「聞け。感じようとしないお前は、この私が選んだということを、否定している」
朱炎の声に、耀は息を呑んだ。
選ばれたという言葉の重みが、耀の胸に突き刺さる。
そして、彼の言葉の裏に潜む計り知れない孤独も感じた。
朱炎を拒むということが、彼の寂しさに刃を向ける――。
ならば、彼から与えられる刺激は全て受け入れるしかないだろう。
耀は覚悟を決めたように、脚を開く。
それに応えるかのごとく、ぐいっと奥に入り込んだのを感じ、声にならない悲鳴を漏らした。
甘い痺れが脊髄を這い上がる。
けれど、羅刹の面影が脳裏に差すたび、身体は無意識に逃げ惑う。
(……逃げたいわけじゃない、なのに……)
結局、いつものように押さえつけられ、熱いものを注がれた。
毒牙から毒を注がれたようだ。
耀は喉の奥で小さな悲鳴を上げていた。
息を整える。
身体は余韻に浸り、痙攣が止まらない。注がれたのは媚薬かと思えるほど。
だが、耀の身体は燃え尽きぬまま横たわっている。
先端からはほんの少し、一筋垂れるのみ。
それは涙ように切なげだ。
ふと、「……そうか」と低い声が降ってきた。
耀が不思議に思って見上げると「ならば」と言われて、朱炎の指先から、ふわりと糸が紡がれてゆく。
銀の糸。
まるで蜘蛛だ。
身体が震える。
まだ終わらない、というのだろうか?
いつも通りであれば、朱炎の熱が放たれれば終わりのはず。
しかし、今夜は様子が異なる。
耀が恐れながら口を開きかけたところ、朱炎の唇が耳元に近づいた。
「覚悟は?」
「っ……!」
これから、何が始まるのか――。
殺されるよりも恐ろしい――。
第十一話
•──────⋅ いけない身体 ⋅──────•
寝具に横たえた耀の身体を、柔らかな糸がするりと包む。
喉元、手首、足首へと絡みつき、寝具へと沈め、縫い留めて固定した。
まるで蜘蛛の巣に囚われた蝶のよう。
乱れた紺の着物が夜の闇に溶け、浮かび上がる絹のような肌。
その白さは一層際立ち、目を離すことさえ惜しいほど。
美しい。
朱炎はそっと耀の頬を撫でた。
「……朱炎、様……?」
小さく震える声。
蝶が翅を震わせている。
「耀」
名を呼ぶ。愛でるように、慈しむように。
そして耳元で、問いかけた。
「……期待しているのか?」
朱炎が囁いただけで、耀の胸が浅く波打つのが見えた。
その反応は、朱炎にとって十分すぎる返答だった。
ならば、与えてやろう。
そう決めて、朱炎は耀へと手を伸ばす。
指先で鈴口を覆い、そろそろと撫でる。
粘りつく感触。鬼の術で拵えた粘液は既に
、朱炎の手のひらに宿っていた。
耀の先から零れた雫もすくい上げ、それに溶かして混ぜ、愛でる。
「待っ……朱…えん……さまっ……ぁっ……」
跳ねる身体に、蜘蛛の糸がさらに絡みつく。
朱炎はその姿に目を細めた。
あの蝶と重なる――
美しく、繊細。
触れれば触れるほど、底知れぬ欲が湧き上がる。
「美しいな、耀」
どれだけ触れても達することのない身体。
快楽を逃がし、受け入れない身体。
必ず生かしてみせようと思う。
「お前は、私のものだ……」
首筋から胸まで赤い花をいくつも咲かせた。
胸の小さな突起に唇を寄せ、少しばかり吸い上げて。
もちろん、手を休める事はなく、耀のそれに触れ続けている。
糸と乱れた着物に絡め取られた肢体。細い腰を抱き締めると、熱が手のひらを通じて伝わってくる。
貪るように喉元に唇を這わせ、耳元まで登り、軽く噛んだ。
――逃れる事などできないだろう。
身体を拘束したことで、快楽の火は閉じ込められて、うねって回る。
それは出口を見つけられず、体内で暴れ続ける。
「ぁっ……ひゃぁ……はっ……んっぁあ……」
――達せぬ身体なら、いっそ壊してやろうか。
「待っ……ぁぁっ!」
耀の足が震え、背が浮き、指が宙を求めて痙攣している。
朱炎はどんな小さな変化も見逃しはしない。
耀の表情に、確かな高まりを感じ取っていた。
それでも――まだだ。まだ届かない。
ならば。
朱炎は鬼の術をさらに重ねた。
すると、ぬるりぬるりと耀の身体に何かが近づき、這い上がる――得体の知れない触手のよう。
潤んだ瞳が不安げに朱炎を見上げていた。
朱炎はただ、一言を告げる。
「……楽しめばいい」
術の余波に溶け込んで、快楽に溺れろ。
限界を迎えて達すればいい。
――もしくは、私を求めるのもいいだろう。
「………朱炎さまっ……なぜっ……ぁぁっ!」
ぬるりと這い寄るそれらは、朱炎に代わって耀を貪る。
腕に脚に、首筋に。
細い腰と、柔らかな尻に。
耳に、臍に、胸の突起に。
「ぁっ……はっ……んっ……」
ぬちゅりぬちゅりと音を立てて。