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「……ねえ、
「その声は
おはよう」
俺は、いつの間に、ぐっすりと
実の姉の柔らかなひざまくらから、心地よく目が覚める……。
「うん、おはよ。昨日はよく眠れた?」
「おいおい、小学生の遠足じゃあるまいし、何言ってんだよ?」
「何言ってるのは、こっちの台詞よ。どこから見ても
「……えっ?」
俺は、あわてふためき、体を触る。
坊主頭で半袖に半ズボン。
特に目立って、おかしい部分はないが……。
そこへ、由美香から手鏡を床に滑らしてくる。
受け取った鏡から見てとれるのは、
「よくいるのよね。
現状も分からないままで、
由美香が溶けたアルミのようにグニャグニャと変形し、別の若い女性の姿に変わる。
「改めて初めましてね。私の名前は宇宙人のミコトよ。ここでは
──まあ、あの娘を、この世から消すために、精神状態は中々壊せなくて苦労したけどね」
見慣れない学生服姿の弥生と呼ぶ女性、正しくは
それに今、想像を絶するほどに、体をグニャグニャにしながら、私は宇宙人だと断言した。
最近の世の流れについていけない、自分が恥ずかしい……。
──周りは白く駄々広い、何もない空間。
空間と地面にはドライアイスを気化させたような白い煙が、もやもやと空から床へとこぼれ、
「俺はどうして、こんな場所にいるのさ?」
「あなたは今、時空の狭間にいるのよ。それにあなた、本当はすでに死んでいることが分かってる?」
ミコトの言っているキテレツな言葉の内容が、うまく飲み込めない。
ここは現実世界ではないのか?
「えっ、死んでる?
……はっ、何言ってるんだ。ここはあの世だとも言うのか?」
俺は
どう見ても、生前の場所ではないことは、判別はできるが……。
「……そんな場所よりも、もっと最悪よ。ここは望まれない自殺者がさまよう悲しみの場所……
「何だって、俺が自殺しただと?」
「まあ、そのうちきっかけがあれば、思い出すかもね。それよりも、あなたには時間がない」
なぜ、俺の陽気な性格からして、自ら命を断ったのだろう。
俺はそんな根っから、
むしろ、毎日を一生懸命に生きたいと思っている。
そんな楽観的思考な俺が、自ら命を断つ。
死に
それになぜ、小学生の格好なのかも気にかかる……。
「──確かに前回までは夏の展開で世界を進めてきたけど、毎回、同じ救えない結果だった……。
──だから、今回は恋人が寄り添える冬へと季節を変え、姉と恋仲にして、二人で乗り越えようと
「──やがてそのうち、また、あなたは血が吸えない吸血鬼の
「──あっ、この話は
──それに繁さんには、この運命を変える度に記憶を消して、人の生死までは
ミコトが伊達続けに喋り、俺がまったく知らない人の名前をペロリと出す。
繁とは、彼女の恋人だろうか?
「──で、俺をどうしたいんだよ?」
「どうこうもしないわ。またあなたに選んでほしいわけ。
──このまま肉体も埋葬して死ぬか、また時間を逆戻しするか……。
……ちなみに弥生は静かな死を選んだわ」
俺の知らない場所での女性の命運に、ミコトが
「そんなの決まってんだろ!
俺は吸血鬼になってでも這いつくばって、その運命に
俺は、その場から立ち上がり、多少苛立ちながらも、ミコトに熱い感情をぶつける。
「ふふっ、毎回、そうだけど、今回もいかにもあなたらしい答えね。
まあ良いわ。なら、またチャンスを与えるわ……季節はいつがいい?」
「そうだな。やっぱり夏が好きだぜ」
「分かったわ。季節感を夏に戻すね。
──ちなみに運命を巻き戻してからの記憶の混乱を防ぐために、今回も今までの
では、今回も精々頑張ってねー♪」
すると、俺の体がみるみる大人の体に変化していき、彼女から
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「……はっ!?」
俺は冷たい床から、目を見開く。
この感覚は間違いない。
俺は、生きている。
体を起こし、様々な箇所を触って確認する。
どこも怪我などもなく、悪い部分もない。
間違いなく、俺は、まだ生きている。
あれっ、
何のことだろう?
それに、なぜ隣にベッドがあるのに、床で寝ていたのか。
寝相が悪くて、床へと転がり落ちたのか?
さっきから、考えが
──ふと、耳を澄ますと、どこからかカタコトと物音がする。
よく見ると、ここは俺の家だ。
この音は、まな板で食材を切る音。
それにほんのりと漂う味噌の香り。
誰かが台所で料理をしているようだ。
「──あっ、竜太。おはよう。
もうちょっと待ってね。もうすぐ朝ご飯が出来るからね」
──俺が気になって、台所を覗くと、ピンクのフリフリなエプロン姿の由美香が、何やら張りきって、調理をしている。
今はお玉を手に取り、味噌汁の味を確かめるために、あちちと汁をすくって、味見をしていた。
「あっ、そうそう。お父さんとお母さんは、今週の日曜日は、朝から友人と潮干狩りに行ってていないから。いわゆるラブラブデートよ」
「えっ?」
由美香の話がまったく読めない。
「何でだ。確か、俺達の両親は?」
「ふふっ、何か思い詰めてどうかしたの?
さあ、朝ご飯にしようね。
──早く食べないと学校に間に合わないよ」
──学校。
そうだ、俺は
十分に学生生活を満喫しないといけない。
それに頑張れば、もうすぐ待望の夏休みだ。
俺はマーガリンをたっぷりと塗ったトーストをかじり、キャベツとトマトの柚子ドレッシングのサラダを食べて、熱々な豆腐の味噌汁をすする。
「いや、待てよ。パンと味噌汁の設定っておかしくないか。和と洋のコラボか?」
「えっ、何、わけの分からないことを言ってるの?
早く食べないと遅刻だよ」
由美香が味噌汁の豆腐を、不器用に
そう、学生の性分は、将来に向けての勉強なのだと……。
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俺は朝食を食べ終えると、そそくさと白の学生鞄をかるって玄関へ向かう。
「竜太、気をつけてね。いってらっしゃい♪」
背後から、バイバイする姉の声を耳にしながら、俺は学校へと向かおうとする。
そこへ、
「竜太、待って」
玄関のドアを開けようとした際に、彼女が俺を呼び止める。
「はい、お弁当、忘れてるよ。
……何、どうかした?」
「いや、このタイミングなら、お出かけのキスかなと思ってさ」
「あはは、
「まったく、そうだよな~!」
俺は由美香から、黄色い
そうだよ、俺は何を考えているのやら。
何かが引っ掛かってはいるが、また妄想の
つまらない
俺はキッパリと心の片隅にあった、思い出せない何か? を諦め、一目散に学校へと走り出した……。