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第36話  「先手」

土煙から赤黒い身体があらわになる。


「やっぱり...やつだ...!オリジンだ!!」


一人の兵士は恐怖のあまりそんな喚き声をあげた。


「全砲火!!!!」


T・ユカがそう叫ぶと、あらゆる武器という武器が火を噴いた。


絶え間ない爆発音、絶え間ない爆風、絶え間ない爆炎。


瞬く間にオリジンの姿は見えなくなってしまった。


「クソッ!!くたばれ!!くたばれってんだよォ!!」


一人の兵士は恐怖で顔をゆがませながらそう叫ぶ。

しかし、そんな中でも彼を含め、『解放軍』は攻撃の手を緩めなかった。


数十分後...


「全弾、消費しました!!」


そんな言葉とともに攻撃は止んだ。


「.........」


T・ユカは祈るような表情で爆煙を見つめる。


しかし...


「!?」


爆煙から数発、光弾が飛んできた。


「あれは...マズイ!!機甲部隊!!直ちに退避しろ!!皆、できるだけ遠くへ走るんだ!!」


ティエラがそう叫ぶと、兵士たちは次々と戦車などを捨て、逃げ出した。

ティエラもそれに続く。


数秒後、それらは着弾し、さっきまで『解放軍』が発生させていたものに匹敵する爆炎をたった数発で発生させた。


「うぐぉあああああっ!!?」


兵士たちは為すすべもなく吹き飛ばされる。


戦車などの置き去りにされた武器はどれも無残な姿へと変貌を遂げていた。


(今のは、『幻日』だな...。クソッ...!ソレイユめ...!やすやすとこんな化け物に能力を明け渡しやがって...!)


前提として、まず、特殊能力や超越能力は、全て元はオリジンのものである。

ハイドポールはそれらのエネルギーをオリジンから強制的に排出させ、ゼロ、つまり死に至らしめるものであった。

実は、封印から約200年後、オリジンのエネルギー量は半減していた。

しかし封印が解かれたその瞬間、全ての特殊能力や超越能力がオリジンに『回帰』してしまったことで、それも水の泡になってしまった。


一部、 例外もあるが。


それはともかく、死人から現役の能力者までもが能力の『回帰』の対象となってしまったため、セイレーンの超越能力のほとんども今やオリジンの手中にあるのが現状である。


しかし...


(レオやイド、『ヤタガラス』のヤツらが能力を使用できているということは、つまり、現時点で現役の能力者からの能力の回収は不可能であることを物語っているな...)


爆煙が止む。


「嘘だろ...」


一人の兵士がそんな絶望の言葉を漏らした。


それもそのはず、オリジンは無傷だったのだ。

こちらはというと、さっきの光弾ですでに多数の兵士が命を落としている。


オリジンの周りには透明な壁が光って見える。


「...バリア...あのアフロのか」


T・ユカがそうつぶやいた。


「...なあ、イド...」


「...レオ?」


レオは呆然と立ち尽くしながらこう言った。


「命って...こんなに軽かったんだっけ...」





数分後、応援要請を受けた周辺支部の『解放軍』が戦地に到着した。


その後も集中砲火対数発の応酬が続き、気づけば戦闘開始から1時間を超えていた。


そして...


「お、おい...!」


「オリジンが...進路を変えたぞ...!」


大多数の犠牲を出しながらも、オリジンを退けることに成功した『解放軍』は歓声を上げた。


「............ティエ─」


「...だから嫌だったんだ」


「ッ...」


ティエラは曇った目で、いつまでも、ある兵士の死体の横に落ちている、少し焦げ付いた家族写真を見つめているのだった。





大幅に人員が減った中、『解放軍』は動ける者のみ集結し、再び西へと移動を始めた。


皆、死んだ魚のような目をしていた。


絶望に打ちひしがれながらも、彼らは、ただ意味もなく動き続けるのだった...。





中央アジアの集落にて...


「貴様ら!何者だ!!」


入り口の2人の警備兵が『ヤタガラス』に銃口を向ける。


「気狐」


連が一言そう発した次の瞬間、2人の警備兵の頭部にそれぞれ石が物凄い威力で命中し、2人は気絶した。

入り口近くの木の枝には、石を掌の上で弾ませながら座る気狐の姿があった。


『ヤタガラス』はそのまま集落へ足を踏み入れた。


「皆...えらくやせてるわね」


サラがそう呟いた。


「だからここを選んだ」


連はそれに対し、一言、そう答えた。


この集落の人々は、カザフ民族政府の支援が届かず、貧困に苦しんでいる......というのが表向きの現状。


しかし、真実としては、集落の上層部が支援物資を独占し、そのせいで一般市民にそれらが行き届かなくなってしまっているというのが現状だ。


「いつオリジンがここに来るかも分かんねえから手を取り合って生きていこうってのが普通の展開じゃねえのかよ...」


ジュンは怒りをあらわにしながらそう言った。


「人間とは、そういうものだ」


連はそれだけ言うと、集落の住民に声をかけ始めた。


「ここには...支援が届かないのか?」


「ああ、まあな...そんでこのザマだ。っていうか、ニュースでも結構話題になっているだろ?うちの集落。アンタ、ニュース見ねえのか?」


「試しに聞いただけだ。それにしても......えらく饒舌だな。さっきまでアンタがご友人と話しているのを聞いていたが、アンタはかなり柔和な口調だったぞ」


「......」


「...何者かに独占されている?」


住民は勢いよく首を横に振った。


が、その必死さから、連には筒抜けだった。


「...実は」


連はヒロを指さす。


「オレたちはコイツのこの集落の取材を幼馴染のよしみで助けるために来たのだが、コイツは耳が聞こえなくてな。申し訳ないが、このスマホに集落の『現状』について書いてくれないか?」


ヒロは「よろしくお願いします」と手話で伝える。もちろんこれは偽装工作だが。

実は、ヒロの母親が、耳の不自由な者であることから、手話ができるのだ。


連に『目で伝えられた』ような気がした住民は重くうなずくと、スマホに集落の現状を書き込み始めた。


そこには、支援物資が上層部に独占され、一般市民に行き届いていないことや集落内には多くの盗聴器・防犯カメラが仕掛けられていることなどが書き込まれていた。


「ありがとう。恩に着る」


連はそれだけ言うと、仲間たちとともに集落の役所へと足を進め始めた。





翌日...


「おい、ティエラ!これ...!」


皆が休憩中、T・ユカが興奮を最大限抑えながらティエラにスマホの画面を見せる。

そこには、あるニュースの記事。


「謎の組織『ヤタガラス』、カザフ民族政府の『限界集落』を占拠。上層部の横暴が露見」


それがニュースのタイトルだった。


「......一足遅かったか」


ティエラは「してやられた」という顔でそう言った。


(これは世界を股にかけるボードゲーム......しかし、それは一つのゲームに限定されるものではない。それはオセロにも、チェスにも成り得る...)


「...どうするよ、ティエラ」


「相手の駒は、払うまでだ」


一言そう言うと、ティエラはさっきまで手入れしていた小銃を背負い、立ち上がる。

皆もそれに続く。


こうして、『解放軍』は再び歩き始めた。


そんな中、ただ独り、レオは自身の心の『揺れ』を気にし続けているのであった。

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