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006


 第7会議室。時間は朝の8時50分を回ったぐらい。深は机に座っていた。


 昨日は疲れていたらしく、すぐ寝ることができた。

 朝もすっきり起きることができ、深は少し早めに部屋を出ることにする。そして、スーツ姿のサラリーマンに囲まれながらの電車を降り、局に到着した。


 自分の席に行くと、隣には礼子が座っていた。


「おはようございます」


 深が後ろから声をかけると、礼子は眠そうな声であいさつに答えた。


「そういえば……あの後、結局どうすることになったんですかぁ?」


 礼子が相変わらず眠そうな声で質問する。


「うん。今週は午前中に講義して午後はトレーニングだって。でも俺、全然霊能力とかないからみんなとはまだ合流しないらしいよ」

「そうですかぁ。早く合流できるといいですねぇ」

「そうだね。でもあんなに疲れる訓練も気が進まないけどね」

「あはは。さて、私もう行きますね。着替えなくちゃ。春さんと瞬さんも行っちゃったし。それじゃあ」

「うん。がんばってね」


 深は穏やかな笑みを浮かべる。

 どうも、この礼子って子は妹のような雰囲気を持っている。いや、実際妹はいないのだが、深は妹と話しているような気になってしまった。

 そんな彼女の背中が見えなくなるのを待って、深も会議室に移動することにする。



 会議室に到着すると、深は少し緊張した面持ちで深呼吸を行う。

 長谷川と名乗る女性との2人だけの講義――ということに緊張しているわけではなく、その講義内容に期待を持っていた。

 しかし、9時を過ぎても長谷川の姿はない。


(まぁいいか。あの人も忙しそうだし……)


 結局、9時半を少し過ぎたぐらいに、さわやかな笑顔の長谷川が部屋に入ってきた。


「おはよう。遅れてごめんね」

「おはようございます。お構いなくです」

「あら。パソコンも持ってきてくれたのね。昨日、言い忘れてたから持ってきてなかったら取りに行ってもらわなきゃって思ってたところよ。ありがとね」

「いえ、なんとなく、筆記用具とパソコンあたりは要るかなって思ったんで……」


 長谷川が深の正面に座る。


「そこのLANケーブルつないで。サーバーの共有フォルダに資料があるのよ」

「あっ。でも、自分ネットワークにはつなげること出来ないらしいですよ。まだ、アカウントとパスワードもらってないんです」

「あらそう。じゃあ、フラッシュメモリでいいかしら」


 長谷川が持ってきたセカンドバッグからフラッシュメモリを取り出す。


「じゃあ、始めるわね。最初に……そうねぇ……深君はどれくらい知っているの?」


 長谷川から急に放たれた質問に、深は少し困惑する。自分の持ってきたパソコンにデータを移しながら顔をあげた。


「どれくらいって言われても……そうですね。千年に1度の大詔時代がくるとか……あと……その影響で妖怪がたくさん出現するとか……多元ホールとかいうのも聞きました」


 長谷川がしばらく黙った後、口を開く。


「そうね……それぐらいしか知らないでしょうね。まぁ、歴史に関しては軽く通すぐらいでいいでしょう。なにぶん時間もないですし。後々、実際の任務がどのように行われるかについてとか、そういうのじっくり教えたほうがよさそうね」


 それから2時間程、平安時代から今に至るまでの歴史について長谷川の講義が続いた。

 しかし、その内容は深にとって驚愕するほどのものばかりであり、深は時間が過ぎるのを忘れて長谷川の話に集中することとなる。



 前回の大詔時代は平安時代だったわけであるが、その前、つまり2000年前は日本に文字がなかったため、その資料はほとんどないらしい。

 しかし平安以後、歴史上の名だたる人物が霊能士として暗躍していた。そのほとんどは、男尊女卑文化の影響から男性として歴史に名を刻んでいるらしく、歴史にあまり詳しくない深でも知っている名前が数多く上がっていた。

 何より驚いたのは、江戸時代の幕府の大奥が霊能局の組織の前身に当たるという事実だ。組織の存在をカモフラージュしつつ、将軍直属に行動するにはかなり有効である。

 しかし、深の中で歴史がひっくり返ったのはいうまでもない。


 長谷川のその時の一言が印象的だった。


「将軍だからって浮気ばっかりしてたら、奥さんに怒られるでしょ」


(そういう問題じゃ……)


 そんな様子で令和の現代に至るまでの歴史の講義を終え、長谷川が背もたれに寄りかかりながらつぶやく。


「さて、少し休憩する? 疲れたでしょ?」

「じゃあ、トイレだけ行ってきます」


 深は背伸びをして席を立つ。

 トイレから戻ってくると、すぐに長谷川が話しかけてきた。


「さて、次行くね。結構飛ばしちゃったから後でよく読んでおいてね」

「はい」

「次は……そうねぇ……妖怪の話でもしましょうか?」

「はい。お願いします。自分もそこはまだ半信半疑なんで」


 冷静に考えると、妖怪の存在を当たり前のように肯定している22歳の自分がここにいる。もちろん、ここまで話が進んでいると疑う余地はないのだが、深は一瞬だけそんな自分を恥じた。


「うふふ! そうでしょうね。まずね……妖怪っていうのは一般的な名称で、うちらの間では『異界敵性生物』というわ。任務中は略して、『異敵生物』っていうことが多いかしら。

 で、そういった異敵生物は多元ホールを利用してこちらの世界にやってくるわ。いったいいくつの異世界があるのかは、まだまだ調査中」

「あ、すいません。話それるんですけど……そもそも、多元ホールってどうやって開くんですか?」

「うーん……自然発生することもあるし。これからの大詔時代は、計画的に開くこともできるようになってしまうわ。昨日、結界術士の話はしたわよね?」

「はい。そういえば……」


 深は昨日、長谷川の部屋でサイと長谷川が話していたことを思い出す。2人の会話はよくわからなかったが、たしか結界術がどうとか言っていたのはかろうじて覚えていた。


「A級結界術士が数人集まれば多元ホールを開くことは可能だわ。1回開いたホールを維持するのはもっと簡単。その後つきっきりで術を使い続けなくてはいけないけどね」

「はぁ……」

「そういうこと。今までは自然発生した多元ホールから少人数の異敵生物が偶発的に侵入してくるだけだったんだけど、これからは人為的に開けた多元ホールから部隊……というか軍隊並の兵力で計画的に侵入してくるのよ。住みやすいこっちの世界に移住する目的でね」

「もしかすると、自分らの祖先も他の世界から侵入してきたのかもしれないっすね……」

「ふふっ! そうかもしれないわね。面白いこと言うわね、あなた」

「あっ、別に……何となくです」



「続けるわね。それで、異世界からの侵入者は、組織を組んでこちらに侵略してくるわ。その中には一般の兵士もいるけど、私らと同じように霊力を駆使できる兵士もいるのよ」

「だから、自分らも霊能士で対抗しなきゃいけなくなるんですね?」

「そういうこと。一般の兵士は、自衛隊の兵器で対抗できるわ。だけどね、霊力を使った敵には有効な手段ではないのよ」

「どういうことっすか?」

「高密度の霊粒子を体の周りにまとった霊能士は戦車のミサイルでも倒すことができないわ。霊能士のレベルにもよるけどね。それほどの硬度を持つことが出来るの。そうねぇ、瞬ちゃんは知ってる?」

「はい。自分と同じ班の瞬さんですよね?」

「あの子がいい例ね。スピードタイプの戦闘術士で、霊粒子を体の周りに充満させるのが得意だわ。あの子、もうライフルぐらいの弾丸ぐらいなら簡単にはじき返すわよ」

「まじっすか? すげぇ……ほんとに…? あれ? じゃあ、どうやってそーゆー敵を倒すんですか?」

「対抗手段として、我々も霊粒子をまとった武器を使うの。刀とか槍とか……結局、私たちの戦いは戦国時代みたいな古い戦い方になるわね。他には……礼子ちゃんは手にした武器に霊粒子をまとわせるのが得意ね。破壊力は抜群ね、あの子。

 春ちゃんは弓矢を使うわ。遠距離攻撃が得意なの」

「はぁ……」


 深は、現実味を帯びてきた『戦う』という事実に、驚きと不安の混ざった溜息を吐く。


「ん? ちょっといいですか? じゃあ、自衛隊とかで使ってる武器……つーか現代の武器にその……霊粒子……でしたっけ?それを使って戦うことはできないんですか? ほら、マシンガンとか」

「いい質問ね……そうねぇ。そういったものは刀とか弓に比べて、霊粒子をまとわせることが難しいのよ。小さなねじ1個に至るまで均一に霊粒子を送り込まなくてはいけないわ。弾丸を発射するときにマシンガンの部品の動きに合わせて霊粒子の動きも調整しなきゃいけないし。

 そういうものなの……あっ、でも関西のほうに2、3人小さな銃を使える人がいるらしいわ。仕組みの簡単な回転式の銃らしいけど」

「はぁ……」


 深は相変わらず同じ相槌を打つのみ。


「人それぞれ、武器も違えばスタイルも違うわ。あなたはどういった戦い方をするのか楽しみね」

「今んとこ、なにも想像できないですよ」

「うふふ。話し戻そうかしらね。異敵生物の話に戻るわよ? 大丈夫?」

「あっ、はい」

「さっき平安時代の時の話で百鬼夜行の話はしたわよね?」

「はい。大丈夫っす。覚えています」

「あの絵画の中に書かれている妖怪は、ほとんどが想像上の生き物よ。他にも、いろんな地方に残っている伝説や言い伝えの生き物もほとんどがそれ。長い年月で話が変わってしまうことはよくあることなんでしょうね」


 深はパソコンのモニターに映っている平安時代の絵画を見つめる。


「だけどね。中には実際の異敵生物が描かれてたり、語り継がれていたりすることもあるのよ。その前に『進化』の話をしてもいい?」

「はい? 『シンカ』?」

「そう。ダーウィンの進化論の『進化』」

「あ、その『進化』ですか。はい。お願いします」


 急に話が変わったので、一瞬何を言っているのかわからなかった深であるが、モニターの中に写る資料とは関係なさそうな話であることはうっすらと気づいたので、モニターに向けていた視線を長谷川に移した。

 その視線をしっかりと受け止め、長谷川が話を続ける。


「我々は猿から進化したわよね? でもね、異世界でも同じように猿から進化した生物が生態系の頂点に立つとは限らないのよ」

「つまり?」

「牛から進化したものが二足歩行をして、知能をもったらどんな生物になると思う?」

「牛?」


(うし…? つの? ……ガタイはよさそうだな……)


「鬼……みたいなのですか?」


 長谷川が綺麗な笑顔を浮かべる。


「そう! 勘いいわねッ! その、牛の進化した生き物が多元ホールからこの世界に侵入してきて『鬼』として人々に恐れられる存在になったのよ」

「なるほど……」


(確かに理にかなっているな……)


「ちょっと無理矢理なのが、ろくろ首。あれはヤモリみたいな爬虫類が進化した形ね。でも人の顔はしていないわ。絵画や言い伝えが間違って伝えられたいい例ね。他にもヨーロッパのほうでは狼男なんてのもいるわね。これはわかりやすい。そのまんまよ」

「なるほど」

「何も二足歩行できた生物のみが知能を持つわけでもないらしいけどね。そんな感じで考えると納得いくでしょ? 妖怪みたいな変な生き物がいるってことも」

「はい。確かに……」


 そこまで説明が終わると、長谷川が壁の時計を見た。


「そろそろ時間ね。今日はここまでにしましょう。お昼の時間よ。午後は地下に来てね」

「はい。わかりました」


 2人はパソコンを閉じ、部屋を後にする。

 自席に戻ると、深の周りの席に春たち3人が座っていた。


「おっ、おはよ。どうだった?」


 深の正面の席に座り、深が近づいてきたことに一番早く気づいた瞬が話しかけてきた。3人とも顔に少し汗をかいているが、昨日の夕方よりははるかに元気である。


「おはようございます。うん。歴史と異敵生物について教えてもらってきました。あっ、あと多元ホールにも……」


 春も立ちあがりながら深に話しかける。


「驚くこともいっぱいだったでしょ? 深君、お昼どうするの? 私たちこれから食堂行くけど。一緒に来る?」

「あっ、はい。いろいろ聞きたいこともあるし」

「よし。ごはんだぁ」


 礼子が満面の笑みを浮かべ、瞬も立ち上がった。





 午後は地下の訓練場での訓練である。

 深も着替えを済ませた後、ひとまずその他の3人と一緒に訓練場で待っていた。訓練場には既に20人近くのメンバーが待機しており、全員が待つ中、長谷川が静かな様子で最後に姿を現す。


「はい、みんな集まって。あっ、深君はこれ」


 長谷川が1枚の紙を深に手渡す。そこにはトレーニングのメニューが書いてあった。


「とりあえずこれ見ながら内容に沿って筋トレしてて。隣のウェイト室ね。内容は女の子用の初期段階メニューだから回数とか重さ増やしてもいいわよ。機器の使い方はわかるわね?」

「はい。大丈夫です。あっ、でもここでちょっと見学してていいですか?」

「うーん、今はまだやめたほうがいいわよ。隣の部屋行ってなさい。ガラス張りだからあそこからでも見えるし。理由は後でわかるわ」

「はぁ……」


 深は怪訝な表情を浮かべながらも、長谷川の指示に従って歩き出す。

 ウェイト室に入った後、ガラス越しにしばらく彼女たちを見ていたが、長谷川の話が続いているため何かが始まる様子はない。

 深は諦めて、先ほど渡されたメニューを読むことにした。


「ベンチプレス20kg 10回×2セット。確かに女の子のメニューだ」



 一通りメニューを見終わり、トレーニングに取り掛かろうとしたとき……



 急な悪寒が深を襲い、体全体に鳥肌がたった。



 そして真冬かと思うほどの異常な寒気……



 それらが深の体を突き抜ける。



「……な……なんだ…?」


 そのまま立っていることが出来なくなり、深は近くの壁に寄り掛かる。

 ふと顔をあげると、ガラス越しにいた20人近くのメンバーが武器を持ち、長谷川に走り寄っている風景が目に入った。


「……始まった……これが……でも……この感じは……」


 とてもじゃないが立っていられない。


(なんだ……この感じは……)


 ガラスの向こうで長谷川が5人ほどのメンバーを相手に木刀を振り回していた。一瞬でそのうち4人が後ろに飛ばされ、5メートルほど離れたところに着地する。


(これは……そう……昨日、サイとかいうばあさんから感じたあの気配……でも、もっと気持ち悪い……どこから? いや、何となくわかる。あのガラスからだ。ガラスの向こう……)


 意識を失いながら、深は長谷川がなぜ隣の部屋に行けと言ったのかを理解する。



 ガラスの向こう側……多分……



 地獄だ……





「深君……深君……」


 肩を揺すられて、深は目を開けた。まぶしさに耐えかねて目を細めると、視界の中に長谷川がいることに気づく。


「起きた。大丈夫?」


 長谷川の隣に礼子の顔もあった。


「……はい……俺は…?」


 どうやら気を失っていたらしい。長谷川に起こされた今も深はまだ横たわったままであるが、先ほどの気持ち悪さは消えていた。


「ごめんね。早く気づいてあげられなくて」


 長谷川が申し訳なさそうに謝る。おそらくは深が倒れているこの状況に対して謝罪しているのだと思われるが、深は他の点について疑問が浮かんだ。


「……早く…?」


 そして、まぶしい視界を必死に見まわし、壁に掛けてある時計を見る。時間は4時半を回っていた。

 つまり3時間以上気を失っていたことになる。


「まさか気を失うとはね。大丈夫? 気持ち悪くない?」


 長谷川の顔は相変わらず心配そうな表情であった。


「はい。大丈夫っす。でも……俺……」

「深君、私たちの霊粒子の影響で気持ち悪くなったのよ。ほんとうにごめんね。まさかここまで影響受けるとは……」

「敏感肌ってやつですかねぇ!」


 長谷川の肩越しに礼子が笑いながら話しかけてくるが、礼子のさらに後ろから春の声が聞こえた。


「……礼子……笑えないわよ……」


 深は起き上がりながら、長谷川の後ろに春と瞬がいることにも初めて気づく。2人も心配してくれているようだ。


「治療室行く?」

「いえ、大丈夫っす……」


 頭を振りながら深が答えた。寝起きのようなだるさはあるものの、それも徐々に収まることで体に異変がないことにも気づく。


「よかったわ。でも考えなきゃいけないわね……このままだと、ここでのトレーニングすらままならないわ」

「これって……あんまりよくないことなんですか?」

「いえ……逆に深君は能力はあるってことは証明されたわ。普通の人には何も感じないものだから、むしろ喜ばしいことよ。あっちの部屋にいたら、多少つらいかなって思って……みんなが戦闘態勢入る前にこっち来させたの……でもまさか、ガラス越しでもここまで影響受けるなんて。本当にごめんね」


 相変わらず長谷川は謝り続ける。やはりかなり心配しているらしい。

 そんな雰囲気に気づいた深は立ちあがり、体の無事をアピールした。


「いえ、本当に大丈夫っす。こっちこそ心配かけてすみません」

「でもどういうことなんですか? 深君、霊力もほとんどないし。それなのに……」


 春が首をかしげながら長谷川に質問するが、質問された長谷川も同じように首をかしげるだけ。


(あぁ……俺ってやっぱ特殊なんだ……)


 そう思いつつも、やはり深自身にどうこうできる問題でもないので、深も困ったように首をかしげた。


「うん。ちょっとサイさんに報告する必要あるわね。私もう部屋に戻るわ。深君? 何かわかったらメール入れとくわ」

「でも、俺まだアカウントもらってないです」

「そうだったっけ。じゃあ、花南ちゃん経由で連絡するわ。それだったら大丈夫?」

「大丈夫っす」

「じゃあ、後よろしくね」


 その後、長谷川が振り返り、出口に向かった。


「お疲れ様です」


 去っていく長谷川の背中に4人は挨拶をする。ガラス越しに向こうの部屋からも数人が頭を下げた。


「でも、びっくりしました……トレーニング終ってこっちの部屋に来たら深さん倒れてるんだもん。まさか……死んじゃったかなって……」


 長谷川の姿が消えると同時に、トレーニング機器に座りながら礼子が言った。


(勝手に殺すな……)


「俺もびっくりした。みんなが……戦い…? なのかな…? あれ始めた途端、気持ち悪くなって」

「じゃあ、うちらが戦ってたのは見れなかったんだ」


 瞬が汗を拭きながら聞いてきた。


「はい。多分……30秒も……あっ、そういえば今日はどうだったんですか?」

「昨日と大して変わらないわ。長谷川さんには全く敵わない」


 春が髪をかき上げながら話に入ってきた。


「でも……なんとなく、チームプレーっていうか。誰がどう動こうとしてるかとかわかってきたような気がしない?」

「まぁ、確かに……攻撃のタイミングとかね……」


 瞬が天井を仰ぎ見る。しかし、礼子がふてくされた様子で言った。


「私はそんなの全然わかんないですぅ」

「礼子は突進型だからね。何も考えずに攻め続ければいいんじゃない? イノシシみたいに!」

「瞬さんひどいッ!」


 さらなるふてくされ具合の礼子にその場の3人が笑い、全員の笑いが止まるのを待って深が口を開く。


「今日はもう終わりなの?」

「はい。もう終わりですぅ。本来は自主トレってことになってる時間なんですけど、体がついて行かない今は休んでていいって長谷川さんが。あっちの部屋にいるみんなもそろそろこっちの部屋に来ますよ。こっちで一息ついてから、帰るんです」


 始めて礼子たちと会った時のように、礼子は横になってうなだれる。その向こう、隣の部屋からぞくぞくと人が入ってきていた。

 その後、一同はしばらく談笑し、5時半を目安に徐々に人が部屋を去って行った。






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