「ただいま~!」
俺達は両親が住む自宅に到着し、
当たり前だが、両親は外出中なので、シーンと静まりかえっていて、部屋からの返事はない。
「まあ、鍵がかかっているから当然だろ。マッチ一本、火事の元って言うからさ♪」
「
「いや、鍵をマッチに例えてだな……」
「はい、その話題終了~!」
自身のうんちく発言に酔いしれてる所で、由美香が砂利を敷いた庭にある、大きな石の裏にあった合鍵を手にいれ、ガチャガチャと鍵を開ける。
「さて、ご飯にするね」
玄関に入った瞬間に、何やら、がさごそと物音がする。
そして、俺達は靴を脱ぐ際に、不可思議な部分がひっかかった。
見覚えのある黒のスニーカーに、ピンクのロングブーツ。
両親の二足の靴が、静かにお帰りを告げていたからだ……。
「……お母さん、帰ってきてるの?
今日は久々に弟が遊びに来たよ」
由美香の答えに対して、突如響き渡るドアらしき開放音。
気のせいだろうか。
何者かの気配と足取りを
「しかし、凄い臭いだぜ、何だろ、血なま臭いというか……」
俺がリビングに足を踏み入れた瞬間、がらりと世界が変わった。
「なっ……」
部屋中がペンキのような色で満ちていた。
辺りを覆いつくす赤の色に、錆びいたプーンと鼻につく鉄の香り。
──正確には、人間の血液だった。
その部屋の真ん中で、血だらけで仰向けに横たわる俺達の父さん。
お腹には、深々とナイフが刺さっていた。
「き、きゃあああ、誰かー!!」
持っていた食材の入ったビニール袋をどさりと落とし、変わり果てた父さんの姿に発狂する由美香。
辺りに食材が散乱し、袋の中にあった玉子パックの玉子が、ひび割れた状態でポーンと袋から飛び出す。
それに答えたかのように、近くにやって来るピーポーと鳴り響くパトカーのサイレン。
早くも何者かが、警察に通報したようだ。
そのわりには、やたらと早いのが気になる。
俺達に罪をなすりつけた、犯人による仕業だろうか……。
──ガラリと玄関のドアが強引に開けられ、土足でドシドシと無数の足音を立て、俺達の前へやって来た、ざっと10人ほどの機動警察。
部屋の周りは警察官によって、完全に封鎖され、逃げ道はない。
「
「はっ、かしこまりました!」
モジャモジャな白髪頭に、アゴ髭を生やした上司の指示により、俺達はその中の若い警察官二人から腕を絞められ、強引にガチャリと手錠をかけられる。
「まっ、待てよ、俺達はやっていないぜ。勝手に決めつけるなよ!」
「……ここの家族は、近所でも人当たりがよく、いつも親切、丁寧の噂……。
とても周りに、恨みや憎しみを買うような人間がいるとは思えん……」
「……だ、だったら、話は早いだろ」
「だが、家庭内の暴力による反発といえば、話は別だ。コイツらを連れていけ!」
「なっ、この石頭ワカメジジイが!
解釈が違うだろ?
──なあ、由美香も何とか言ってくれ!?」
俺は、彼女に助けを求めたが、余程のショックのせいなのか、うつむき、長い髪を前にさらしたまま、返事もしない。
そのまま、俺達二人は外に連れ出され、パトカーに詰められようとされる。
「……おい、ちょっと待つのデス」
そこへ、前方から白の仮面を被った、異様な姿な全身黒ローブの男が呼び止める。
頭をすっぽりと覆ったフードに、さらにマスクをしていて顔は分からないが、しわがれた声からして、かなり年配の男性の声と判別できる。
「その二人は私が預かるのデス」
「何をわけの分からん事を……。
構わん、発進せよ!」
「はっ!
了解しました!」
見た目が二十歳くらいの若い警察官が、ハンドルを握りしめ、強引にアクセルを踏もうとする。
すると、男がローブをひらつかせながら、その車の前方に回り込み、強制的に停めさせる。
『キキィー!』
と、けたたましい摩擦音を叫びながら急停止する車体。
「おっ、お前、危ないではないか!」
「まあまあ、金なら山ほどある。これで、この二人を買うので問題はないはずデス」
男が持っていたアルミ製のアタッシュケースを、警察車両のボンネットに載せて、パカッと開けると、中には大量の一万円札の束がギッシリとしまわれていた。
「ざっと三億はある。足りないなら、もっとはずむデス。もう、この金で警察官辞めて、とんずらして高飛びしてもいいんデスヨ」
「分かった。やむを得んな……」
「ふっ、話が分かるポリ公で良かったデス」
髭面の警察官の口元が、微かに
「どうやら私達の勘違いのようだ。この件に関しては、
****
「……あ、ありがとな。おじさん」
「礼には
「えっ、他にも仲間がいるのかよ?」
「当然デス。君達みたいな弱者を守る情報機関デスから。さあ、彼女さんも一緒に来るデス」
おじさんが
だが、未だに亡くなった父さんのショックが、隠せないのだろう。
さっきから由美香は、ガタガタと震えていたままだった。
「大丈夫デス。もう怖くはありませんデス。アナタたちに神の祝福があらんことを……」
胸元からキラリと十字架のネックレスを取り出し、何やらブツブツ言いながら、天に祈りを捧げているおじさん。
やがて、落ち着きを取り戻した由美香にも、おじさんは優しく状況を説明して、俺達二人は、おじさんが運転する黒い車に乗せられた。
俺は、あの天にお祈りをしていた光景から、このおじさんはとある有名なギリスト教の信仰者かと思った。
──だが、それは間違いだった。
俺達は、見事におじさんに
****
──そこでは、とある怪物と人間をうまく同居させ、この地球で怪物でも問題なく、平和に共存できる環境を目指していた。
その怪物とは、過去に絶滅したと言われていた
吸血鬼の生き残りの
また体には、その吸血鬼のウイルスを注射され、反抗したり、
そして、
さらに、俺達二人も体を縛られ、そのウイルスを注射されて、モルモットのように研究材料にされる羽目になったのだ……。
──季節は真冬。
俺と由美香の暗黙な地下施設での暮らしが、
今、幕を開ける……。
****
──時、同じくして……。
「ふふふ、少しばかり、時空を
「そうか、季節を夏から冬に変えて、あの二人を禁断な関係に持ち込んだのか。中々面白いな」
「私の腕前なら、このような時空転移や、恋愛術の操作なんて簡単なものよ。
──まあ、死んでしまった人達は元には戻せないけどね……」
「そうか、よほど、彼のことが好きだったんだ……」
「ええ。好きだった。
でもいいわ。今はこうして、素敵な
「ミコト……。君は素直で可愛いね。あんな分からず屋の
──160くらいのやせ形に、肩まで伸びた茶色の癖のない髪型が美しい。
それは懐かしい彼女の
少し小鼻でパッチリとした二重で、それなりの美少女で肌は白く、若い頃の弥生に化けた宇宙人の
そう、人間には華盛りがある。
どんなに可愛くても、美人でも、老化によって枯れてしまう。
それでも、その人を生涯愛せるか。
それとも、そこで愛は冷めてしまうのか。
どうやら僕は、後者の選択肢だったようだ……。
そんな僕達は、遮光カーテンを閉めきったワンルームの部屋で、笑いを交えた世間話をしていた。
恋人同士でもあり、楽しげに語らいを紡ぐ二人は、これから待ち受ける竜太達の