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第72話 RE ; start

『ヤタガラス』、そして『魔王』との戦争終結から数週間の間、『解放軍』は、勢力の立て直しを行っていた。


そのような中、未だシベリアを彷徨オリジンによる脅威は感じられることもなく、一時の平穏が訪れていた。


その間、各国は領内の復興に勤しんでいた。


一方、『解放軍』はというと、『魔王』を倒した功績により、ほぼ全世界と言っていいほどの規模からの支援を受けられるようになり、さらに力を高めていった。


その規模は、もはや数カ国で構成される連合軍と言っていいほどのものだった。


こうして、『解放軍』は着々と準備を進めていった。





そして、“その日”はやってきた。





『魔王』討伐から数週間経ったころ...


突然、『解放軍』本拠地に警報が鳴り響いた。


オリジンが、ついにシベリアを抜け、モンゴル民族政府へと侵入し始めたのだ。


この一報を受け、『解放軍』はモンゴル民族政府領内の北部へと出動した。






モンゴル民族政府領内の北部...そこには確かにオリジンがいた。


オリジンは様々な攻撃による弾幕を無意識にまき散らしながらこちらへと歩いてきていた。


「また会ったな...オリジン...。だが、今回の俺たちはタダではやられんぞ!」


ティエラはソウル・ブラスターを起動し、光の刃を顕現させる。


T・ユカは構える。


そして、その横にはレオとイドの2人も立っていた。


前回は経験も浅く、見ていることしかできなかったが、今回は違う。


『魔王』を討ち取るほどの力をつけ、今では主戦力の一員だ。


「オリジン!通れるものなら通ってみろ!!俺たちが相手だ!!」


レオが啖呵を切った。


そして、死闘が幕を開けた。


まず攻撃に出たのは、イドだった。


オリジンによる『弾幕』をかわしながら狙いを定め、レイル・ボウを放ち、オリジンに命中させた。


しかし...


「クソッ...!びくともしない...!」


オリジンへの攻撃は、バリアによって阻まれてしまった。


「うおおおおおッ!!!!」


オリジンの背後からレオは弾幕をかいくぐりながら氷の槍で渾身の突きをお見舞いする。


しかし...


「ダメだ...通らない...!」


2人の攻撃は一切通用しなかった。


と、その時だった。


「バリア相手なら、アタシに任せろ!!」


T・ユカはオリジンから少し離れたところでそう叫ぶと、両手を紫色に変色させ、目にも留まらない速さで連撃を繰り出した。


「喰らえ...アタシの新奥義...!『絶対殺陣(アポトーシス)』!!!!」


次の瞬間、オリジンの四方八方に無数の紫色の拳が現れ、バリアに一斉攻撃を喰らわせた。


そして...


バリバリ...パァーン!!


「やった!やったぞ!」


レオがそんな歓喜の声をあげる。


なんと、これまで一度も破れなかったバリアの破壊に成功したのだ。





『絶対殺陣(アポトーシス)』


8年前、バリアの能力者であったヴィーナス相手に決定打として喰らわせた奥義...『六次元(ビッグバン)と空間移動の特殊能力を組み合わせたT・ユカの新奥義である。


これまで、『六次元(ビッグバン)』には相手に接近し、直接攻撃をしなければいけないという欠点があった。


しかし、空間移動を手に入れたことで、相手に近づくことなく相手に攻撃をほぼ必中で喰らわせることが可能となったのだ。


オリジンの身体は霧散する。


一同は歓声を上げる。


しかし、何が起こったのか、オリジンは霧散した場所からすぐの岩陰から突然現れた。




次の瞬間、レオの氷の剣の刃が、オリジンの右腕に斬撃をお見舞いした。


しかし...


「クソッ!!なんでだ!!なんで通らないんだ!?」


渾身の斬撃をお見舞いしたはずだった。


しかし、相手の固さが、そのはるか上を言っていたのだ。


しかし、打撃としては効いていたのか、オリジンは頭を抱え、痛がるそぶりを見せた。


すると次の瞬間、オリジンの身体に光の矢が直撃した。


しかし...


「......嘘だろ?」


矢は、確かに刺さってはいたが、いつものように貫くことはなかった。


オリジンは再び頭を抱え、痛がるようなそぶりを見せながら、煙を上げる矢を抜き取り、投げ捨てた。


その間、他の軍たちによる援護射撃もあったが、それらも全くダメージを与えてはいなかった。


と、その時だった。


「ハァッ!!!!」


背後からティエラが構え、斬りかかった。



ティエラはオリジンの攻撃をかわし、相手の首筋に完璧な斬撃を喰らわせた。


しかし...


「...そんな、バカな...」


そんなティエラの斬撃も、オリジンの前では無力。


代わりに、オリジンによる全力の殴打がティエラを襲った。


その瞬間、ティエラの顔は、死相で埋め尽くされた。


ティエラは殴打を喰らう直前、ソウル・ブラスターで自らの身を守っていた。


殴打を喰らったティエラは、軍列を真っ二つに裂きながら吹っ飛んだ。


そして、ティエラはそのまま気絶してしまった。


その後、オリジンはついに自ら動き出した。


目にも留まらぬ速さでT・ユカのもとへ接近すると、渾身の蹴りをお見舞いした。


その瞬間、レオの咄嗟の氷の盾による防御でなんとか直撃を免れることはできたが、この攻撃によってT・ユカとレオの2人は気を失ってしまった。


オリジンが次に狙いを定めたのは、イド。


オリジンはイドに向かって、幻日を飛ばした。


イドは死を覚悟した。


しかし、次の瞬間、一人の軍が隊列を飛び出し、イドを突き飛ばすことで攻撃は免れた。


数秒後、彼らから離れた場所で大爆発が起こった。


この衝撃波によってイドと軍の2人は吹き飛ばされ、岩に激突するとそのまま気絶してしまった。


すると、イドを倒したと勘違いしたのか、オリジンは隊列を形成する軍たちへと向きを変え始めた。


軍たちは、ティエラらに被害が及ばないようにするため、数十分後退。


そして、ついに総攻撃を開始した。


幾多もの鉄の雨がオリジンを襲う。


オリジンとその周辺は爆炎に包まれた。


しかし、今回のオリジンはいつもよりもかなり強情であった。


前回シベリアに強制的に退却され、いつもより長く彷徨うこととなった鬱憤を晴らすかのように、オリジンは総攻撃などものともせずに軍たちのいるほうへと歩き続ける。


そして、ついにオリジンは隊列の中へと切り込み始めた。


オリジンは一斉に突撃してくる軍の面々を、数々の幻日で迎え、文字通り“吹き飛ばした”。


こうして『解放軍』は壊滅的な大敗を喫し、オリジンの進行を止めることに失敗したのだった。





戦場から、少し離れたところに、ある町があった。


公園では、子どもたちがサッカーで遊んでいる。


赤ん坊を抱えた女性は、ベンチで座り、その様子を微笑みながら見守っていた。


そこから少し離れたところには市場があり、そこでは様々な年代の客と店主が会話を弾ませていた。


彼らは今日も平穏な生活を送っていた。




はずだった。





ある家庭では、母親が夕食の準備をし、少年がテレビを見ていた。


と、その時だった。


それまでバラエティー番組があっていたはずの画面が一転、ニュース番組へと置き換わった。


テレビは彼らに対し、警報音とニュースキャスターによる必死の呼びかけを提供し始めた。


そして、その数分後...


その家は、一瞬で吹き飛ばされた。


笑い声と何気ない会話であふれていた町は、一瞬にして悲鳴とうめき声で埋め尽くされた。


オリジンは町を通過するまでの間、そこに多くの破壊を生んだ。


オリジンは意識しなくとも、ただ歩いているだけで大量殺戮・大量破壊を行う存在。


そう、これこそが、『歩く災厄』たる所以である。





その後、オリジンはモンゴル民族政府領内を縦断すると、そのまま南下し続け、中華民族政府領内にも侵入。


アジア地域における軍が連合を組み、一斉攻撃を行ったことで、やっとのことでオリジンを北上させることに成功した。


この間、無数の尊い命の灯が一瞬にして消し去られたのだった。





激戦の後、『解放軍』は再びモンゴル民族政府領内へ視察に赴いた。


レオとイドもそこにいた。


皆、負傷により、包帯などで手当てされていた。


モンゴル民族政府領内北部の町の被害は特に深刻であり、『解放軍』が視察に来る頃には、人口は10分の1ほどになっていた。


『解放軍』が町へ入ったそのとき、先頭にいたT・ユカ、レオ、イドのもとへ、突然ある女性が先を阻んできた。


「......」


ティエラは警戒する。


すると次の瞬間、女性はその心の内をその場で叫び始めた。


「どうして...?どうして追い払ってくれなかったのよ!?あなたたちはオリジンを倒すための軍隊なんでしょ!?」


『............』


返す言葉もない。


次の瞬間、女性はレオにつかみかかった。


「私の息子は...ただ公園でサッカーをしに行っただけなのに......どうしてあんな目に遭わなきゃいけないのよ!!私たちが一体何をしたって言うのよ!!」


そういうと、そのままズルズルと崩れ落ち、その場で嗚咽し始めた。


「レオ─」


イドがレオに何か声をかけようとしたその時のことだった。


レオは女性と同じように地に膝を預け、頭を下げる。


「おい!レオ!!」


イドはそんなレオを止めようとするが、レオの耳には届かない。


そして...


「......ごめんなさい」


「......!?」


この行動には女性も驚いていた。


「ごめんなさい...ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......ごめんなさい......」


レオは何度も女性に謝罪を述べた。


その声は震えており、今にも消えてしまいそうだった。


女性はそのとき、目の前の子どもに謝罪をさせたことを実感し、この上ない罪悪感に支配され、その場を動けなくなった。


「......行こう、レオ」


『解放軍』が再び進み始めたのを見て、イドはレオに進むよう促す。


しかし、それでもレオは頭を上げることさえもしようとしていなかったので、イドが彼の肩を支え、歩くことにした。


こうして、『悪夢』を彼らは体感した。





このとき、彼らは思い出した。


オリジンの脅威を。


オリジンの圧倒的な戦闘力を。


この世界にはびこる狂気を。





イドは独り連に思いをはせていた。


あの女性だって、『解放軍』を責めたところでどうしようもないことくらい、分かっていたはずだ。


どれだけ『解放軍』を責めても、オリジンは倒れないし、犠牲になった息子も帰ってこない。


そんなやり場のない感情を、どうにかしてぶつけたかったのだ。


今思えば、あの女性のような人のために、連は『魔王』になろうとしていたのだろう。


連は、彼女のような『誰のせいにすればいいのか分からない』人たちのために、『全て自分のせい』になろうとしていた。


そして、この世界にはびこる複雑な憎悪と狂気の螺旋を、全て自分に回帰させ、世界中の人類が『仲直り』できるようにすることを目指していた。


それは、彼にしかできなかったことだ。


他にできるものなど、到底いなかっただろう。


全ては、連であったから...


「連......俺は、これからどうするべきなんだ......」


イドは独り、天へそう問いかけるのだった。





視察を終えた『解放軍』は、本拠地へ帰還した。


殺伐とした雰囲気の中、イドはレオを本拠地の外へ連れ出した。


レオは立つ気力もないようだ。


「レオ...確かに俺たちは負けた。だけど─」


「......だ」


「......え?」


「......なにができるんだ」


「......」


「俺たちに、一体何ができるっていうんだ!!」


「......」


「俺たちは『魔王』を倒した!だからオリジンとだって渡り合えるって信じてた!なのに...結果は散々...」


「......」


「俺たちは......俺たちじゃ!誰一人!!救えないッ!!」


「レオ!!」


「!!」


イドは突然声を荒げた。


「ここで諦めんのか?お前、自分が何で『解放軍(ここ)』にいるのか、忘れたのか!?」


「忘れるわけないだろ!もう俺のようなヤツが生まれないようにするためだ!!」


「今諦めたら、お前のような境遇の人間はどんどん増えていく一方だぞ!!それでもいいのか!?」


「いいわけない!!」


「だったら立て!!俺たちには手も足もある!目だって視えてるし、耳だって聴こえてる!!」


「!!」


「だったら、俺たちにできることは、進むことだ!!そうだろう!!」


「......でも、どうやったらあんなバケモノ...」


「俺に考えがある」


レオは顔を思い切り上げた。


「......考え?」


イドはうなずく。


「あのとき......連を倒した時、連は言っていた。『気狐に聞けば分かる』、と」


「つまり...」


「ああ、そうだ」


「......」


レオは立ち上がる。


その目は再び決意の色へと戻っていた。


イドは、レオのそんな目を見つめながら、自分たちの『これから』を告げた。





「気狐に会いに行く」

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