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C3章 ここで想いを終わらせない

第C−6話 生まれ変わった気分

「へい、いらっしゃい。寄ってたかって見てらっしゃい。今から、すいが実演販売やっちゃうよ~♪」


 160手前の身長で、日焼けた顔にそばかすがあり、その褐色な肌とは対称的に、灰色でロングヘアーな髪型も似合ったスレンダーな美少女。


 パッチリした瞳で、小鼻で可愛らしい彼女は、二小藤じことうすいと言う名前らしく、この街にある、よろず屋の一人娘のようだ。


 残念ながら、胸はスカスカのぺったんこだったが……。


 ──俺達はラクちゃんで砂漠を越えて、オアシスにある、この街並みに来ていた。 


 だけど、スマホから見て登録された住所に訪ねても、そこは空き地になっており、肝心の自称航海士? なロマー・チックの居場所が分からない。


 早くも行き先を絶たれた俺達は、右往左往うおうさおうしながらも、この人並みがあふれた街を歩いていた。


 ──それにしても、この街は華やかで活気づいている。


 白い肌の人間や獣の石像に、噴水が立ち並ぶ西洋風の風景から、ヨーロッバの古代キリシア文明のような残り香がただよう。


 ちなみに、なぜ実演中の彼女、すいの名前などを知っているかと言うと、話は少し長くなるが……。


「──この天下一の若手看板娘16歳になるピチピチの美少女、二小藤すいにかかれば、このガチガチに堅い生のカボチャも、この包丁、ドラゴンサバイバル包丁であっという間にみじん切りに!

……あたたたたっー!」


『サクサクサクー!!』 


 黄色のトレーナーのパーカーに、同系色のズボンの部屋着のような二小藤。


 彼女が、木のまな板の上でその包丁を降り下ろす度に、綺麗に輪切りされていく西洋カボチャ。

 さらに、それから細かくみじん切りにしていく。


 すると、それを見た大勢の観客から、拍手の山が鳴り響く。


「わあー。すごい包丁ですよ。  

見てください、李騎りき

あれは今後のためを考えて、購入した方が良くないですか?」


 赤のファンシーな長財布を片手に、晶子しょうこの目がキラキラと輝いている。


「うーん、別にいいけど、さっき銀行のATMからお金を引き出したばかりだろ。あまり無駄遣いするなよ」


 それはさておき、こうやって店先で実演しながら、自分の心境をペラペラと語っているからに、すいの素性はバレバレなのである。


「あら、そこのお二人さん~♪」


 ふと、俺とすいの目がぱちくりと合い、向こうから話しかけられる。


「男の癖にきゃわい~顔して、お隣の清楚なべっぴんさんがお嫁さん?」

「男で悪かったな。あと、晶子は……」


「そうです。私の旦那様です!」


 隣にいた晶子が口を挟み、爆弾ホームラン宣言をする。


 いや、俺達は普通の友達だよな……?


「晶子、どういうことだよ……?」


 俺は小声で晶子に話しかける。

 それに合わせて晶子も、俺の耳に口元を寄せてきた。


「……ごにょごにょ……見たところ、悪い人では無さそうですし、今日はここに泊めさせてもらいましょう。それに、ロマー・チックの正確な場所を知るためにも、もっと情報が必要ですから……」

「……なるほど、計画的な犯行か……」

「……それだと、私がまるで悪人でみたいじゃないですか……」

「……あれ、違うのか?

俺はてっきり、あの拉致らちしてから、首輪を着けて、近くのホテルを間借まがりして、監禁するのかと……」

「……なっ、人聞きの悪いこと、言わないで下さい!」


 晶子がいきり立ち、真っ赤な顔で否定して大声を出す。


「……何をコソコソと話してんの?

それともここで……むぐっ!?」

「はいはい、無駄話はそこまでっすよ、すい。今日はあれを一本でも売らないと、晩飯は食えないっす」


 いつのまにか、すいの後ろに大きな青年がいて、彼女の口を大きな手でチャックしていた。 

 とにかく目の前の俺から見ても、彼は遥かにデカく、190くらいはありそうだ。


 赤色の髪は首までで短く整っており、それなりの筋肉質で眉は太く、肌が白く、多少、目つきは悪いが、顔は男前。


 また、茶色のジャケットに、白のニットを着込み、黒のボトムを履いていて、

今どきのお洒落なイケメン青年の印象を受ける。


 なるほど。

 最近の若者は、こんなイカした服を着るのか。


 それに比べて俺は、いつものシャツとジーパンという、お洒落しゃれとはかけ離れた地味な服装で……。


 さらに俺は、この若者の研究をするために、じーと、いるように見つめる……。


「……なっ、なんっすか、お兄さん。僕の顔を見つめて、僕、どこか、変っすか?」

「いや、あまりにも素敵だったから、見とれて」

「あざーす。僕は今年17になる、和羽家乱蔵わけわからんぞう。乱蔵でよろーす。ちなみに僕は、すいの彼氏っすから!」

 ……と言いつつ、すいの体を抱き寄せて、彼女のおでこに軽くキスをする。


「……ちょ、ちょっと乱蔵。お客さんの目の前よ?」

「別にいいじゃん。減るもんじゃないっす♪」

「……いや、すいの精神が削れるっつーに!」


 何やら仲良く、二人で痴話ちわ喧嘩をしているようだ。


「あのー?

お取り込み中すみませんが、この包丁はおいくらですか?」


 何も分かってない晶子が、例の売り物のサバイバル包丁を指さしている。


「……あ、ああ、それは今、キャンペーン価格になってて、夫婦だと半額なのよ~♪」

「ちょ、すい、嘘をつくんじゃな……むぐっ!?」


 今度は乱蔵の発言が、すいの小さな手によって奪われる。

 それから、晶子から離れて、何やら怪しげな話をし始めた。


「……ごにょごにょ。……いいから黙っときなよ。これ以上、貴重なお客さんを減らしたくないやろ。それにたまには、美味しい霜降り牛が食べたいよね……?」

「すいは、ほんま鬼っすね……」


 二人して、ひそひそ話をして悪いのだが、俺には丸聞こえなのだが……。


「……あの金額は?」

「ハイハイ。すみません。少々お待ちください~♪」


 鼻歌を歌いながら、ルンルン気分なすいが、電卓を弾いて、晶子に金額を見せる。


「ドラゴンサバイバル包丁一本、消費税コミコミできっちり一万円になりやーす~♪」

「はい、これお代です」 


 何も疑わずに、晶子は、すいの指示通りに一枚のお札を渡している。


 しかし、きっちりの金額なら、電卓は必要ないのでは?


「どうもありがとう。

……それから、あの、私たち泊まる場所を探していて、その……お金は払いますから、良かったら、ここに泊まれないでしょうか?」

「きゃー、いいよ、大歓迎~♪

……あと、別にお金なんていらないから。

うちで色々話そー♪」


 すいが晶子に抱きつき、晶子がバランスを崩し、衝撃を受け止められなくなり、二人とも床に倒れこむ。


 でも、二人は仲の良い姉妹のように、にこやかに笑っていた。


 そう、晶子にとっては、久しぶりの同性の友達のはず。

 男の俺なんかが輪に入っても、なぐさめの言葉も上手くかけられない。


 それを考えると、考え自体が違う、異性はつらい。

 そう思考しながら、俺もよろず屋の中に入ろうとするが……。


「おい、ちょっとお前さんは待てっつーの。僕と一緒っつーの……ちょっと付き合うっす」


 ……その場で俺は、乱蔵にずるずると引きずられながら、よろず屋を後にした……。


****


「……あの、何の真似かよ、これは?」


 俺は近所の洋服店に付き合わされ、店内でピンクのリボンが散りばめられたドレスを、なぜか着せられていた。


「……だって、お前さあ?」

「下の名前の李騎でいいさ」

「……そうっすか。李騎って呼ぶっすね。

お前、女になりたいのかと思ってたっすよ?」


「今、明かされる衝撃の真実。

乱蔵は両刀使いだった!」

「……だった、とはその失礼なナレーションはなんつーか、失礼っすね。

僕はノーマルっすよ。

……ただ、見た感じ夫婦には見えないし、あの子と仲が良いりには、男女の恋愛にも踏み切れてない部分も見えてるつーか……」


 さすがリア充の乱蔵だけあり、俺達二人の関係を察していた。


 ……俺、宇宙人サイドからして、宇宙人が人間に恋をするとは考えられない。


 恋に落ち、付き合って、愛し合って、子を宿やどしても、どんな子が生まれてくるか分からないからだ。


 もし生まれる前から、凶暴な人格を持った子なら、母体から腹を食い破る可能性もある。


 そうなれば、愛する人を失ってしまうかも知れない。

 だからか、お互いに距離を保ちながら、接するしかないのだ……。


 そのことを俺の両親は、承知しょうちしていたのだろうか。 


 だが、いくら自宅出産だったとはいえ、周りにはそれなりの人がいたはずだ。


 いや、父が生まれてきた俺に対して、例えば『フェイク』などの呪文を使用して、人間の赤子に見せたのかも知れない。


 それとも半分は人間の血をひいていたから、見た目は人だったかも知れない……。


 ……そんな風に今さらながら、自身の出生について考えるとキリがない。


 何でこういう話も家族で話さなかったのだろうか。

 親がいなくなって初めて、後悔ばかりがつのる……。


「……まあ、俺にも色々あるんだよ。

……って何、俺で着せ替えごっこしてるんだよ!」


 俺のナレーションの隙をつき、いつもの服装とは、、また違う服を着させられていた。


「どうっすか。

白いロングTシャツの上に、青のコーディガンをはおり、黒のスキニーに身をつつむ、生まれ変わった姿は?」

「そうだな。何か、俺から見てもお洒落だし、新鮮な感じだな」

「うんうん。人間、ウジウジ悩んだってうつ病になるだけっすよ。悩むより気分を変えて、楽しく過ごさないと。

……あっ、お金はいいっすよ。安いコーデにしたし、さっき包丁買ってくれたから、サービスっす」

「それはありがたい。センクス」


「さあ、姿が変わった彼氏を見て、今夜は熱い夜になるっすかね♪」

「……えっ、お前の家は春や夏でも暖房を入れてるのか?

それともエアコン自体がないとか?」

「あー、李騎は天然入っているんっすか。まあ、その持ち前のベビーフェイスでなら、何とかなるっしょ。男なら恋は、強気でゴーゴーっす!」


 レジで会計を済ませた乱蔵が、俺の片腕を強引に引っ張ってくる。

 俺もその勢いにつられて、店の外へと出た。


「ありがとうございました~!!」


 営業スマイルかは知らないが、レジの若い女性店員さんは、心底喜んでいるようにも見える。


 さらに、こちらに向かって微笑みながら、ひらひらと手を振っていた……。


****


「あっ、李騎。どこへ行っていたのですか?」

「……いや、少し、野暮用やぼようでさ」


 そこでは猫の可愛らしいキャラのエプロンをしたままの晶子が、俺らの帰りを待っていた。


 夕日に照らされた、そんな彼女の髪が色っぽく、風に軽やかに舞う。


 いそいそと、店頭に並べた薬草に、フライパン、亀の子たわしに、例の包丁などの商売道具や、ホコリを被った圧力鍋に、さらにお店の看板をしまうあたり、そろそろ閉店時間のようだ。


「まあ、いいです。晩ご飯にハンバーグを、すいちゃんと作りましたから、一緒に食べましょう。二人とも手を洗ってきて下さい」


 何も追求せずに、看板を抱えながら、そそくさと、よろず屋の奥の部屋へと入っていく晶子。


「おい、どういうことだ。いつもと変わらないぜ……?」

「まさか、彼女さんも鈍感だったっすか……。李騎も草食だし、そりゃ前に進まんっすよね……」


 乱蔵があっけらかんとしていた。


「まあ、いいじゃん。それよりハンバーグ食べようぜ。俺の母さんに負けないくらい、晶子の手料理も旨いんだぜ」

「ふむ。李騎がそれでいいなら、いいっすけど……まあ、先は長いっすから、いくらでもチャンスはあるっすよね」


 俺達二人は、お互いに軽く雑談をしながら、店の奥にある青紫ののれんをくぐり、休憩室のある室内へと進むのだった……。  





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