「ここは!?」
ふと、冷ややかな地面の床で、意識が
私はこんなところで寝入って、何をしているんだろう。
もう、時刻は夕方だったはず。
子供達が、お腹を
早く、ご飯の支度をしないと……。
私はその場から、ムクリと起き上がるが、なぜか、いつもより体が軽い気がした。
「よう、
私の横から、いつものパートナーの声が、
「
「どうした?」
体が無意識に反応し、私はその場で、あぐらをかいていた彼に泣きついていた。
「──私、とてもとても、怖い夢を見ました……」
「そうか。でも、ここも
彼の指示に従い、足元をよく見ると、白い
「これは一体、もしかしたら、ここは?」
『──そう、ここは天国。君と龍牙さんは死んだのさ』
「タケシ、お前もな」
『はい、そうでしたね。てへへ』
そうか。
肉体がないから、体が軽く感じるのかと、私はようやく理解する。
「しかし、今、下界はとんでもないことになってるな。アイツら、俺達がいなくても大丈夫かな」
そう、あれは夢ではないと、彼とタケシ君に説明されて、血の気が抜けそうになる。
私も遺された子供達、
「ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、弓は悪くないさ。懸命な判断だったよ。弓が、いきなりあんなことをするはずがない。タケシから聞いたけど、第三者のタケシの仲間に
「そうなのですか。龍牙さん、それでも私を責めないのですね」
「まあ、仮に、あの現場で現行犯逮捕された方が、余計最悪だったからな。弓が捕まって、周りからの不評が広まり、子供達も弓が死ぬまで『父殺しの母』と暮らすという、命の重みの十字架を背負うはめになっていた……」
「確かに、冷静に考えてみたらそうですね」
「……起こってしまった過去を、
龍牙さんが、変な例えを持ちかけ、どこからか取り出した、小さなタッパーに入った茄子の漬け物をボリボリと食べていた。
『どうだい、ボクのお母さんの浸けた
「うむ、ぬかの浸かり具合といい、塩加減といい、バッチリだぜ」
『ありがとう♪ お母さんも喜ぶよ』
余程、嬉しいのだろう。
タケシ君が口角を上げているからに、その気持ちがじんわりと伝わってくる。
『ああ、忘れてた。ボク、お母さんに頼まれた買い物あるんだった。ごめんね』
「いいってことよ、幽体だけど体には気をつけてな」
『うん。ありがとう』
タケシ君は用事を思い出し、霧になって消えていった。
「……では、行こうかな」
──漬け物を食べ終えた龍牙さんが、ゆっくりと立ち上がり、歩き始める。
私は、その頼もしい存在の背中を追う。
「どこかへ行くのですか?」
「ああ。ここから離れた所にある、タケシのお母さんもいる、お役所だよ。地獄とは違い、この天国で正式に住むには、色々と手続きがいるからな」
「だったら私も、そこまでついていきます」
「そうか、先は長いぜ?」
「いえ、私達は
「ああ、分かった」
──二人は果てのない雲の廊下を踏み出す。
この先に何が待っているのかは不明だが、龍牙さんとなら安心だろう。
──みんな、今までありがとう。
私達は天国で頑張るからね。
私は、もう下界で言葉は話せないけど、もしよければ、ここから見守っているから。
『ありがとう』が感謝の言葉ばかりとは限らないけど、私には言わせて欲しいな。
「ありがとう」
そんな沈黙による、ありがとうが苦しい……。
To be continued……。