連は立ち上がる。
そして、再び幻日の刀を錬成した。
「良い度胸だ。へし折ってやる」
ティエラは再び“構える”。
「...来い」
連は戦闘態勢に入った。
次の瞬間、ティエラは消えた。
それと同時に連も神速で消えた。
「!!」
ティエラは木に飛び移る。
連も向かい側の木に飛び移った。
その後、2人とも再び消え、刃を交えながら木から木へと飛び移っていく。
初めこそティエラのほうが優勢であったが、連の力が確かにティエラのそれを追い越そうとしていた。
(コイツ......間違いない!戦いの中で成長していやがる!)
ティエラは刃がぶつかり合った時に連を弾き飛ばし、距離をとる。
連も以前のようにされるがまま吹っ飛ばされず、受け身をとり、きれいな着地を見せた。
「まさか今になってもスピードで俺に匹敵する者が現れるとはな...。それもアシュラ一族でもないやつだ」
「一つ教えておこう。オレの家系にはアシュラ一族が唯一一人だけ存在する。今から1500年ほど前の者だがな」
(なるほど...だからコイツは特殊能力を奪われずに済んだのか)
「やはりお前は危険だ。ここで“機会”を逃せば取り返しのつかないことになりかねん。そして俺の私情がお前の存在を許さない。だからお前は必ず殺す」
そう言うと、ティエラは再び消えた。
連もそれに続く。
その後も音速を凌駕する攻防が続いた。
その際、それまで守りばかりに入っていた連が攻撃に転じていた。
刃を何度も交えるうちに、連の攻撃の重みがティエラのそれを凌ぎ始めたのだ。
そう、“重み”が。
ティエラが連に斬撃を加えようとした瞬間、突然身体が重くなるのを感じた。
次の瞬間、ティエラの頭に連のかかとがめり込み、そのまま連はティエラを蹴っ飛ばした。
「グッ......!」
(今のは...ウラヌスの...!?コイツ...この短時間でここまで...ッ!?)
動揺のあまり、受け身をとることに失敗したティエラは地面を転がった。
「!!」
顔を上げた瞬間、ティエラの前には上から斬りかかる連の姿があった。
ティエラはそれをかわし、態勢を整えようとしたその時、目の前には幻日の光弾が目の前まで飛んできていた。
「クソッ...!」
ティエラは片足を踏み込むことで軸足を固定させ、幻日を切り裂いた。
「ハアッ...ハアッ...」
ティエラの呼吸が荒くなる。
しかし、呼吸を整えると態勢も整っていく。
顔を上げると、目の前の連も息を切らしていた。
「どうやら、体力が限界のようだな。特殊能力の使い過ぎと言ったところか?」
「......!オマエは...まだ動けるようだな」
「ああ、無能力者(ハンデ)故の恩恵だ」
「化け物が...!」
連は悪態をつく。
「化け物で結構だ。それにしても...能力は型落ちなのに使用時の体力消費は通常の特殊能力と変わらんとは、とんだ不良品だな。ま、奪う・渡すができる時点で能力としては完成しているとは言えるが」
そう言いながらティエラは連の元へと近づいていく。
そして、ついにティエラは連の目の前まで来た。
「認めよう。お前は強い。だが、一足及ばなかったようだな。お前の敗因は単なる経験不足だ」
ティエラが剣を振り上げたその時だった。
突然何かが足元に転がってきた。
それは...
(閃光弾...!?)
「マズイッ!?」
ティエラがそう言った時にはもう遅かった。
閃光弾はその場ですさまじい光を発し、ティエラの視覚を数秒奪った。
そして、目が見えるようになったころには、目の前の連の姿は消えていたのだった。
一方その頃、連はジュンとサラによって猛ダッシュで運ばれていた。
「おい、連!大丈夫か!?」
「皆...何で...」
「だって、全然帰ってこないじゃない!アンタ、30分もぶっ続けで戦ってたのよ!?」
これには当人である連でさえも驚愕した。
ティエラが強者であることなど百も承知だった。
そんなティエラ相手に、特殊能力というアドバンテージはあったものの、30分も善戦し続けていたのだ。
こうして連は、自身の力のポテンシャルを改めて感じ、少し自信を持つのであった。
「...チッ、逃がしたか」
ティエラは剣を納める。
すると数分後、
「ティエラ!」
「...!ユカか...」
解放軍の面々がティエラの元へ集結した。
「連は...?」
イドは恐る恐る連の行方を聞く。
「逃げた」
「そうか...」
そう言ったイドの表情は、惜しむような、そしてどこか安心したような表情をしていた。
「ティエラさん......」
「なんだ、イド」
「連は、殺さなければならないのか?」
ティエラは何を今更といった表情をし、答える。
「ヤツはこの世界の“がん”だ。消さなければならない存在だ。ま、誰がどう言ったとて関係ないがな。アイツは俺が殺したいから殺すんだ」
「.........」
イドは、それ以上何も言うことなく、皆に続いた。
と、そのときだった。
突然『解放軍』たちの目の前に、突然氷を含んだ嵐が吹き荒れた。
(なんだ...!?雪...!?こんな季節になぜ...!?)
連らは本隊が待機するエレノイアの基地へ帰還し、これからの作戦について話していた。
「どうするよ、もう『解放軍』との戦いは避けられねぇぞ」
ジュンは渋い表情をしながらそう言った。
「そうね。島国という最高の要塞を失ったんだもの」
サラはジュンの言葉に賛同した。
「安心しろ。手は打ってある。とはいっても、一時的なものではあるが」
連はそう言うと、自分の部屋へと帰っていった。
部屋とはいっても、ある小さな商業施設の廃墟だが。
その途中のことだった。
廃墟で構成される街の通路を抜け、部屋に向かう途中、連はメイとばったり会った。
「連、無理をしてはいけませんよ」
メイが心配そうに連の顔を覗き込むとそう言った。
「...やっぱり、メイには敵わないな」
連は少し表情を崩してそう言った。
「ちゃんと休んでください」
「...うん、分かっているよ。ありがとう」
そんな会話を交わし、連は再び歩き出した。
連が自身の部屋の目の前まで来たその時のことだった。
カチッという音が聴こえたかと思った瞬間、突然連の部屋が爆発した。
連は爆風で吹き飛ばされる。
「!!!??」
連は目の前の出来事に意識が追い付かず、数秒吹き飛んだ自身の部屋を見つめた。
と、そのときだった。
「おい!連!大丈夫か!?」
ジュンが連の元へと走り込んできた。
「...ジュン」
「...こりゃあ、ひでえ...」
ただの残骸と化した連の部屋を見たジュンは憤りを覚えた。
そしてそれと同時に、この事態に対して冷静に分析した。
ここにいるのは『ヤタガラス』のメンバーか、『親衛隊』の者たちだけ。
それ以外に該当する人間はいない。
つまり...
この中には、“裏切り者”がいる。
ジュンは密かに、その真相を突き止めるべく、動くことを決断するのだった。
一方その頃、『解放軍』は突然発生した嵐によって道を防がれていた。
と、そのときだった。
嵐の中から人影が一つ。
(あの嵐の中を平然と歩いていやがる...何者だ?)
気づけば、ティエラの周りには誰もいなくなっていた。
皆それぞれ嵐によって隔てられたのだ。
「誰だ!」
ティエラは柄を人影に向ける。
少しずつ、人影があらわになり始める。
”ソレ“には、キツネの耳、そして大きな尻尾がついていた。
「!!貴様...ヤツの使い魔か!」
ティエラが大声でそう問う。
すると、完全に姿があらわになった“少女のようなもの”は答えた。
「“式神”じゃ。分をわきまえよ、“小僧”」
ティエラは柄から光の剣を顕現させる。
「フッ...どちらも同じようなものだ。その呼び方がお前にとって名誉なのかどうかは知ったことではないが、そんなものはお前に必要ない。なぜなら、お前はここで死ぬのだからな...俺の手で」
「口だけは達者なようじゃな。よかろう、その高慢な態度...二度と出来ぬよう儂の手でへし折ってくれようぞ」
気狐はそんなティエラを刺すように冷たい視線で見つめながらそう言った。
互いに不敵な笑みを浮かべると、その後、嵐の中で二つの影が激しくぶつかり合うのだった。