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第60話 Spiritual Guardian

雪の嵐の中、ティエラと気狐は互いに向き合い、ついに戦いの火ぶたが切って落とされた。


ティエラはソウル・ブラスターで剣を顕現させ、気狐に襲い掛かる。


ティエラは一瞬にして気狐の目の前にたどり着き、間合いに入った。


(これで...!)


ティエラは勢いよく剣をふるった。


しかし...


「!?...なんだと?」


目の前にいた気狐の姿が消えた。


「阿呆。それは残像じゃ」


背後から声が聞こえる。


ティエラは恐る恐る振り返ると、そこには何食わぬ顔をした気狐の姿があった。


(コイツ...一体...!?)


すると、今度は気狐が攻撃に出た。


無数の氷の槍を創り、その全てがティエラを襲った。


「ふざけやがって...!」


ティエラはそれら全てを切り刻んでいく。


そして10分ほどたったとき、ついに気狐の攻撃が止んだ。


「ハアッ...ハアッ...」


これにはさすがのティエラも体力を大きく削られた。


ティエラは一旦頭を下げ、乱れた呼吸を整え、顔を上げる。


すると、そこには気狐の姿がなかった。





T・ユカは嵐の中をさまよっていた。


と、そのとき、


「!?誰だ!!」


突然人影が出てきた。


T・ユカはその影にそう叫ぶ。


正体があらわになっていく。


「!!お前は...!」


気狐だ。


「この嵐...お前が起こしているのか?」


「左様...解きたいのなら、儂を倒すことじゃな」


気狐がそう言った瞬間、T・ユカが襲い掛かってきた。


「なんと単調な...」


気狐は攻撃をかわす。


が、その直後のことだった。


「!?グッ!?」


気狐は何かに殴り飛ばされそうな感覚を覚え、脇腹に陰の力を宿らせることで防御をとると、吹っ飛ばされながら地面を転がった。


攻撃を受けた場所を見ると、紫色の拳が顕現している。


サターンの...そして今はT・ユカの特殊能力...『空間移動』だ。


「当たり前のように風穴形成は効かねぇか...」


T・ユカはため息をつく。


「だが、特殊能力は効くようだな。そこはアシュラよりやりやすい」


「それはどうかの?」


気狐は不敵な笑みを浮かべると、ティエラの時と同じように、無数の氷の槍を顕現させた。


が...


「!!なんと...」


その全てが、数秒にして発射される前に破壊された。


「なるほど、厄介な能力じゃな」


次の瞬間、T・ユカが背後から気狐に攻撃をくらわせようとしたが、難なくかわされた。


「なっ...!?この距離でかわすとは...!」


「無駄じゃ。攻撃に敵意が宿っておる以上、それは儂には通用せん」


「『敵意』だと...!?」


「うむ。儂は敵意による危機探知に長けておるのでな。一度集中状態に入ってしまえば、お主の攻撃をかわすことなど造作もない。10人同時の攻撃なら簡単にかわせる」


気狐はそう言いながら、T・ユカの連続で繰り出される死角からの攻撃を全て交わした。


「クソッ...!それじゃあさっきまで集中してなかったのかよ...!」


「せんでもできると思っとったのでな。ちとお主らを軽く見すぎておったようじゃ」


「ああ...そうかよ...!」


T・ユカは顔をゆがませながら笑った。


「でもよ、その集中...いつまで続くかな?」


「と、いうと?」


「お前の集中力が切れるまで攻撃し続ける」


「...どこまでも単調な奴よ」


気狐は呆れかえった。


「残念じゃが、お主とこれ以上付き合ってはおられんのじゃ」


「なんだと?」


次の瞬間、気狐は嵐の中へと姿を消していった。


その間際...


「一つ教えておこう...今日はもう引き返すことじゃな」


とだけ、気狐は言い残した。





ティエラは息を整え、気狐が再び現れる時をじっと待っていた。


(さあ来い...今度こそ仕留めてやる)


そして...


「待たせたかの」


「いや、グッドタイミングだ」


ティエラは不敵な笑みを浮かべながら“構え”、気狐に斬りかかった。


気狐は少し距離をとり、集中すると、なんとティエラの攻撃をかわした。


「!?」


本来ならこの技...『阿修羅天斬』は絶対不可避の必殺剣技。


今まで戦ってきて、この技を防いだ者ならいくつかいたが、かわす者は、これまで一人としていなかった。


気狐はそれを何食わぬ顔で軽々とかわして見せた。


ティエラには、そんな気狐の様子が、まるで来るのが分かっていたかのようにかわしたようん感じた。


「バカな...」


「どうした?さっきまでの威勢はいずこへ行ったのじゃ?」


「ッ!!」


ティエラは動揺を隠せない。


しかし、その後も気狐に食らいつくかのように攻撃を繰り出し続けた。


しかし、その攻防はあまりにも一方的なものであり、ティエラの攻撃を気狐が軽々とかわすと、その小さな体から発せられるものとは思えない威力の攻撃が返ってくるというものだった。


何度剣をふるっても、ことごとくかわされ、その応酬として、蹴りや殴打が飛んでくるばかりであり、満身創痍になったティエラはついに膝をつかされた。


「む、もう終わりかの?」


「まだだ...!」


「お主には言っとらん。そろそろこの嵐もやむころかと思ったのじゃ」


「ほう...?」


(チャンスだ。嵐が止めば総攻撃でヤツを...)


と、思ったその時だった。


嵐が止む。


次の瞬間、目の前の景色にティエラは目を疑った。


何と、多数の兵士が既に倒れていたのだ。


残っているのは、2桁行くか行かないかの数の歩兵とT・ユカ、レオ、イド。


レオとイドに関しては、目の前に気狐が現れることもなかった。


2人は、何一つ行動をとれず、ただこうなるのを待つことしかできなかった自分に憤りを感じ、拳を握り締めた。


「どうする?まだ戦うかの?まあどちらにせよ、その人数では数の暴力でも倒せてしまうじゃろう」


「どうする...ティエラ」


「.........撤退だ」


T・ユカがティエラに判断を委ねた結果、ティエラは撤退を選択した。


こうして、『解放軍』による進軍は一旦の落ち着きを見せ、『ヤタガラス』は束の間の平和を手に入れることに成功したのだった。





そして数日後の早朝...


彼らは衝撃の一報を受けることとなる。


「全人代で議長による銃乱射事件...!?議長は気でも狂ったか?」


これにはティエラも驚きを隠せない。


しかし、これはチャンスだ。


今、『ヤタガラス』の暫定統治下にある中華民族政府は、立法機関に大打撃を受けたことで、支配が揺らぎつつある。


そして...


「さて、休憩はもう十分取れただろう。行くぞ」


ティエラは立ち上がり、そう言った。


T・ユカも立ち上がる。


「行くんだな?」


「ああ」


と、そのとき、レオとイドもテントから出てきた。


「行くって...どこへ?」


レオが聞くと、ティエラは少し間をおいて答えた。





「中国戦線だ」

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