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第14話 俺のお嬢様 sideセス




sideセス




「それで?ステラは見つかったのかしら?」




夜。煌びやかな照明の光を受けてリタ様がこちらに歪んだ笑みを浮かべる。

リタ様の横にはリタ様のお父上、ルードヴィング伯爵様もおり、2人は立派なソファに腰掛け、こちらをじっと見つめていた。


ここはルードヴィング伯爵邸内にあるルードヴィング伯爵様の執務室だ。

俺は今日も仕事の合間を縫って行っていたステラ様の捜索報告をこの2人にしていた。




「いえ。ステラと思わしき人物の情報すらありませんでした」


「はぁ、そう。やっぱり簡単には見つからないのね」




俺の淡々とした答えにリタ様が悔しそうに顔を歪める。

我がミラディア帝国の美の女神と讃えられているその美貌もこうも醜く歪められては台無しだ。




「あの女は賢い。こちらが一度敵意を向けた以上どんな手を使って報復してくるかわからん。1番最悪なのは帝国を出て、こちらの機密事項を全て情報として売り出すことだ」




そんなリタ様の横でチッと舌打ちをし、伯爵様が自身の眉間にシワを寄せる。




「やはり暗殺はお前に任せればよかったな、セス。他の者に頼むからこんなことになってしまった」




そして伯爵様はそう言うとはぁ、と大きなため息を一つついた。


ステラ様を殺そうとした夜のことを思い出し、後悔をしている伯爵様をここ数ヶ月で何度見てきたことか。


ステラ様の暗殺はもうずっと昔から俺がやると決められていた。その為に俺は執事業だけではなく、暗殺業も身につけ、ステラ様を確実に殺せるようにと予行としてたくさんのルードヴィング伯爵家にとって邪魔な者を排除してきた。


そしていよいよステラ様を殺す日。

伯爵様は俺にステラ様を殺させなかった。

俺がステラ様に情を抱き、殺さないかもしれないと判断したからだ。


なので俺はあの日の夜、まさかステラ様が暗殺されるとは夢にも思わなかった。

だがしかし暗殺は失敗に終わり、ステラ様は今、どこかに身を隠し、生きている。




「…俺なら確実にステラを殺せます。その為に今まで力をつけてきたのですから」




俺は伯爵様に不敵に微笑む。

俺がステラ様を絶対に殺すと信じさせる為に。




「わかっている。お前の実力は我が家一だ。次はお前に任せる。ステラを見つけ次第さっさと殺せ」


「はい。お任せください」




どこか疲れた様子で俺に命令する伯爵様に俺は深々と頭を下げた。




「ねぇ、セス」


「はい、何でしょうか」




頭を下げる俺にリタ様の愉快そうな声が聞こえる。




「ステラを殺す時は私を絶対に呼びなさい。私の手であの女を直接痛めつけたいの。いいわね」


「はい。かしこまりました」




残忍なリタ様の笑い声は女神ではなく、まるで悪魔のようだ。

そう心の中で思いながらも俺はリタ様に忠実な執事のフリをして、その悪魔の手先のようにリタ様に淡々と返事をした。





*****





伯爵邸内にある自室に戻ってまずはコーヒーを作る。

そしてそれをカップに淹れると俺はやっとソファに腰掛けた。




「…はぁ」




小さく息を吐いてカップに口をつける。

今日も1日いろいろな業務に追われ、こうやってゆっくりと休む暇もなかった。


俺は誰よりも早くステラ様を見つけ出す為に通常業務以外の時間は全てステラ様捜索に充てていた。

もう誰にもステラ様を害させない為に。


伯爵様の読みは当たっていたのだ。

俺がステラ様を殺せない、と。


俺はずっとステラ様を殺せと言われたその日からどうすればステラ様を救えるか考えていた。

俺が生涯仕えたいと思っているのはリタ様じゃない。ステラ様だ。


明るくいつもまっすぐでどんなことにもひたむきに努力し、不可能を全て可能にしてきた強い女の子。そんなステラ様だからこそ側で支えたいと思えたし、この人こそが自身の主であり、俺のお嬢様だと思った。


それを何度も何度も俺は誰にもバレないようにステラ様にだけ伝えた。



「ステラ様、アナタこそが俺の主であり、たった1人の俺のお嬢様なのです」と。



するとステラ様はいつも嬉しそうににっこりと笑った後、



「アナタの主であり、お嬢様なのはリタ様ただ1人だよ」と言った。



その言葉を聞くたびに俺の胸はえぐられた。まるで捨てられた犬のような気持ちになった。


何度ステラ様に俺の忠誠を否定されても俺はステラ様にだけ密かに忠誠を誓い続けた。

そして俺はある日ふと思った。ステラ様が殺されることは逆にチャンスなのかもしれない、と。


ステラ様の暗殺を利用してやろうと俺は考えたのだ。

ステラ様を殺したフリをしてステラ様を監禁してしまえばいい。


監禁した後「ルードヴィング伯爵家がステラ様の命を狙っている。アナタを守る為にもここから出ないで」と事情をステラ様に説明すればステラ様も納得して囚われてくれるだろう。


そうすればステラ様の世界には俺だけになる。リタ様なんていない。


そしてそんな世界で俺はもう一度ステラ様に言うのだ。



「ステラ様、アナタこそが俺の主であり、たった1人のお嬢様なのです」と。



そこまですればステラ様もやっと理解してくれるはずだ。


後は2人だけの世界でずっと俺がステラ様をお守りすればいい。

何と幸せな世界なのだろうか。


その為にも誰よりも早くステラ様を見つけ、誰にもバレないように監禁しなければならない。


ステラ様は聡明で用心深い。

きっとこうなることも想定してある程度の準備をしていたはずだ。

ここまで探しても何の痕跡も見つからないとなるとおそらくステラ様は魔法薬を使って姿を変えているのだろう。


栗色の髪に緑の瞳の女性。

きっとステラ様は今それとは違う姿になっているはずだ。

下手をしたら性別を偽っている可能性だってある。

探す範囲も情報も膨大だが、幸せなステラ様との未来の為に俺は今日も考えを巡らせることにした。


誰よりも早くステラ様をこの手に入れる為に。



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