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第D−4話 ムード一色(頼朝side )

◇◆◇◆


「親父も、おふくろも、喜ぶかな?」


 ──今から、ちょうど一年前。


 赤いパーカーに黒いスキニーで眼鏡姿である、今年で17歳で高校2年生になった俺の名は、柊頼朝ひいらぎよりと


 俺は自宅で幼馴染おさななじみの彼女と、和気あいあいと仲良くパーティーの飾りつけをしていた……。


「今日はクリスマスだからね。二人とも共働きでしょ。疲れて帰ってきたら、きっと癒されて喜ぶと思いますわよ」


 彼女の名前は、西都美希さいとみき


 ドライヤーで赤茶けたパッツン前髪のロングヘアを後ろにまとめて、赤のリボンで縛り、動きやすいポニーテールの髪型をしている。


 彼女の年齢は頼朝おれと同じく、17歳の高校2年。

 灰色のトレーナーに、赤いミニスカート。

 スカートの下には、青のジーンズを履いており、そんなカジュアルコーデからして、元気で活発な性格。


 おまけに底無しに明るく、美少女アイドルのような可愛い顔立ち。


 さらに胸もFカップと凄まじく大きく、彼女が歩く度に、その物体もゆっさゆっさと揺れ動く。


 あれはマトモに直視出来ない。

 男を狂わす殺人兵器だ。


「ねえ、頼朝。大体終わったけど、どうするの?

何か美希が、ちょちょいと手料理でも作ろうかしら?」


 不意に彼女が、さっき二人でスーパーの買い出しで詰めたばかりの冷蔵庫から、ガサゴソと6玉入りの卵パックを取り出す。


「いや、美希。ちょ、ちょっと待て!」


 俺は慌てて、引き止めにかかる。


「何、どうかしたのかしら?

今日は、お好み焼きでも作ろうと思ってるんだけど?」

「……な、何だ、お好み焼きか。それなら安心だな……」


 俺はホッとして肩を撫で下ろす。


 前回のホットケーキの出来映えには色々と驚いたが、水で溶いた小麦粉に、刻んだ野菜を混ぜた品なら、さぞかし、うまく仕上がるに違いない。


 あとは、ただ焼くだけだから、焦げないように注意するだけだ……。


****


 ──それから、しばらくして……。


「おっ、おい、これは何だ!?」


 食卓に置かれてある丸いお皿に載った、イカのゲソがスパゲティーのように乱雑にはみ出した、モワモワと紫の煙が漂う、小麦粉だった物を指さす。


「何って、美希特製のお好み焼きですわ~♪」

「いや、どこから見ても、幼稚園児による、宇宙怪物を模写もしゃした粘土細工にしか見えないが……。

……これ、れっきとした食べ物だよな?」

「あっー、失礼ですわね。形は見てくれでも、味は保証付きなんですわよ。

──ほいっ♪」


 ルンルンと調子に乗った美希が、俺の口に、その異物をポイッと放り込む。


「……ほがっ、〇△□ー!?」


 俺は、あまりの痛快な味覚を味わい、床にバタンと倒れ、口から泡を吹きながら、ピクピクと痙攣けいれんする……。


「何、そんなに美味しいのね。ありがとうですわ♪」


 美希がお好み焼きを焼いたホットプレートに、ジュウと音を立て、新たなるお好み焼きの分身を焼く。 


 もはや、これは飯テロだ。

 このままでは俺の両親も危うい。

 今すぐに、その破壊調理人に染まったテロの手を止めてくれ……。


 ──そう、美希は掃除、洗濯などの家事は出来ても、料理だけは超下手だったのだ。

 彼女が作る料理で、マトモな料理は出た試しはない。


 彼女自身の味覚がおかしいのか、味も食べられたものじゃなく、一口食べただけで地獄の扉が待っているのだ。


 おまけに薄味の味付けではなく、ボクシングのブロー並みに強烈な濃い味なパンチ力……。

 決して美味ではなく、常に舌にまとわりつく、からい、すっぱい、ほろ苦いの最強な後味も尾を引く三点セット。


 こんな食生活をしていると、いつかは倒れかねない。


 スーパーで安価に入手できるカップラーメンの方が遥かに健康的な食品だろう。


 そんな、食べ過ぎると生活習慣病へといざなう、魔のラーメン……、

 ……それを越える、出来映えの手料理となると、もはや、食べ物ではない。 


 そんな食としても怪しい、粘土の塊が竹串で貫かれ、ジェンガの積み木のように積もり重なって……。


「おい、美希。食べ物を粗末にするな!」

「だって、こんなヒラヒラの塊だからさ、ちょっと遊び心で……。

だからね、フォーティンアイスみたいに重ねたくならないかしら?」

「そうだな。フォーティンを過ぎた色っぽい熟女も素敵だな。

……付き合うなら年上もいいが、顔が幼いロリフェイスが好みだな。

……それでもって巨乳で、『私、痩せてるせいか、胸が重たくて肩がこりやすいんです。ダーリンなら、この恥じらいの気持ち分かりますよね?』と、グイグイ攻めてくる女性なら、なおさら良くて……」

「あのねえ、美希はアイスの話をしてるんですよ?

……それなのに、何、熟女のお姉さん?

急に幼児退行したくなったのかしら?」

「はっ、幼児?

俺が何でだよ?」

「だから、ママさんみたいなのがタイプなんですよね?」

「いやいや、ちなみにバツイチも駄目だぞ。下らん恋愛観の違いで別れてほしくない。

『……なら、なぜ結婚したんだ、ただ嫌なだけで別れるな。お前は子供じゃないだろ、生涯のパートナーって結婚式場で誓っただろ。

……お前は、それでいいのか!』って、声を大にして言いたい……!」


「……やれやれ、相変わらず、恋愛観に対しては理想が高すぎて、一途でお堅いですわ。だから、いつまでたっても人生の伴侶のパートナーが出来ないのかしら?」

「今、何かさらりと、ひどいこと言ったか?」

「いいえ、何でもないですわ~♪」


****


「さあ、好評なんで、じゃんじゃん作りますわ~♪」


 怪しげな小麦粉の材料を混ぜながら、お玉に、その液体を入れて、ルンルン気分で再調理(リクエスト?)に取りかかろうとする。


「いや、止めてくれ、美希。

これ以上、砂遊びのような食べ物を作る、危険なおままごとは止めろ……」

「えっ、何ででしょう。これ、美味しいですわよ?」


 具材を焼きつつ、その隙間時間にパクパクと、紫の小麦粉の塊を食べながら、おかしな感想を述べる。


「一体、お前の味覚センサーはどうなってんだよ?

とにかく料理は出前で注文するからさ」

「ぶーっ、散々な言われようですわ……」


 俺は何とか目の前の食事を食べ終え、被害を最小限に食い止めるのだった……。


「では、さらばだ。ぐぶっ……」


 その直後でバタリとぶっ倒れるのは、目に見えていたが……。


****


 ──やがて、時刻は夜の10時。

 俺の両親はまだ帰ってこない……。


「ごめんなさい。もう遅いから帰るわ。ご家族によろしく言っといてね」


 倒れた俺を介抱していた美希が、申し訳なそうに呟く。


「ああ、こんな遅くまですまんな。この埋め合わせはするから」

「ありがとう。駅前の喫茶店のイチゴとチョコたっぷりジャンボパフェですわよ」

「ははっ、ちゃっかりと一番高いデザートを……。

まあ、飾りの礼もあるからな。

……ああ、分かったよ」


「ちなみに三つですわ~!」

「なっ、あれ、一個で千円だぞ?

俺の財布が、すっからかんになるじゃんか!?」

「まあまあ、可愛い女子から、ひざまくらで介抱されて、文句言える立場じゃないでしょ」

「あっ、悪魔な女王様だ……」

「きゃははは。長い付き合いなのに、今さら何を言ってるんだか~♪」


 こうして女王様は、俺に飴と鞭と無茶を与えて、帰っていったのだった……。


****


 ──美希が帰った後も、俺は寝ずに両親の帰りを待ちわびた。


 やがて、時計の両方の針が12の部分にカッチリと重なった時、しばらくして玄関からドタバタと物音がした。


「ただいま~♪」


 その物音の正体は母だった。

 上下黒のスーツ姿だが、服装は乱れており、ベロンベロンに酒に酔っていた。 


 また、千鳥足ちどりあしでフラフラで、歩くのもままならない。


「あれ、親父は?

一緒じゃないの?」

「ああ、あの男は、まだ編集部にいるわよ。本当、つまらんよ。

いい歳こいて、考えが子供やし。

──誰のお陰で、この家に居れると思っているのやら……。

ところで、いつものもらえる?」


 母は赤のハイヒールを玄関で脱ぎ捨て、俺に冷たい水を要求する。


 それから、部屋の飾りつけを見て、大いに笑い出す。


「あはは、めっちゃうけるんだけど。何、これ?

──あんたも、高校生にもなって、いまだにガキっぽいことするわね。クリスマスなんて、ギリストのイベントなのに、わざわざ祝ってさ」

「おふくろ、美希も手伝ってくれたんだよ」

「ああ。あの生意気なガキんちょか。私の息子に色目使ってからに……。

ヤりたいなら正直に言えつーの……」


 母は美希に会うときは、いつも優しく微笑んでいたのに、酔うと本音が飛び出すのか?


「……おふくろ、いくら何でもそれは失礼だよ」

「ああん、何さ。親に逆らう気かいな?

お前のプレゼントもケーキもないのに、人の家でこんな勝手なことをされてもねえ。まあ、クリスマスなら、もう過ぎたけどさ」


 その母が笑いながら、バリバリと部屋の飾りをいでいく。


「や、やめろよ!」

「何、ムキになってるのよ。もうクリスマスごっこは終わりよ」


「あっ、それから、母さんはあんなクズな父さんとは離婚するから。

──あんた、どうすんの? まあ、私としては、ガキの面倒なんて見たくないんだけど?」


 何て、無責任な大人なのだろう。

 父は何も不平も文句も言わず、いつも仕事を頑張っているのに……。


「あんな歳こいて、売れない少年漫画家だなんて、考えただけでむずがゆいわ」

「……おふくろ、もしや、漫画家を馬鹿バカにしてるのか?」

「あはは、時代はデジタルなんに、あんな古臭い紙切れで、凝り固まった妄想を落書きしてからさ。どうせ子供騙しの職業やろ」


 ──その母の言葉にカッと感情的になった俺は、ケーキの近くにあった果物ナイフを握っていた。


 途中から勢いあまって、眼鏡が外れたせいか、その後のことはよく見えていない。


 ただ気がついて、右片方が割れた眼鏡をかけ、様子をうかがうと、足元で苦しみもがく母が倒れていた。


 そして、忘れ物を取りに戻ったらしい美希が、真っ青な顔で、泣きながらスマホで何やら通話していた。


 救急車、いや、警察もか……。


 しかし、10分後に来たのは、救急車のみで、警察の代わりに黒いローブの男がやって来た。


 それから彼の指示で、この施設に入れられて、今にいたるのだ……。



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