「あの……あのさ……せめて僕たち3人だけでも校則違反を回避できるよう、色々と考えてみない? こ、今回の事例を見ると、会話をやめるだけでかなり回避できるような気がするんだけど。——ど、どうかな?」
勇気を振り絞って意見を出したのだろう、頬を紅潮させながら奥田が言った。
「まあ……そだな。お前らと会話することもあまり無さそうだし、それでいいんじゃね? なあ、遠野」
「あ、ああ。——あとはさ、会話の中でプライベートに関わるようなことは一切聞かないようにしない? 答えたくない内容だと、嘘をついてしまう可能性だってあるし」
「そういう時は『答えたくねえ』でいいじゃん。——って言うかお前、聞かれたくないこと沢山あんのか?」
「い、いや、そういう訳じゃないけどさ。——まあ、確かにそうだな、もっと楽に考えていくことにするよ」
確かに高崎の言うとおりだ。先生に聞かれたならまだしも、生徒同士ならそう答えるほうが安全だ。
「あ、あと気になってることがあるんだけどさ……」
奥田の言葉に相槌を打つのも面倒なのか、高崎は「なんだよ」と顎をしゃくった。
「あ。ご、ごめん……高崎君が教室でさ、一年間家に帰れないことを人権侵害だって言ってたけどさ、チップを埋め込まれた話の方がよっぽどの人権侵害だよね? これは絶対に大事件になると思うんだ。だ、だから、僕は卒業したら絶対に告発しようと思ってる」
もちろん、俺も同じことを考えていた。学校にどれだけ強力なバックが付いていたとしても、生徒たちの告発があれば大事件となるだろう。学校側はこの件に関して、何か対策を考えているのだろうか。
そういえば、高崎は奥田の話を聞いてから部屋のドアをじっと見つめている。何をしているのだろうか。
「んー……来ねえな。奥田みたいなことを言うと、大男が来るんじゃないかと思ってたんだけどな。嘘つく以外は、ホント何でもOKなのかもしれねえな」
そうか……高崎は発言や思考によっては、罰則を食らうと思っていたのだろう。乱暴に見えて、案外頭が切れるのかもしれない。
「何を言っても大丈夫ってんなら、もう一つ気になってることがある。親をぶっ殺すって言った吉永って女と、柏原に信用できないって質問した田中って男。あいつら、アッチ側の人間かもしれねえぞ」
「そ、それはどういうこと……?」
奥田が身を乗り出して、高崎に尋ねた。
「どっちもヤラセってことだよ。心を覗かれたフリをしてたってことだ」
「で、でも、俺は『何も考えちゃいけない』って思考を柏原に笑われたんだが……?」
「そんなの誰でも頭に浮かぶだろうよ。俺だってそうだ。——奥田はどうよ?」
「た、確かに僕も、心を読まれたくない、考えちゃ駄目だとは思っていたかも……」
確かにそうかもしれない。更新速度が速いと笑われたが、それも誰にでも起こりそうなことだ。
「——なんて言いつつな、ヤラセだったとしたら、そんなのが一年も続けられるか? ってのも、正直なとこなんだけどな。——まあ、飯になるまで会話はこのくらいにしておこうぜ」
高崎はそう言うと、再びベッドで横になった。