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(タケシside)
ここはミニチュアな日本から離れた、巨大なアメリコ空軍基地の
通称、宇宙人が生息していて、UFOを制作する基地と噂された場所。
その飛行機たちの影にある、奥の隅にある異次元の空間。
この噂は本当で、ボクら宇宙人は、この空間で寝泊まりをしている。
ちなみに、この空間は一度行ったことのある場所なら、次回からこの空間を通じて、好きな場所に出入りできる、便利な
ボクは、代々、このアメリコに住んでいて、ある文化の影響で日本で生活していた時期もあったが、とある人たちが幸せな生活を送る中、ボクも他人の幸せの邪魔にならないように、現地のアメリコに戻り、昔のような生活を
太く短くな精神も大事だが、長い目で見たら、細く長く生きた方が良い。
日本で年越しそばを食べている時に、屋台の店主から教わった台詞だ。
宇宙人の人生は人の何倍もある。
しかし、その長さゆえに、
でも、ボクはそうはなりたくなかった。
短い期間だったが、あの時、異世界で過ごした人達のように悔いなく、まっすぐに生きたかった。
ボクはそんな毎日を、悔いなく生きたいと思った。
──さらにボクは、日本で様々な学問や文化を学んだ。
なかでも日本特有のアニメやゲームなどの独特の文化は、ボクを
アメリコには、あんな萌えなイラストや、独特なタッチの文学で描かれた、重厚な物語とも言える、サブカルチャーな作品とかはまずない。
最近も、たまに日本のアニメイドに
毎回、様々な作品の音楽、映像作品、グッズなどが陳列されて、それらを
日本はアニメやゲームで急速に発展し、僕のような人々の心さえも、わし掴みにしたのだった。
そう、リアルと同じく、二次元に国境はないのだ。
それを教えてくれた日本人に感謝しなければならない。
そのきっかけで、この超能力を教える場所を作ったのだが、あの事件から、成果は今ひとつだった。
──そんな中、その商売を辞めて、昔のようにアメリコで細々と暮らし出したボクは、ビニール袋の荷物を抱えながら、広大なビルと海が広がる街中を徒歩で移動する。
アメリコは自由と平和の国だ。
ボクのような全身タイツの灰色姿で歩いていても、
ただ、こんな格好で、お祭り騒ぎではしゃいでいるのだろうと、よく勘違いされる。
まあ、ボクにとっては、生活に支障がなかったら、どうでもよいことだ……。
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「よお、お疲れさん。帰ってきたか、タケシ」
ボクが、その草原の広がる空間に帰宅すると、いつもの男性の声がした。
この人は、もうずいぶん前からここにいる。
まるで人目に隠れて、存在しているかのように……。
『
「まあな。この異世界の空間で、どのようにして、モンスターが生息してるのかと考えると、ついついな……」
この上下の黒い作業服を着た人、
目鼻が整った褐色な筋肉質な好青年で、本人は、
しかも彼は結婚していて、すでに子供が二人もいるらしい。
これで本当に、二十歳なのかと疑ってしまう。
また彼にはドラゴンの血が流れていて、特殊な能力が使えるらしいが、僕は一度も、そのような能力を見たことがない。
いや、能ある
「それで、このモンスターがさ……。
何でゼリー状なのに、あんなに高くジャンプできるかだが……」
龍牙さんが背後からスケッチブックを出して、2Bの鉛筆で何やら絵を描いている。
ふと、気になったボクは隣から、それを
丸っこいシュークリームの形に目玉焼きのような二つの瞳、つぶらな豆のような空いたくちびる。
それはボクがいつも異世界で操っているモンスターの一つ、スライムゼリーだった。
さらにこの人の絵は、とても綺麗なタッチで上手だ。
本人は大したことはない、人より少し
まあ、ボクは宇宙人だから、人間の見方とは少し違うかな。
実際の絵画展に、しょっちゅう足を踏み込むのではなく、プロの作家に色々と学んだわけでもなく、直感で思っているだけだから……。
「……でな、コイツの運動能力は、カエルの飛び方と似ていてだな、要するに、体全体が筋肉ではないかと、俺は
そんなボクの思いにも気づかず、龍牙さんは、スケッチブックでイラストを描きながら、色々と自分のイラストを見せてくれた。
中にはスライムゼリーらしからない、お色気ムンムン姿のスライムゼリーもいて、僕はそのイラストだけは見て見ぬふりをした。
僕は健全な男の子なのに、何てものを表現するのか。
さっきから、僕の白い鼻血がだらだらと止まらない。
「……お前、大丈夫か。どこかで頭でもぶつけたか?」
僕のことなどいざ知らず、今度はスライムゼリーの断面図のイラストを見せる。
内臓器官、消化器官、生殖器官……。
……と、ぶぶっ、と僕の鼻血がマグマのように吹き出る。
『龍牙さん、わざとかな。僕を出血多量でダウンさせる気かい?』
「なーに、それなら心配ないさ。その時はケチャップ……いや、マヨネーズで輸血するからさ♪」
『だからそれは調味料だよ。血液じゃないから!?』
絶対、この人はわざとだ。
既婚者の余裕か、何かは知らないが、健全で経験のないボクをからかっている。
ボクに大人の階段を昇らせようとしているのか。
この人の考えが、今一つ分からない。
「まあ、それはさておき。研究は後回しだ。腹が減っては
龍牙さんがスケッチブックを床に置き、手持ちの黒のリュックの中身をガサガサと漁り出す。
「じゃーん、納豆餃子缶。うまいんだぜ、これが~♪」
そして、何やら手のひらサイズの長方形の缶詰を取り出して、ニヤニヤと笑っている。
その、なんのへんてつもないアルミ缶を片手にして、何がおかしいのだろうか。
それともボクのお笑いのキャパシティーが足りないのかな。
地球には多種多様のお笑い芸人がいる。
しかも場所によって、コメディーの要素も違う。
日本の冗談と、アメリコのアメリコンジョークとの違いのように……。
「さあ、いいからタケシも一緒に食べようぜ。まさかこれが、ここでも食べられるとはな」
ボクの目の前にその缶詰と、二つの棒切れを渡し、本人は手元の缶詰を開けようとしている。
はて、この細い二本の棒は何だろう?
「ああ、コイツの使い方が分からないんだな」
ボクが途方に暮れていると、龍牙さんがその二本を鼻の穴に突っ込み、それを口に引っかけ、何やら変なダンスをしだす。
「あっ、それ。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ♪
……さあ、やって
『絶対、嫌だぁぁー!!』
ボクの鼻の穴に、その棒をぶっ刺そうとする龍牙さんから逃げ回る。
『嫌だ、こんな所で、恥さらしで死にたくないぃー!』
「
『いや、慣れたくもないぃー!!』
龍牙さんが二本の棒をわしゃわしゃとさせながら、ボクににじりよる。
ボクは絶体絶命の危機を味わっていた……。
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『タケシ、どうかしたのですか。頼んでいた買い物は行ってきたのですか?』
そこへ、絶妙なタイミングで、別の円状の空間から、ボクのお母さんが登場する。
そうだった、ボクはおつかいの帰りだったんだ。
ボクは、床に置きっぱなしだったビニールの買い物袋を掴んで、中身を確認する。
確か、ボクはお母さんから、明日のごはんの食材とかを頼まれて……卵に、食パンに、牛乳に砂糖と……。
「ほぅ、フレンチトーストを作るなんて、
龍牙さんが僕の隣で物欲しそうにヨダレを垂らし、目をギラギラさせながら、突っ立っている。
「どうせなら、今ここで、ちょちょっと焼いてから食わねえか?
バニラアイスとハチミツも添えてさ。食後のデザートにちょうどいいぜ♪」
『龍牙さん。駄目ですよ。これは明日、息子の友人の誕生日パーティーに使用するのですから』
お母さんがヨダレだらだらな怪物のような、龍牙さんの暴言を止めに入る。
「だったら、俺も明日が誕生日だ。一緒に食おうぜ!」
『……そんな都合よく、生まれた日を変えないで下さい……』
「ちぇっ、分からず屋……」
龍牙さんがしゃがみこみ、足元の地面に指で何やら文字を書いている。
どうやら完全にいじけてしまったようだ。
まったく、どっちが分からず屋かと言いたくなる。
『……それはそうと龍牙さん。この前、ここに迷いこんだ、人間の最新の研究結果が分かりましたよ』
「そうか。見せてくれ!」
お母さんが、異空間のゲートを開け、そこから、心電図の資料のような長く白い紙切れの束を、龍牙さんに手渡す。
「フムフム。これは貴重なデータをありがとな。早速参考にするよ!」
龍牙さんがその資料をがさつに丸めて、昼ごはんをガツガツと食べだす。
しかし、その白い三日月のようなおかずから、凄い異臭がする。
ボクは、たまらずに天井近くにある扉を開けて、部屋の換気をする。
本人は、その匂いには何とも反応せずに美味しそうに食べているが、なっとうなんちゃらという食べ物……はたして、本当に食べ物なのだろうか……。
『……それでお母さん、龍牙さんはここで何をやってるのさ?』
『何でもここだけの話ですが、世界平和は口先だけで、どうやらとある亡くなった人を蘇生させるために、様々なデータを集めているらしいですよ』
『……ふーん。彼にも色々とあるんだね……』
ボクには、一心不乱に食事をする龍牙さんに対し、彼は僕らの前では無理に明るくふるまい、接しているかのような姿に見えた。
「おい、タケシ。わりーが、ご飯のおかわりはあるか?」
龍牙さんが空になった弁当箱を僕に差し出す。
『はい、ちょっと待って』
ボクは、炊飯器を持ってくるため、近場に着陸している宇宙船へと向かった……。
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今、彼はボク達と、この異世界でともに生活をしている。
彼は研究という名目で、ボクの仲間から絶大な評判を受けて、たまに、この異世界に遊びにきた宇宙人相手に講義も開いている。
彼いわく、今まで様々な人に迷惑をかけたらしく、それなりの恩返しがしたいそうだ。
最近ではその評価も認められ、アメリコでも特別な研究員になりつつある。
ウチの研究所から多額の給料は出すから、家族には内緒で秘密裏で働き、これからもアメリコ軍に
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『まあ、端から見たらモンスターをのほほんと眺めて、好きな絵を描いているだけだけどね……』
『別に良いではないですか。本人が決めた道ですから』
好きなことを仕事にすることは難しい。
好きだからこそ、見えない部分もある。
それは恋愛と一緒。
これからも龍牙さんは、ここで働いていくだろう。
ボクとお母さんにできることは、精一杯、龍牙さんをフォローする事だ。
だって、もう龍牙さんはボクらの大切な家族のような、ちっぽけで大きな存在だから。
いつか、この人が願う人が、再びこの大地を歩けるように……。
ボク達は影から支えるばかりだ……。
To be continued……。