第十四話
•──────⋅ もっと奥 ⋅──────•
再び、絡み合う。
耀は朱炎によって再び寝具の滑らかな布の中に沈められた。優しい手つきで。
溶かされた身体は敏感になり過ぎて、少しの刺激で甘い声が漏れる。
軽やかに身体中を滑る朱炎の指。
首筋、背中、腹へと下りて、また包みこまれる。
朱炎の熱が伝わる。
耀はそれに応えたいと思う。
快感を受け入れ表現する。
もう、躊躇いは消えていた。
喉で声を堰き止めるものは無い。
艷やかな喘ぎではないかもしれないが、こんなにも貴方の手で快感を得ていると、耀は感じたままに声を上げた。
欲にまみれた真っ赤な視線を一身に受け止める。
ふと、片脚を高く持ち上げられ、耀は一瞬身構えた。
あの衝撃がまた奥まで来るのかと思うと、生唾を飲み込まずには居られない。
そっと充てがわれ、ぶるりと身体が揺れる。
しかし、想像していたそれとは違った。
ゆっくりと、ぬるりと、入り込んでくる逸物。
形を把握しそうになるほどに自らの肉は収縮を繰り返してしまう。
先ほど触手に嬲られ続けた入口に近い性感帯は、さらに熱を持ち……
また悦楽の境界が曖昧になる。
──もっと奥まで熱が欲しい
熱いものは確かな圧力で深く深く入り込み、耀の体は痺れるように反応する。
「……良さそうだな」
耳朶をくすぐりながら朱炎の低い声が降りてくる。その音だけで耀の肺は震え、息は細く途切れた。
耀は小さく頷く。
次の瞬間、ぐいと内側を抉られるように擦り上げられた。
「……っ……あぁっ……」
瞼の裏に白い閃光が走る。頭の奥が揺れ、世界が霞んだ。意識は薄靄の中にゆっくりと沈み込んでいく。
これはもう、底無しの快楽。
耀は無意識に爪を立てた。
強く引き寄せたい、離れてほしくない。そんな理屈を超えた本能が滲み出す。
肩が震え、息が詰まった。
「……耀、怖がるな……」
耳元にかかる朱炎の息が、沈んでいた意識をふと浮かび上がらせる。音ではなく温度で聞かされているようだ。
低く重みのあるその声は体内にじわりと染み込んで、また別の熱となって溶け出している。
「……ですがっ、ぅ……ぁぁっ……ぁ!」
反論したい訳ではないが、やはり癖というものはなかなか直るものではないらしい。
その様子に朱炎は片眉をぴくりと上げた。
「あぁっ……!」
理性がちぎれていく。
「言え、もっと奥に、と」
くぐもった嗤いを含みながら囁かれるその言葉。
鼓膜ではなく胸の奥に直に届く。神経に絡みついてくる。
「っ……んぁ……も……」
喉奥から漏れた声は言葉とも喘ぎともつかない。
もう、息を吐く暇がない。
何度も何度も突き上げられて、奥底の欲を引きずり出される。
――嗚呼、もっと奥まで。
貫いて壊して、塗り替えて。
「……もっと……」
何度でも壊して形を変えてほしい。
朱炎の熱で焼かれたい。
「もっと」と口に出した途端、理性の堰が崩れ落ちた。
感情も快楽も区別なく溢れ始め、内側から湧き上がった波が大きく押し寄せる。
耀の意識をぐらりと揺さぶる。
自分の声が聞こえない。どこまで叫んでいたのかも分からない。
熱も、甘さも、痛みすら。
すべてが身体の奥深くに響き渡り、視界の端では光がちらちらと点滅し始めていた。
『……生きろ』
あの夜の言葉が耀の脳内で甦る。
(ああ、そうか……)
少しだけ朱炎の求めるものが分かった気がした。
耐えるのではなく受け入れて。
求めて、感じて、生きてみせろと。
そういうことだ。
耀の手が朱炎を引き寄せる。朱炎の背に腰に腕を回し、自ら奥へと誘い込む。
朱炎はすぐに応じた。それは、どつんと鈍い音を立てて触手がこじ開けたあの最奥に届く。
鬼の術ではない、朱炎自身がそんなところまで容赦なく入り込んでくるなど想像した事はなかった。
耀は激しく身体を痙攣させた。
艶やかに淫らに乱れ狂う。そんな己の姿を、すべて見られている。
命さえ奪われそうな支配と独占に、狂気を感じる。
なのにどうしてだろう。
胸の奥がじんわりと温かく満たされた。
酔っているのか、それともこれが本来の自分か。
既に冷静な思考は放棄しており、深く考えることが出来なかった。
──満たされる、だから
支配され、命を握られて、もう逃げ道のないところまで連れていかれたいと願ってしまう。
(やはり私は、この方に……生かされる)
この日、耳元で──
「いけ」と言われた。