はじめて結ばれた日と、同じマンション、同じ寝室、同じムード。
だけど、今日の慎也はあの日よりずっと激しかった。
ベッドに押し倒されながら、星はほんの少しだけ抵抗した。慎也の袖を引っ張り、それでも解放されないと悟ったら今度は胸板を思い切り押し上げた。
「いや、なのか?」
「違う……違うんだ……」
もう、二人ともすっかり服を脱いでしまっていた。それでも星がすんなり抱かれなかったのは、怖かったからだ。慎也の性急さが、焦りの色が浮かぶ顔が、獣のように餓えた瞳が――。
「じゃあ、素直に俺に抱かれてくれ」
「い、や……」
慎也の美しい顔からはぽたぽたと汗が垂れ、星の体に降り注いでいる。
「慎也、だめ、だめ……!」
もみくちゃになりながらも、最後は体格差がものを言った。
体を押さえ付けられ、吸われ、赤い痕を残され――、星は徐々に抵抗する気力を失っていった。
ただひたすらに、星は恥ずかしかった。結局は慎也の意のままになってしまう自分が、ルキの前であられもない格好を晒してしまう自分が――。
慎也の息も、どんどん荒くなっていった。熱い吐息が、星の肌の上を走る。そのたびに、体の中で熱い炎がめらめらと燃えた。
「慎也……あつ、い……」
体中が、どこもかしこも熱い。骨の髄まで焼き尽くされてしまいそうで、星は必死に慎也の腕にすがった。
「怖いのか?」
答えることすらもどかしく、星は慎也の胸に顔を擦り付けるようにして、頷いた。
すると、慎也が星の後頭部を撫でてくれる。長い指に髪を絡めながら、やさしく、やさしく、星を宥めてくれる。
「嫉妬したり、甘えたり……可愛い奴」
「からかうなよ……」
涙交じりに星が訴えても、慎也はどこ吹く風だ。空いている手で星の胸を弄びながら、肌の弾力を楽しむかのように手をどんどん下に移動させていく。撫でられるたびに、星は体の奥底で火花が弾けるのがわかる。そのまま細胞まで弾け、星そのものが消えてなくなってしまいそうだ。
「可愛い、俺の宝物」
「俺は、お前を誰よりも大事にしてやれる自信がある」
「お前を一番気持ちよくしてやれるのも、俺だけだ」
睦言の連続で、脳みそがどろどろになる。
何も考えられないまま、両脚を左右に裂かれた。
「あぁ……ぁ……」
全身の毛が、ぞわ、と逆立つのを感じた。
目の前にいるのは、いつもの美しい、慎也だった。
その慎也が、こんなにも荒々しく自分という一人の人間をめちゃくちゃにしようとしている。あの冷静な慎也を、自分がここまで熱くさせている――。
慎也がどんなに仕事に打ち込もうとも、その間は自分を忘れてしまうようななことがあっても、これほどまでに彼を夢中にさせられるのは「室井星」という男ただ一人なのだ。
「俺、幸せだ……」
寝室の暗い天井を見つめながら、星はつぶやいた。
この時間が、ずっと続けいい。ずっとずっと、慎也を独り占めできればいい――。
そう思ったとき、慎也がゆっくりと星の体に入ってきた。
「写真、撮ろうか」
汗ばんだ体をシーツの海に沈め、快楽の余韻に酔っていたときだった。慎也が、突然そんなことを言った。
「写真?」
「うん……いつだったか、約束しただろう?」
確かに、このマンションを最初に訪れた日、「いつかお前を撮影したい」と慎也は言ったのだった。だが、星はその言葉を本気にしたわけではなかった。新しい恋人への、リップサービスくらいに思っていたので、慎也の申し出には正直なところ、驚いていた。
「いいよ。だって、この間撮ってくれたろ?」
「お前の顔は映ってなかったじゃないか」
「……別に、いい」
「俺が撮りたいんだ。また嫉妬でもされたら、たまんないからな」
「その話は、もうやめろって!」
ほんの数時間前、子供みたいに駄々をこねてしまったことが思い出され、星は急に恥ずかしくなった。
「いいじゃないか、カメラマンとしてモデルにお願いしてるんだ」
「モデルって……、お前、どんな写真を撮るつもりなんだ」
「腰砕けになってるお前の、エロい体を、ここで」
「馬鹿!」
冗談ではなく、本気で叫んだ。どこまでも予想外なことを言ってのけるのが、この男なのだ。
「そーゆーのハメ撮りっていうんだよ」
「芸術家の俺が撮れば、ハメ撮りじゃない」
そう言うと、慎也は隣の撮影室から本当にカメラを取ってきた。
「マジで撮るのかよ」
「お前の、一番美しい姿を撮りたい」
胸の奥が、ちりちりと熱くなった。こんなことを言われて、断れる恋人なんているはずがない。
「……どうすればいい?」
「物わかりがいいな。そうだな……毛布は胸の辺りまで下げて……体は、左側を下にする感じで……こっちを向いて……」
半分ヤケになって、慎也の指示に従った。しかし、慎也に見つめらていると思うと――今この瞬間だけはこの男の視線を独占できていると思うと――悪い気はしなかった。
「うん、いいよ。その感じ」
「こっちを見て」
「俺だけを、見つめて」
カメラを媒介にして、慎也と心を通わせる。
シャッター音が響くたび、心臓がどくん、どくん、と跳ねる。体ばかりか心までも、慎也に奪われてしまったかのようだ。
「終わったよ」
そう告げられたとき、星は一抹の寂しさを感じた。
もっともっと、星は慎也に「奪って」ほしかった。
そんな星の気持ちを置き去りに、慎也は撮影室に戻っていった。すぐに戻って来て、もう一度抱きしめてもらいたい。生身の瞳に、肌が焼かれるまで見つめられたい――。そう思ったとき、枕元に置いていたスマホから、ぽこん、ぽこん、と通知音が響いた。
無意識のうちに、星はスマホを手に取った。
「シンヤさんが画像を送信しました」
嫌な予感がして通知をタップした瞬間、全身から血の気がさぁっと引いた。
「お前! バカ!」
体の怠さなど、一気に吹き飛んだ。
薄い毛布一枚を被り、ベッドの上に体を投げ出す星――。その写真が共有されたのは、星と慎也、ルキのグループLINEだった。