早朝4時、『ガレキの城』内部では、連とメイ、フェイ、気狐、の4人がいた。
「もうそろそろ来る頃でしょうか...」
メイがそう言葉をこぼす。
と、そのときだった。
突然、連は動揺するようなそぶりを見せた。
「連......!?」
フェイはそんな連に歩み寄る。
「まさか...早すぎる...!」
「......え?」
連は敵意を込めた目で向こう側を見つめる。
「ヤツらはもう...ここまで来ている!」
そう、今作戦において、『人類軍』と『解放軍』の連合軍は、いつもよりも早く、早朝に軍を動かしていたのだ。
『ガレキの城』の周りには、既に多数の軍勢が集結している。
「そんな...!」
フェイは隙間から見える情景に絶望を覚えた。
それはメイも同じだった。
「主様...ここは儂が」
「ああ、頼む」
次の瞬間、気狐は『ガレキの城』の周りに激しい吹雪を発生させた。
軍たちは突然発生した吹雪に動揺し、態勢を狂わせている。
「よし...今だ!2人とも、ここから離れろ!!」
「でも...!あの軍勢じゃ...!」
「安心しろ。俺がついてる。だからここから離れるんだ」
メイとフェイは少しの時間をおいてうなずくと、その場を後にし始めた。
2人が『ガレキの城』からある程度離れたこと、そして、ある2人の影が『ガレキの城』に入ろうとしていることを確認すると、連は両手の平を大地に叩きつけた。
次の瞬間、大きな轟音とともに、『ガレキの城』の周りに『城壁』が形成されていった。
連は大地に力を伝わせる過程で、何度も喀血した。
それもそのはず、今の連にこれまでのような雄大な城壁を一気に形成することなど、あまりにも無茶な行動であった。
形成された城壁は、城壁というにはあまりにも脆弱で、形もいびつなものだった。
これが今の連の限界なのだ。
2人分の足音がこちらに近づいてくる。
連は少し不敵な笑みを浮かべると、その足音の源のほうへ視線を移した。
すると数秒後...
「来たな...『勇者』よ」
連の前に立ったのは、イドとレオの2人だ。
「『魔王』...俺たちは今日、お前の『支配』を打倒するため、ここにやってきた!」
「連、今日でお前のもたらした『恐怖』も終わりだ!!」
イドとレオは啖呵を切る。
「それでいい...。さあ、向かって来い!」
こうして、『ガレキの城』では3人の攻撃がぶつかり合い始めるのだった。
一方その頃、『ガレキの城』の外では、たった一人、吹雪に動揺する軍に見向きもせず、城壁の近くまで来た者がいた。
ティエラだ。
(連......お前はレオとイドに倒されるのが望みなのだろう...しかし、そうはさせない。お前を殺すのは......俺だ!!)
ソウル・ブラスターを起動させ、光の刃で城壁に穴を形成しようと、城壁へ歩き始めたその時だった。
ティエラの前にある人影があった。
まるで『ガレキの城』を護るかのように。
数分後、その姿はあらわになる。
「......お前は...!」
ティエラは少し動揺した。
人影の正体...それは...
「私は...フェイ!『魔王』連の臣下にして、『勇者』の道を護る者だ!!」
「道だと?」
「2人の『勇者』の道は、私が護る。誰にも、ここから先は通させやしない!」
「連にそう命令されたか...つくづく─」
「違う!!これは私の意思だ!!」
「なるほど......よほど死にたいらしいな」
ティエラは残忍な表情を浮かべ、刃をフェイに向けるのであった。
一方その頃、メイは走っていた。
戦場の中で、たった一人、孤独に走り続けた。
荒野であることもあり、何度もメイは転んでは起き、転んでは起きを繰り返しながらも、走り続けた。
全ては、連の『お願い』のために...
と、そのときだった。
軍たちがついに態勢を立て直し始めた。
吹雪に適応し始めていたのだ。
気狐はというと、連の蘇生から昏睡状態に入り、そこから目覚めて日が浅い。
そのため、力が本調子に戻っていなかったこともあり、人でもある程度適応すれば耐えきれる程度の吹雪しか出せなかったのだ。
すると、軍たちは走るメイにかまうことなく、それぞれの兵器を動かし始めた。
戦車砲、ロケット砲、ミサイル、火炎放射器、手榴弾、大砲、空爆...
数々の攻撃が辺り一帯に下り始め、メイはその餌食となった。
しかし、メイは止まることなく走り続ける。
そんな彼女の肌には、なんと傷一つもついてはいなかった。
『ガレキの城』では、3人による死闘が行われていた。
レオは氷の槍による突きを容赦なく連に浴びせた。
連は鉄の刀でそれを弾くと、その際にできた隙を付き、一気に反撃に出た。
そう、連はもう幻日と物質錬成の併用もできなくなっていた。
その後、レオは連による反撃に対応しながらも、自身に視点が向くよう動き続けた。
一方その頃、少し距離の離れたところからイドはレイル・ボウを放ち、狙撃しようとした。
すると連は身体を大きくのけぞらせ、それをかわした。
しかし、その際にできた隙を見逃さなかったレオは連の脇腹に強い蹴りをお見舞いした。
蹴りは完全に連の脇腹に命中した。
が、
「なッ...!?」
なんと、連は片手の平でレオのつま先をつかみそのままレオを投げ飛ばそうとした。
すると次の瞬間、連の顔面にイドの足の甲がめり込んだ。
連はバランスを崩し、レオの足を手から離してしまった。
すると、レオは両手を大地に置き、身体をくねらせて今度こそ連の脇腹に蹴りを炸裂させた。
「グッ...!?」
連は少しよろめいた。
イドは、あまりにも連が弱体化しすぎであることに対し、少しショックを覚えた。
「連...俺たちにはこうすること以外に方法はなかったのか...!?」
「残念だったな...そんな方法は存在しない」
「どうして...!?」
イドは連を説得しようと試みるが、連にその言葉は届かない。
今更、何を説得しようが、連が終わる真実は動かない。
連自身、そのようなことを考えていた。
「俺を待ち受けるは、永遠の終わり.....避けることのできない、永遠の終わりだ」
その後も、連は2人に猛攻を繰り出した。
イドが再びレイル・ボウを放とうとしたその時、連はイドに向かって幻日を一つ飛ばした。
イドはそれをかわし、再び構えるがその時には、連の姿が目の前から消えていた。
「!!後ろッ...!」
連の気配を背後から感じ取ったイドは回し蹴りを繰り出す。
すると、それをかわすため、跳躍した連の姿が背後にあった。
「そこだ!!」
レオは格好の的となった連に氷の槍を投げ飛ばした。
「グッ...!」
連は何とか両手で威力を弱めるが、その結果は、自身の身体に刺さる氷の槍の刃の部分の面積を最小限に抑えることに留まり、結局ダメージを負うことに変わりはなかった。
連は腹部に刺さった氷の槍を抜き取ると、それを、レイル・ボウを込めようとするイドに投げ飛ばし、再び地に降り立った。
イドが連により投げ飛ばされた氷の槍をかわした次の瞬間、連はイドに思いっきり自身の足を蹴り下ろした。
イドは腕をクロスさせ、それを防ごうとした。
が、
「待て!!イド!!ダメだ!!」
直後、レオが氷の槍をとり、それを自身とイドを護れるほどの大きさの氷の盾に形状変化させると、それを真上に掲げた。
次の瞬間、レオの身体に大きな衝撃が走った。
「うッ...!グッ...!オオオアアアアアアッ!!」
レオはその衝撃に気合で立ち向かった。
数秒後、氷の部分が粉々に砕け散ってしまった。
レオは蹴り下ろした状態のままである連を弾き飛ばすと、そのまま連を跳躍しながら蹴っ飛ばした。
連は何度か地面を弾んだ後、ゆっくりと起き上がった。
「あの攻撃を受けるとは、お前、相当な勇気を備えているな」
「まさか、あんな威力のものだとは思わなかったからな。あそこまで『重い』攻撃は生まれてこの方初めてだぜ...!」
「つまり、お前は『重い』攻撃であると分かっていたならば、イドをそのまま見殺しにしていたということか?」
「そんなわけないだろ!何が何でも俺は立ち向かう!」
「......そうだ。それでこそ、『勇者』にふさわしい...」
連は不敵な笑みを浮かべると、再び2人へ向かって行く。
2人の『聖戦』は、まだ終わらない。
一方その頃、城壁の前では、ティエラとフェイによる戦闘が始まろうとしていた。
「......丸腰で来るつもりか?」
「私はアンタと殺し合いをしたいわけじゃない」
「ほう...?では何を?」
「ただアンタと、話がしたいの」
「......馬鹿馬鹿しいな。話など必要ない。お前にある選択肢は、“譲歩”か“死”か、それだけだ」
ティエラはソウル・ブラスターを手に、フェイへ突っ込んだ。
フェイはティエラによる斬撃を何度かかわすと、少しの隙を狙って、ティエラの顔面に蹴りをお見舞いした。
「グハッ!?」
ティエラはその蹴りにより、数m吹っ飛ぶと、悶絶しそうな痛みを味わいながら、なんとか立ち上がった。
(な、何だ...!?一体何が起こった!?)
今度は、ティエラは“構え”攻撃に出る。
ティエラはその場から消えると、目にも留まらぬ速さでフェイに斬撃を繰り出した。
しかし、
「ばッ...バカな!?」
なんと、斬撃を繰り出そうとしたティエラの腕をつかみ、攻撃を止めたのだ。
すると次の瞬間、ティエラの顔面に拳がめり込んだ。
すると、ティエラは再び数m吹っ飛ばされた。
(な...なんて威力だ...!人間じゃない...!!)
「...!?......お願い。もうあきらめて。アンタを殺したくはない」
「......ハァ...?」
ティエラは震える声でフェイをにらみつけると、再びフェイへ向かって行った。
ティエラは、今度はフェイに攻撃させるよう誘導することにした。
(やはりな。コイツ、戦い自体は素人だ...よし...!)
そのまま相手の隙を探ると、ティエラは相手の腹部に思いっきり蹴りを喰らわせた。
「!!!!!!!!」
すると次の瞬間、ティエラの足に激痛が走った。
(なんなんだコイツは!?硬すぎる!!まるで電柱でも蹴っているかのような...!?)
「ティエラ、アンタじゃ、私には勝てない」
「貴様...何者なんだ...!?」
相手は、以前戦ったときとは桁違いの戦闘力を有している。
それも、人間を超越しているかのような...
「私は私。それは今も昔も変わらない」
「嘘をつくな!だったら、その異常な戦闘力は何なんだ!?」
「......私にも分からない」
「......?」
なんと、フェイ自身もその高い戦闘力に困惑している様子だったのだ。
(...そうか、アイツの仕業だな)
ティエラは、この力の原因が連であると仮定した。
「......アンタさ、手加減してない?」
「......何?」
「前と同じ。攻撃がどこか甘い気がするの」
「......」
そう、ティエラに彼女は“殺せなかった”。
以前戦った時も同じ。
今回も、ティエラの本能が彼女を殺させまいとしていたのだ。
ティエラはソウル・ブラスターを握る力を強める。
「違う...!違う!!そんなはずはない!!俺は殺すと誓ったなら、地の果てまで追い続ける男だぞ!!」
ティエラは“構え”、消えた。
そして...
その時、ティエラは衝撃的な光景を目にした。
「ふ...ふざけやがって...!」
なんと、その刃は確かに彼女の身に達しているが、全くもってそれが通っていなかったのだ。
もう、なにをしても彼女に傷一つ付けられる気がしない。
そのとき、ついにティエラの戦意は消え去った。
『ガレキの城』内部では、未だ戦いが続いていた。
レオは再び鉄棒を中心に氷の盾を創り出す。
そうはさせまいと、連は『神速』でレオの下へと一気に距離を詰めた。
が、このときはレオのほうが一枚上手であった。
レオは、連が自身のもとへ達する直前に氷の盾を創り出すことに成功したのだ。
「無駄だ!!」
連はそれを『神速』の勢いのまま、鉄の刀による突きで盾ごとレオを貫こうとした。
しかし、
「それはどうかな!!」
レオは盾から無数の針を飛び出させ、その何本かを連に喰らわせることに成功した。
「クッ...!」
連は一旦レオから距離をとる。
『地』の能力は城壁を築いているため、使用できない。
物質錬成も、あまり精度の高いものができないし、インフィニティ・モードによる頭痛に耐えられるほどの余裕はない。
幻日も数分のインターバルを経ても1つずつしか放てないし、長くそれをとどめておくことができない。
『神速』に関しても、一度死を味わったことにより、『危機回避』が機能しなくなっており、加速自体も、タカのものの半分程度の速さにしかならない。
これらが今の連の現状だった。
連の能力は、見苦しいほどに劣化していた。
連はレオの攻撃による刺し傷を押さえながら2人のもとへジリジリと接近する。
「イド...援護は任せた」
「......了解」
イドはレイル・ボウを準備し始める。
すると、レオは突然氷の剣を創り出すと、一直線に連へ斬りかかった。
イドは2人の周りを駆け、角度をつける。
連はレオの斬撃を受け止める。
と、その時だった。
2人の斬撃が拮抗する中、突然2人の間を光の矢が一閃した。
「!?」
2人の間を一瞬の衝撃が襲った。
牽制のつもりか、と連は考えた。
連は再びレオに斬りかかろうとしたそのとき、ようやく気付いた。
自身の刀の刃が半分以下の長さに欠けてしまっていることに。
「......!!」
そのとき、既にレオは素手の戦型に転じていた。
そして、連の首筋をレオの足が襲った。
連は、身体全体に大きな振動・衝撃が駆け巡るのをかんじた。
そのままレオに蹴っ飛ばされた連は壁に激突し、大地に叩きつけられた。
「グッ...!あぁッ...!」
そんな声を漏らしながら、連はフラフラと立ち上がる。
連は一気に距離を詰めてくる2人に向かって掌をかざし、幻日を顕現させる。
と、そのときだった。
「—ッ!!!ガッ...ハッ...!ゴフッ...!」
「「!?」」
なんとその場でうずくまり、喀血し始めた。
その際、2人とは全くもって関係のない方向へ幻日は発射され、着弾した後、大きな爆発と衝撃波を伴った。
連は口元の血をぬぐうと、鉄の棒を錬成し、2人のもとへ向かって行った。
しかし、その攻撃はどれも鈍く、2人によって易々とかわされると、お返しと言わんばかりに殴打と蹴りの雨が彼を襲った。
その様相は、『聖戦』というにはあまりにも情けないものであった。
「グッ!!」
連は2人に蹴っ飛ばされ、地面を転がった。
どうあがいても、今の自分では2人を打ち負かすことなどできない。
『魔王』を名乗り、世界を恐怖に陥れた自身が、今となってはこのザマ。
連はそう感じながら、乾いた笑いを浮かべた。
レオによる刺し傷も未だ痛む。
その他にも、蓄積されたダメージが彼を蝕んでいた。
だが...
「まだだ...!」
連は鉄の棒を手に、2人へ突っ込んだ。
イドがレイル・ボウを放つ。
それを確認すると、連は鉄の棒を高々と投げた。
すると、矢は軌道を変え、上へと昇っていく。
「喰らえェッ!!」
連は全身全霊をかけ、イドに殴りかかる。
しかし...
「させるか!!」
それをレオの鉄の棒が防いだ。
「クッ...!」
連はレオの鉄の棒をつかみ、彼を蹴っ飛ばし、鉄の棒から彼を無理矢理放した。
レオは地面を転がる。
そして、その後の連の様子を目にしたその時、
「あ...」
と一言漏らした。
すると、次の瞬間のことだった。
「連」
「......!?」
イドはどこか哀れみを含んだ目で、告げた。
「もう、終わりだ」
そのとき、連の身体を光の矢が貫いた。
連はその衝撃と痛みをその身に打ち付けられながら、イドの電気を含んだ手が、自身がレオから奪った鉄の棒を握っていることを視認するのだった。
こうして、勝負は決した。
それは、『魔王』というには、あまりにも人間らしい結末なのだった。