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第12話 【番外編】星空の下でのふたり――静香とハイネルの甘いひととき

【番外編】星空の下でのふたり――静香とハイネルの甘いひととき




 夜空に、無数の星々がまたたいていた。




 ルンバリア王宮の庭では、盛大な夜会が開かれていたが、静香とハイネルはこっそりと抜け出し、誰もいないテラスに身を寄せ合っていた。








「……すごい、星が……あんなに……」








 ハイネルが見上げた夜空には、まるで手が届きそうなほど、星の海が広がっていた。




 ドレス姿の静香は、ハイネルの隣にそっと並び、微笑みながら同じ空を見上げた。








「本当に……きれいですね」








 どこか懐かしく、それでいて、どこまでも新しい景色だった。








 ふたりはしばらく無言で、ただ星空を眺めた。








 柔らかな夜風がドレスの裾を揺らし、ハイネルの金色の髪をそっと撫でていく。








「静香……」








 ハイネルが、そっと呼びかけた。




 その声は、少しだけ震えていた。








「はい、ハイネル様?」








 そう返すと、ハイネルはふるふると首を振った。








「ちがう……」




「今日からは、『様』はいらないって、言ったでしょう?」








 静香は一瞬驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。








「……そうでしたね」




「ごめんなさい、ハイネル」








 その柔らかな声に、ハイネルの頬がほんのり赤く染まる。








 恥ずかしそうに視線を逸らしながら、ぽつりと呟いた。








「……僕も、静香って、呼んでもいい?」








 静香は微笑みを深め、そっとハイネルの手を取った。








「ええ、もちろんです」




「私たちは、もう……特別な存在なのですから」








 小さな手が、ぎゅっと静香の手を握り返す。




 その温もりが、胸にじんわりと広がっていった。















 しばらくして、ふたりは並んで腰を下ろし、静かに夜空を眺めた。








「静香……僕、ずっと思ってた」








 ハイネルが小さな声で切り出す。








「僕は、強くなりたい。静香の隣にふさわしい男になりたい」




「だから、これからもずっと……僕のこと、見守っていてほしい」








 その真剣な眼差しに、静香の胸は熱くなった。








「……もちろんです」




「私も、あなたがどんな未来を歩んでも、そばにいます」








 ふたりの間に、優しい沈黙が流れる。








 ふと、ハイネルがぎこちない動作で、立ち上がった。




 そして、そっと両手を差し出した。








「静香……」




「ぼ、僕……その、お願いがあるんだ」








「お願い?」








 首を傾げる静香に、ハイネルは真っ赤な顔で言った。








「……キス、したい」








 その一言に、静香の頬も熱く染まる。








「……ハイネル……」








 うつむきながらも、勇気を振り絞った少年の姿に、静香はそっと頷いた。








「……はい」








 ハイネルは、震える手で静香の頬に触れた。








 そして――








 ぎこちなく、幼いキスが、静香の頬に落ちた。








 それは、あまりにも不器用で。




 でも、世界でいちばん真っ直ぐで、優しいキスだった。








 ハイネルはすぐに顔を離し、照れ隠しのように顔を真っ赤にして俯いた。








「……へ、下手だったよね……」








 静香は微笑みながら、ハイネルの頭をそっと撫でた。








「そんなことありません」




「とても……嬉しかったです」








 その一言に、ハイネルはぱっと顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。








「……ほんとう?」








「ええ、ほんとうです」








 二人は見つめ合い、ふわりと笑い合った。








 夜空の下、誰にも邪魔されない、ふたりだけの世界。




 そこにあるのは、ただ純粋な想いだけだった。















「静香……」




「はい、ハイネル」








 少年は、真剣な表情で言った。








「僕は、静香を世界でいちばん大切にするって、誓うよ」








 静香もまた、穏やかに微笑みながら応えた。








「私も、あなたを何よりも大切にします」




「あなたの未来を、私の命を懸けてでも守ります」








 ふたりはそっと手を重ねた。








 小さな手と、大きな手。




 未来を繋ぐ、たったひとつの約束。








 ――この世界で、たったひとり、互いを信じ合える存在。








 星空が静かに輝き、ふたりの誓いを、優しく祝福していた。












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