「はいはい。じゃ、一旦仕切り直しをしましょうか。えーと……右端先頭の秋山祐子さん。あなたから、自己紹介お願いします」
柏原に手で立って立ってと促された秋山は、弱々しく椅子を引いて起立した。
「先生……自己紹介なんかしなくても、そのパソコンを見れば全部分かるんじゃないんですか?」
弱々しい起立同様、か細い声で秋山はそう言った。
「あー、元気ないなあ。もっと大きな声出ない? 自己紹介は私にってより、クラスの皆にお互いを知ってもらうためなの。これから一年間同じメンバーで、一緒にやってくんだから。はい、やりなおし」
「そ、その前にちょっといいですか? 僕たちの思考を読めるっていうのがまだ信用出来ないんで、僕の考えてる事を当てて欲しいんですけど」
一番前の席にいた、男子生徒が柏原にそう尋ねる。
「もちろん、いいわよ。えーと……あなたは田中君ね」
柏原はパソコンに目を移し、画面を指で追っている。
「なるほどなるほど、良い質問ね。『嘘をついてはいけない校則を破ったらどうなるのか』ね。これでいいかな?」
「あ……は、はい……」
田中という生徒は、こわばった声でそう答えた。
「今やってる自己紹介が終わったら、各個人用のノートパソコンを配布します。そちらから校則のページへもアクセス出来るからじっくり読んでおいてね。で、嘘をついちゃったらどうなるのってことだけど……」
教室全体が、ゴクリと息をのむ。
「悪質な嘘をついてるとAIが判断した場合、教員だけに流れているあなたたちの思考全て、全生徒が閲覧出来るようになります」
「はあああっ!?」
流石にキレたのか、高崎が机を叩いて立ち上がった。他の生徒たちも席を立ち、柏原の元へと詰めていく。
「はいはい、落ち着いて落ち着いて。こんな危なっかしいやりとりをするのに、私一人な訳ないでしょ。もし暴力で私に歯向かおうとするなら、やめておいた方が身の為よ。ほら、廊下見てみなさい」
廊下には、身長が2mにも届きそうな屈強な男性二人の上半身が見えていた。無表情で生徒を見下ろす視線には、無言の圧力がある。
「で、さっきの続きだけど、全生徒が閲覧出来るのは10分間だけだから安心して。ただ、その間は誰々は苦手だとか、好きだなんてことも全部見られちゃうから、意識しないよう注意してね」
「なっ、何が10分間だから安心してだよ!!」
「嫌だ嫌だ、無理! 絶対無理!」
「やべーよ! この学校、超やべえよ!!」
一部の生徒が興奮し、声を上げだした。ざわつきが収まりそうにないと思ったのか、柏原は廊下の男たちに視線を送る。
コン、コン、コン
廊下にいる男の一人が、無表情で窓枠を三度叩いた。男たちの視線に気づいた生徒たちは、波が引くように元の席へと戻っていく。
「——って事だから、逃げだそうとか校則を変えようとか思わないこと。現実を受け入れて、嘘をつかず真面目に一年間勉強すればいいだけなんだから。——ん? 『簡単に言いやがって』だって? フフッ、確かにね」
画面を見ながら、柏原はそう言って笑った。