T・ユカとヒカルが激闘を繰り広げていたその頃...
同じく、そこから少し離れた海岸で、レオとイドの2人と連1人による戦いが起こっていた。
「レオ、お前はヤツに攻撃を仕掛けまくれ。俺は隙を狙う」
「おう、任せろ」
レオは鉄棒に氷の刃を創り、槍とすると、連に襲い掛かった。
幾つもの突きが、連を襲う。
が、
「なッ...!?」
全て、ことごとくかわされた。
この尋常ではない回避力...タカの特殊能力だ。
それはつまり、正面から仕掛けるのはほぼ無意味であることを指している。
そのときだった。
『お前は”武器の固定観念“に縛られている』
レオは以前ヒカルに告げられた言葉を思い出した。
「......いちかばちか...!」
レオは再び突きを仕掛ける。
連はそれを数発かわしたが、次の瞬間だった。
「!?グッ...!?」
なんと、気づかぬうちにところどころに斬り傷が形成されていたのだ。
連は一旦距離をとる。
「確かに...あの人の言う通りだった」
レオはそう呟くと、再び構え始めた。
そう、ヒカルの言葉通り、レオは槍に文字通り、“延長線”を描いたのだ。
この数秒レオは、突きをお見舞いすると同時に、氷の刃に新たに枝分かれさせた刃を追加することで、危機感知する間も与えず、微力ではあるものの、相手にダメージを与えることに成功したのだ。
「小賢しい真似を...」
連は陽の力で自身の傷を治癒させる。
次の瞬間だった。
「!!」
突然、一閃の光の線が連に向かって飛んできた。
イドのレイル・ボウだ。
連は利き腕に陰の力をこめる。
そして、なんと矢を弾き飛ばしてしまった。
「......なるほど、確かに予知では間に合わないな」
連はしびれる手を払いながらそう言った。
「...こいつ、この短期間でまた強くなってやがる...!」
イドは動揺した。
以前会った時の連ならば、相手が単体なら勝利の可能性はあった。
しかし、彼の成長スピードには目を見張るものがあった。
「貴様...一体どうやってここまで強くなった?」
「さあな」
「...質問を変えよう。なぜ、“あんなこと”をした?」
「“あんなこと”、とは?」
何のことだかわからないといった風に、連は首をかしげる。
「4年前...俺の家族を...仲間を...皆殺しにした...!」
「...4年前?......ああ、“オマエら”、か」
「なに...!?」
なんと、連はイド“たち”のことを知っているようだった。
その事実にイドは驚愕した。
以前、ヤスの言っていた『知らない』というのは噓だったのだ。
いや、今振り返ると、彼は『知らない』というには無理のある表情をしていた。
そうとなれば、今やるべきことは戦うことではなく、話すことだ。
イドは一旦切り替える。
「覚えているのか...!?俺たちのことを...!」
「ああ、覚えているさ。忘れるはずがない」
「...なぜ、なぜ殺した!?罪のない俺たちを...!」
「ほう...?」
「...!?」
連はイドの言っていることが理解できないといった仕草をとっている。
次に連のほうが口を開いた。
「オマエの集落には何人の人がいた?」
「70人ほどだ」
「そうだ。70人ほどだ。オレたちは70人ほどの命を奪った」
「そうだ...!俺を除いた皆の命を、お前たちは奪った...!罪のない俺の大切な家族を...仲間を...お前たちが殺したんだ!」
「...そうか。では聞こう...」
「...!?」
「オマエたちは、一体幾つの『誰かの大切な人たち』の命を奪ったんだ?」
「.........は?」
イドは唖然としている。
「オマエたちは、これまでどうやって生き長らえてきた?」
「それは...狩りと採取で...!」
「それだけか?」
「!?」
「本当にそれだけで、70人もの人たちを養えると、本気でそう思っているのか?」
「何が...言いたい...!?」
連は小刻みに震えだした。
息も荒くなってきている。
「イド...?」
レオが心配そうにイドの顔を覗き込むが、イドにはそれも見えていない。
それどころか、ついに弓矢をその手から落としてしまった。
手汗が出て止まらないからだ。
「...あとは、仲間のヤツらから聞け」
「なっ...なぜだ!?」
「オレが言ったところで、オマエは信じないだろう。『解放軍』のヤツらならほとんど皆知っているはずだ。オマエの所属していた集落の名をな」
そう言うと、連は自身のスマホの画面を覗き、どこかへと向かい始めた。
「お、おい!待て!!」
レオは連に氷の槍を突きつける。
「イドとお前の間に何があったかなんて知らないさ...!だけどな!勝負はまだ終わっちゃいないぞ!!」
「やめておけ。でなければ、オマエの相棒が死ぬぞ」
「ッ!!」
連は神速でイドの背後に回り込んだ。
「...それと」
連はスマホの画面をレオに見せる。
そこにあったのは、ヒカルによって完膚なきまでに敗れ去ったT・ユカの姿だった。
「あ.........」
このとき、レオの戦意は消滅した。
連はそんなレオを一瞥すると、どこかへと向かって行ってしまった。
レオは膝をつき、そんな連を見つめることしかできなかった。
『親衛隊』との戦闘中、ティエラのスマホに連絡が入る。
それは、レオによる『作戦失敗』の一報であった。
この日、『解放軍』は初めて『ヤタガラス』陣営との直接戦闘で撤退を余儀なくされた。
これはつまり、『解放軍』の敗北を意味するということだ。
こうして、ティエラの隊もついに退くこととなるのだった。