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ep03:ココロノメ

 話し慣れていない生徒が多いのか、再開した自己紹介はかなりの時間を要した。


 だが、AIに嘘をついたと判断されたくないからか、「本当なんだろうな」という発言が多かったように思う。今まで働いた悪事や引きこもり度合いなど、生徒なりに正直に話していたという印象だ。これほどの本音が聞けた自己紹介は、初めてかもしれない。


「時間は掛かったけど、なんとか最後までいけたようね。AIが反応しなかった所をみると、皆さん嘘はついてなかったんだと思います。——じゃ、最後にノートパソコンと生徒手帳を配るので、あとは自分たちの部屋でゆっくり休んでね」


 生徒たちはパソコンと生徒手帳を受け取ると、校舎と隣接している寮へと移動していった。



***



「はあああ、マジムカつく! なんなんだよ、この学校は!! 外出できねえくせに、生徒手帳なんか配りやがって!!」


 同じ部屋になった高崎は、そう言って生徒手帳を壁に投げつけた。全寮制である私立新生しんせい高等学院の寮は、生徒3人につき一部屋が与えられている。俺はこの高崎と、奥田という生徒と同室になった。


「さっき自己紹介したけど、人数多かったし名前とか憶えてないだろ? 俺は高崎大輝だいき。お前は?」


「ぼ、僕は奥田おくだつかさ……つ、次どうぞ」


 奥田という生徒は視線を泳がせながら、俺に手を向けた。


「俺は遠野巡。今日から一年間よろしく」


「で? お前らはなんでこんな学校に放り込まれたわけ? 奥田はいかにも引きこもりって感じだけど、遠野……お前は?」


 放り込まれた理由……? そ、そうか、別に引きこもった理由を聞かれてるわけじゃない……嘘はつかずにすみそうだ。


「あ、ああ……俺も引きこもりだったんだ。中3の夏頃から全く、学校には行ってなくて」


「はぁ……なんだよ、お前も引きこもりなのかよ。ちょっとは、オモロイ奴もいると思ってたのによ。——学校も生徒もつまんない奴ばっかだな、マジで」


 そう言うと高崎は、割当も決めていないベッドで横になった。


 もし、引き込もった理由を聞かれた時、俺は嘘をつかずに答えられるのだろうか。



***



 夕食まであと30分になった頃、各自のノートパソコンが着信音を発した。


 ノートパソコンを開くと、『ココロノメ』という名前のアプリケーションにメッセージ着信の赤いバッジが付いている。ココロノメを起動すると、A組からD組がタブボタンとなっており、俺たちC組のタブにだけバッジが付いていた。


「タ、タブをクリックすると、C組の生徒の名前が見れるよ」


 奥田はさっきからずっとノートパソコンを触っていた。ココロノメも何度か起動していたのだろう。C組のタブをクリックすると、他の生徒名がグレー表示になっている中、『吉永よしながあい』だけがアクティブな状態になっていた。


「ああ……吉永って親ぶっ殺すとか言ってたやつか。で? クリックすると、どうなるんだ」


 吉永の名前をクリックすると、凄い勢いでメッセージが流れ出した。


== やめて見ないで!

== もう嘘は付かない!

== こんなの死んだ方がマシ!

== ごめんなさい、ごめんなさい、本当に許して!


 彼女の思考が表示されているのだろう。それは止まること無く、滝のように流れてきた。


 これが校則違反をした時の罰則なのか……3人とも静まりかえったまま、画面を凝視している。


「あ、『今回の判定に至った経緯』ってボタンがあるな……大事だぜこれ」


 高崎が見つけたボタンをクリックすると、彼女たちが交わしたであろう会話がテキスト化されていた。


————————————

『吉永さん、親殺そうとか思ったのって本音?』


『まあ、思っちゃったのは事実だけどね。でも、実際に殺すとか、そんなの無理無理。やるわけないじゃん』


『ハハハ、流石にそうだよね。——でも、殴っちゃった事はあったりとか?』


『殴るとかも無理無理。殴ってやろうかと思った事はあるけどさ』


【【AI判定】】

『殴るとかも無理無理。殴ってやろうかと思った事はあるけどさ』

【【OUT】】


・判定理由

女子トイレにて同室の生徒に質問された際、虚偽の回答をしたため。実際は52日前、母親に対し殴打による重傷を負わせている。

————————————


「うわぁ、やべえなこいつ……マジもんじゃねえか……」


 高崎はおぞましいものを見たように、パソコンから目を背けた。

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