りこぶしくらいはありそうだ。
「変わった格好だね。何かの部活動の練習?」
『……ううん、これはいつもの姿。ボク、宇宙人だから』
えっ、と私はその場で固まる。
この星の人類ではない!?
『──タケシ、どこにいるの?』
しばらく少年の帰り道でもある、
年配の女性の声からして、恐らく少年の母親だろう。
『……あっ、お母さんだ』
また、少年と同じ灰色の全身タイツの着ぐるみを着た人物が現れる。
『タケシ、捜したわよ』
『……ごめんなさい』
『無事で良かったわ。ところで、その隣にいる女の人は?』
『あっ、この人はボクを助けてくれたんだよ』
私より、一回り大きい母親が深々と頭を下げる。
『ありがとうございます。これはお礼をしないといけないですね。何かお望みはありますか?』
「……えっ? そんな悪いですよ⁉」
『いいえ、息子を助けてくれたのですから、是非とも、お礼をさせて下さい』
母親の灰色の手が私の頭上にくる。
ギョロリとした両目を閉じて、何かを感じとるような仕草。
それから、静かに目を開けて、私の顔をマジマジと
『……なるほど、あなたは好きな異性との接し方に困っているようですね』
好きな異性……。
そうか、私は母だけじゃなく、父のことも好きなんだ。
「はい、仲良くしたいんです……」
『ならば、この力を授けましょう』
母親の灰色の手が光出して、私の体が七色に染まる。
それは一瞬の出来事だった。
それからだ。
本気で好きになった異性の心が読める、不思議な超能力が使えるようになったのは……。
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(弥生side)
「そう、秋葉島は能力者だと、超ベリー特権が受けられて、入場料などが割引になるんやけど」
「まあ、普通はみんな、そこで超能力の資格を取るんですけどね」
咲ちゃんまでもが、この能力のことを知っている。
一体、秋葉島とはどんな場所なのだろうか?
焦りと期待の複雑な気持ちの中、聞けば聞くほどに、謎が謎を生むばかりであった。