(...さて、根城は突き止めたのは良いが...)
深夜、ティエラは一人考え込んでいた。
『親衛隊』の者たちから『ヤタガラス』の根城を聞き出したは良いものの、根城はそう簡単にはつぶせないだろう。
あちらにはヒカルや連のような主戦力がいるからだ。
ティエラは一旦思考を止め、眠りにつくことにした。
それからも『親衛隊』と現地民による反政府闘争は世界各地で起こり、『解放軍』はそれを鎮圧するため、オリジンの居ない戦場に身を投じる日々が続いた。
そうすると、いつの間にか2週間が経過していた。
(やはり、『親衛隊』を倒すよりも根城を叩き潰したほうが効率はよさそうだな。さて...方法を考えねば)
ティエラは一人頭を悩ませる。
と、そのときだった。
「おい」
「...!!お前...」
ティエラの隣に何者かが腰掛けた。
T・ユカだ。
「よう。久しぶりだな、ティエラ」
「...何の用だ」
「だいぶ困ってるみたいだったから」
「......」
「アタシに考えがある」
「!!...聞こう」
「まず、だ。大人数での潜入は不可能と考えたほうがいい。それで...」
一方その頃、ロンドンにて、ヒカルと連は街を歩きながら雑談をしていた。
「ヒカル」
「なんだ?連」
「アンタは髪を切らないのか?邪魔だろう、正直」
「うーん......考えはしたんだけどさ、やっぱ、流石に失礼かなって。この身体の主さんに」
「............そうか」
「でも、服ぐらいは選んでもいいよな?ずっと巫女服なのもご勘弁だぜ。動きにきぃし、妙に視線が気になるし」
そう言うと、ヒカルは服屋に入り、迷うことなく黒いパーカーと黒に白いラインの入ったジャージを連に見せた。
「どうよ!俺の最強ファッション!!」
「...別に構わない」
「でも待てよ...?俺、主さんのサイズ分かんねえぞ...?」
「試着すればいいだろう」
「その手があったな。あっ............うん、そう...しよう」
「?どうかしたのか」
「え!?ん、んや?なーんも?」
そう言うと、目を泳がせながらヒカルは試着室へと入っていった。
ヒカルは頭を抱えた。
着替えるためには少女の身体を見なければならない.........女性経験ゼロのヒカルにはこの上ない試練だった。
中途半端な情報しか仕入れられてないのに降霊させられた弊害だ。
しかし...
「ええい...!背に腹は代えられぬ...!」
そう言い聞かせ、ヒカルは着替え始めた。
数分後...
試着室のカーテンが開いた。
「うーん、やっぱこのファッションが俺には合う!」
そう言ってヒカルは誇らしげな顔をする。
「...それ、部屋着じゃないのか?」
「ちっげーよバカ!言っとくけどな!オリジンと戦った時もこのファッションだったんだぞ!?」
「......」
何とも返答に困る発言である。
しかし、だ。
よくよく見てみると、似合っている。
まあ、全てはレイという最高の素材あってのことではあるが。
ヒカルも自身の姿を鏡で見て、思いのほかこのファッションがレイの身体に似合っていることに少し驚いていた。
「すげえな...素材良けりゃ何でも似合うのか...」
「...用は済んだだろう。行くぞ」
と、服を購入し、店を出ようとしたその時...
「あれ?2人ともここにいたの?」
2人はサラとバッタリ会った。
すると...
「ええ!?レ...ヒカル!ファッション変えたの?」
「まあな。似合ってんだろ」
「似合ってはいるけど............ちょっとついてきて」
「え?ちょっ!?」
サラはヒカルを引っ張って服屋に入っていった。
「はあ......」
こうなってしまっては、もうどうしようもない。
連はため息をついた。
その後、数時間にも及ぶヒカル(レイ)の着せ替え大会がここに開催されたのだった。
その次の日の未明、『解放軍』はイギリス上陸の準備を瞬時に終わらせていた。
今回イギリスに赴くのは、T・ユカ、レオ、イドの3人である。
ティエラは各地の『親衛隊』との戦闘に赴くこととなった。
「それじゃ、“しらみつぶし”は任せたぜ、ティエラ」
「ああ。そっちも、健闘を祈る」
こうして、T・ユカ率いる3人はボートに乗り、イギリスへと向かい始めた。
ティエラも兵士たちとともに、新たな戦場へと、足を進め始めるのだった。
早朝...3人はイギリスの岸へと到達した。
と、そのときだった。
「!!」
3人の真上から人影が落ちてくる。
ヒカルだ。
黒パーカーに黒地に白ラインのジャージを着ている。
「散れ!!」
T・ユカがそう叫ぶと、T・ユカ、レオ、イドはボートから飛び上がり、分散した。
次の瞬間、ヒカルの急降下しながらのパンチを喰らったボートは真っ二つに割れてしまった。
「こいつが...ヒカル・アシュラか」
T・ユカは確かにその姿を確認する。
アシュラ一族特有の紅色の瞳だ。
「間違いなさそうだな」
T・ユカは戦闘態勢に入る。
「お前ら、不法入国はダメだぜ~?」
ヒカルは準備体操をしながらそう言った。
数秒後、T・ユカも構えた。
その隙にレオとイドはヒカルの目を盗み、ロンドンへと向かおうとした。
が、
「おーっと!逃がさねえよ!!」
ヒカルは2人の元へと襲い掛かる。
しかし、
「させるかっ!!」
「!?」
突然目の前に現れたT・ユカに反応できず、なんとかガードは成功したものの、ヒカルはそのままT・ユカに蹴っ飛ばされてしまった。
「...へえ。おもしれえのがいんじゃん」
ヒカルはにやりと笑う。
そして、携帯を取り出し、一旦T・ユカから距離をとると連に電話をかける。
「あー、もしもし?逃げられたわ。2人。ま、がんば」
それだけ言うと、ヒカルは電話を切る。
「わりィな。ちょいと立て込んでてよ。ま、もうやることはとりあえずやったし?」
ヒカルは“獲物”を見据える。
T・ユカも不敵な笑みを浮かべる。
「いっちょ楽しもうや」
「喜んで」
こうしてヒカルとT・ユカは、朝日を背景に激しく激突し始めたのだった。
一方その頃、レオとイドはロンドンに向かって海岸を走り抜けていた。
と、そのときだった。
「!!待て、レオ!」
「?どうした」
2人が立ち止まる。
数秒後、倉庫の陰から何者かが現れた。
連だ。
「!!連...!?“もう”かよ...!」
「落ち着けレオ。ヤツを殺すチャンスが少し早く巡ってきただけのことだ」
2人は戦闘態勢に入る。
「やはりオマエたちか......良いだろう。来い、相手をしてやる」
連も戦闘態勢に入った。
こうして、同じ海岸で2つの死闘が幕を開けたのだった。