夕食まであと少し。高崎はベッドで寝そべり、奥田は相変わらずノートパソコンを触っている。会話をしなければ嘘をつかなくて済むが、その分、頭の中ではぐるぐると思考が巡ってしまう。
——やはり、この学校はおかしい。
学校の説明会などは市内で行われていたが、参加するのはいつも親だけだった。それは我が家の話だけでなく、どこの家庭もそうだったらしい。
そして今朝、俺は初めてこの学校を訪れることになる。
とある田舎の駅で降車すると、既に大型の観光バスが4台停車していた。ここから、このバスに乗って私立新生高等学院へ向かうのだ。
「ここから更に山奥へと向かうのか……カタログでは自然豊かな写真が沢山載っていたが、本当にただの田舎のようだな。巡……淋しくなることもあるだろうが、沢山友達作って、楽しく過ごしてこい」
「巡、頑張ってね……お母さん、ずっと巡のこと応援してるから……」
駅まで見送りに来てくれた父と母はそう言った。涙目になっていた母をおおげさだと思っていたが、一年間は会えないとその時既に知っていたのだろう。
その15分後。全員の乗車を確認したバスは、学校へ向け出発した。細い山道を、大きな観光バスが器用に登っていく。その曲がりくねった道と、そこそこの乗車時間のせいで、バスに酔った者も多くいたようだ。
「も……もしかして、あれが学校なのか……?」
「ま、マジで……? まるで刑務所の塀じゃないか……」
バスの右端に座っていた生徒たちがそう呟いた。俺も首を伸ばして見ようとしたが、グレーの高い塀しか見えない。そしてその高い塀をくぐると、バスは運動場に停車した。
「はーい! 降りた生徒さんたちから、こちらへ進んでくださーい!」
その日限りのアルバイトと思われるスタッフに
その後、別のスタッフに先導され、更衣室へと移動していった。ここでスマホを筆頭に、ほとんどの私物を没収されることになる。いま着ているジャージも、ここで着替えさせられたものだ。別の更衣室から「ふざけるな!」という大声が聞こえていたが、今思えば高崎の声だったのかもしれない。
そしてその後、体調不良などの確認をされることもなく、例の予防接種を打たれることになる……
「5分前だ。そろそろ飯食いに行くか」
そう言った高崎に続き、俺たちも部屋を出た。
***
「体調不良と申告のあった5人の生徒以外は、皆さん食堂に来ているようですね。今日は初日なので時間通りに集合してもらいましたが、明日からは18時から20時の間ならいつ食堂を利用しても構いません。浴室も同様に、17時から22時まで。ただし、どちらもこの時間以外は入ることが出来ないので注意してください。——何か質問のある生徒はいますか?」
この学校の校長、
「は……はい」
一人の女生徒が手を挙げると、春名は笑みを浮かべて「どうぞ」と彼女を指さした。
「た、体調不良の人はどこに行くのでしょうか……? 私もあまり体調が良くなくて……」
「体調が悪い生徒さんは医務室にいますよ。医務室に来られた生徒さんには、血液検査や尿検査をはじめ、あらゆる検査を受けてもらいます。お預かりしている生徒さんに、万が一のことがあったら大変ですからね。——どうします? 医務室に行かれますか?」
「だ、大丈夫です……」
彼女は小声でそう返事をした
「あの校長、なんか胡散臭えよなあ……」
隣に座っていた高崎がつぶやいた。
「お、おい……そんな事言って大丈夫か?」
「どうせ、頭で考えちまったんだ。口に出そうが出さまいが同じだろ」
ああ、確かに。高崎でなく、俺も含めてそう思ったやつはかなりの数にのぼっただろう。