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第C−24話 再会した相手の行く先は

「ここは!?」


 ふと、冷ややかな地面の床で、意識が明白めいはくになる。


 私はこんなところで寝入って、何をしているんだろう。


 もう、時刻は夕方だったはず。


 子供達が、お腹をかせている。

 早く、ご飯の支度をしないと……。


 私はその場から、ムクリと起き上がるが、なぜか、いつもより体が軽い気がした。


「よう、ゆみ。ようやく気がついたようだな」


 私の横から、いつものパートナーの声が、鼓膜こまくに伝わる。


龍牙りゅうがさん!?」

「どうした?」


 体が無意識に反応し、私はその場で、あぐらをかいていた彼に泣きついていた。


「──私、とてもとても、怖い夢を見ました……」

「そうか。でも、ここも満更まんざらでもないぜ。目をらして、下をよく見てみな」


 彼の指示に従い、足元をよく見ると、白い雲海うんかいが、どこまでも広がっていた。


「これは一体、もしかしたら、ここは?」

『──そう、ここは天国。君と龍牙さんは死んだのさ』

「タケシ、お前もな」

『はい、そうでしたね。てへへ』


 そうか。

 肉体がないから、体が軽く感じるのかと、私はようやく理解する。


「しかし、今、下界はとんでもないことになってるな。アイツら、俺達がいなくても大丈夫かな」


 そう、あれは夢ではないと、彼とタケシ君に説明されて、血の気が抜けそうになる。


 私も遺された子供達、姉弟きょうだいのことが気にかかっていた。


「ごめんなさい、私のせいで……」

「いや、弓は悪くないさ。懸命な判断だったよ。弓が、いきなりあんなことをするはずがない。タケシから聞いたけど、第三者のタケシの仲間にあやられていたんだろ?」

「そうなのですか。龍牙さん、それでも私を責めないのですね」

「まあ、仮に、あの現場で現行犯逮捕された方が、余計最悪だったからな。弓が捕まって、周りからの不評が広まり、子供達も弓が死ぬまで『父殺しの母』と暮らすという、命の重みの十字架を背負うはめになっていた……」


「確かに、冷静に考えてみたらそうですね」

「……起こってしまった過去を、なげいても始まらないさ。

茄子なすがなる、茄子食え南無三なさむ、何事も、と言うだろ」


 龍牙さんが、変な例えを持ちかけ、どこからか取り出した、小さなタッパーに入った茄子の漬け物をボリボリと食べていた。


『どうだい、ボクのお母さんの浸けたの漬け物の味は?』

「うむ、ぬかの浸かり具合といい、塩加減といい、バッチリだぜ」

『ありがとう♪ お母さんも喜ぶよ』


 余程、嬉しいのだろう。

 タケシ君が口角を上げているからに、その気持ちがじんわりと伝わってくる。


『ああ、忘れてた。ボク、お母さんに頼まれた買い物あるんだった。ごめんね』

「いいってことよ、幽体だけど体には気をつけてな」

『うん。ありがとう』


 タケシ君は用事を思い出し、霧になって消えていった。


「……では、行こうかな」


 ──漬け物を食べ終えた龍牙さんが、ゆっくりと立ち上がり、歩き始める。


 私は、その頼もしい存在の背中を追う。


「どこかへ行くのですか?」

「ああ。ここから離れた所にある、タケシのお母さんもいる、お役所だよ。地獄とは違い、この天国で正式に住むには、色々と手続きがいるからな」

「だったら私も、そこまでついていきます」

「そうか、先は長いぜ?」

「いえ、私達は一心同体いっしんどうたいですから」

「ああ、分かった」


 ──二人は果てのない雲の廊下を踏み出す。


 この先に何が待っているのかは不明だが、龍牙さんとなら安心だろう。


 ──みんな、今までありがとう。

 私達は天国で頑張るからね。


 私は、もう下界で言葉は話せないけど、もしよければ、ここから見守っているから。


『ありがとう』が感謝の言葉ばかりとは限らないけど、私には言わせて欲しいな。


「ありがとう」


 そんな沈黙による、ありがとうが苦しい……。


 To be continued……。

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