「はいはい、机に突っ伏している生徒ー! 顔を上げて。今日からあなたたちの担任になる、
そんな台詞と共に、柏原という女性教師がコツコツと踵を鳴らして教室に入ってきた。タイトスーツに乱れの無いヘアスタイル、ソリッドなメガネを纏った柏原は、教師と言うより女社長のような出で立ちだった。
「んー……登校初日だし、まだ誰もお友達は出来てないのかな? まあ、静かに話を聞いてくれるのは何よりだけど。——最初から厳しめに言っちゃうけど、ここにいるあなたたち、みんなワケありだってのは自覚してるよね?。引きこもりや素行不良等々、分かりやすく言うと問題児。あなたたちの親御さんには厳しく教育・指導していくというのは了承を得ているので、そこのところ覚悟しておいてね」
そう言うと柏原は、左脇に抱えていたノートパソコンを開き、パチパチとキーをたたき出した。
「えーと、あなたたちは普通に学校に通っていたら高校一年生。もちろん聞いてると思うけど、この学校はきっかり一年間で修了します。その間にしっかり勉強をして、希望の学校へ編入して貰う予定です。もちろん当初の希望校より上を狙う前提でね」
柏原はノートパソコンに視線を移すと、「なんだよ、反応少ないな」と苦笑いを浮かべる。
「では、事前に伝えていなかった事を今から言うので驚かないように。あなたたちは、今日から二週間学校に泊まり込み、それ以降の週末は自由に使えると聞いていたと思います。——でも実際は今日から一年間、あなたたちは一歩たりとも学校から出ることが出来ません」
柏原のセリフに、教室が大きくどよめいた。柏原はパソコンの画面を見ながら「おー、良いレスポンス。これよ、これ」と笑う。
「じゃ、少しはあなたたちの意見も聞きたいので、ちょっとした質問をするね。——あなたたち、嘘をつくって事に対して、どう思う?」
「いっ……いい加減にしろ! 俺たちをガキ扱いすんな!」
流石に頭にきたのか、斜め前に座っている金髪の男子生徒が声を上げた。
「いやいや、ここ凄い大事な所なのよ。うちの学校は絶対に嘘をつかない、いや、嘘を付けないって校則があるの。今からこの校則に一年間縛られるわけだけど、まずは嘘についてどう思ってるのかってのを聞きたくて。——えーと、今発言したのは高崎君ね。そこんとこ、どう思う?」
ノートパソコンで名簿を確認しながら、高崎という生徒に手のひらを向けた。
「16歳にもなって嘘もクソもねーってんだよ! 嘘つかなきゃいけない程、あんたたちと話すつもりもねーし。それより、一年間外に出られないってどういう事だよ!? 今時、人権問題だぞこれ!!」
高崎の発言に、周りの生徒からも「そうだそうだ」と声が上がる。
「んー……一年間外に出られないってのは、親御さんたちからの要望でもあるからね。まあ、契約書も交わしてるからそこは諦めな」
なんだろう……少しずつ柏原の態度が横柄になってきているのが気になる。柏原はニヤニヤしながら見つめていたノートパソコンの画面から顔を上げ、こう言った。
「回りくどいのは趣味じゃないから、率直に言っておくね。あなたたち、朝一番で予防接種受けたでしょ? あれ、ただの予防接種じゃないの。小さい小さいチップも一緒に埋め込んでるの。そのチップで何が出来るかって言うと……」
柏原はノートパソコンに視線を戻し、画面を見ながら教室の左奥を指さした。
「左端、一番奥の席……えー、吉永さんかな。えーと、なになに? 『あのクソ親ぶっ殺してやろうか、なんて学校に放り込みやがったんだ』って? 可愛い顔して、怖い事考えるんだねえ」
みんなの視線が一斉に教室の左奥に向いた。吉永であろうその女子生徒は、両手で口を押さえている。
「うそっ……何なのよ」
思わず彼女の口から、そんな声が漏れた。
「ね? 面白いでしょ。このパソコンには、みんなが頭に思い浮かべていることが全部流れてくるの。もちろん、職員室のサーバーにはあなたたちの脳裏に浮かんだこと全てが、蓄積されていってるってわけ。それをデータベースとして、一人一人違う指導法で教育していこうっていうのが、我が校の方針なの。——どう? 素晴らしいシステムだと思わない?」
教室内が今にも噴火しそうな重い空気に覆われている。ただ、柏原の言っていることが本当ならば、余計な思考をしてはならない。思考をしないようになんて考えたことのなかった俺は、軽いパニック状態に陥ってしまった。
「フフッ、みんな面白いなあ。考えちゃいけない、考えちゃいけないってのが、全部パソコンに流れて来ちゃってるよ。——特に、そこの遠野くん? あなた、更新速度が一番速くて笑っちゃうんだけど」
これが俺、