耀の体を、鬼の術――触手で弄ぶ朱炎。
一度、全ての攻め苦を触手に任せて朱炎は耀の前から姿を消した。
耀の変化を見るためだ。
快感を苦痛と捉える耀の意識を変えて、本物の快感を与えたいと思う。
そして、本物の快感を与えられるのが誰なのか、教え込ませる。
そのうえで。
――私を求めろ、と。
朱炎は耀に求められることを望んでいる。
心の奥底から求められ、名を呼ばれたい。
更に縋れ、更に甘えろ。
第十三話
•──────⋅ 求めた ⋅──────•
耀が名を呼び続けていた。
朱炎は気配を消し、耀には見えぬように姿を隠したまま。しかしすぐ側にいた。
快感で混乱している耀は朱炎が術で姿を隠している事に気付けず、冷静な判断が出来なくなっていた。
堕ちていく耀の姿は美しかった。
快楽に濡れ、乱れた姿は妖艶だった。
だが、胸がざわめいた。
――嫉妬。
異形に嫉妬するなど我ながらおかしな話だと、朱炎は冷静になる瞬間もあったが、耀の乱れ具合に「早く私を呼べ」と呟かずに居られなかった。
ずっと待っていたのだ。
耀が、心の底から自分を求める声を。
「朱炎……様っ……」
その声は消えかかりそうなほどに小さかった。
けれど、心の底から求めたと分かった。
「耀……」
朱炎は姿を現し、そっと耀の頬に手を添える。
すると、耀は甘えるように顔を寄せてきた。
すぐに鬼の術を解き、触手から耀を解放する。すかさず身体を支えてやると耀は縋るように腕を掴んだ。
「朱炎様……お願いします……」
「なんのことだ?」
朱炎は耀が何を求めているのか分かっている。だがすぐには応じない。
――聞きたいのだ。
耀の口から。
自分をどれだけ求めているか。
耀は視線を逸らして言葉をためらう。朱炎はそれを許さない。
顎を指先で捉え、じっと見つめた。
潤みきった青藍の瞳はあまりにも、美しい。
朱炎は口元が綻ぶのを止められず、顔を近づける。
「言え」
「そんな……」
「言わなければ、ここで終わるぞ?」
このまま置き去りにするのは酷だと分かっていた。それでも耀の口から、自分を求める言葉が欲しい。
耀は苦しげに眉を寄せる。
「……朱炎様の……が」
「聞こえぬ」
「朱炎様の……」
焦れったく感じた朱炎は耀の中心をそっと撫でる。
小さな刺激のはずだが、今までにないほどびくりと跳ねた。
朱炎はそれを愉悦の色で見つめた。
「聞かせろ」
「朱炎様の……で……」
「…………」
「朱炎様の……」
「…………」
「……いかせて……ください……」
言葉尻はまるで聞こえなかった。
だが、胸の高ぶりを抑えられるはずもなく、耀が言い終わる頃には強く強く抱きしめていた。
――この者を、生かす。
それは朱炎が初めて生を与えたいと思った者。それは確かな願いであった。
身体の交わりなど、手段でしかないのだから。