皆様、ごきげんよう。
♪(作者名)です。
読者様の中にお医者様はいらっしゃいますか?
私は医師免許を持っていないのですが、手術をしたことがあります。
もちろん、ゲームの中ですけど。
そのゲームの名は『ライフ&デス』。
虫垂炎の手術を行うゲームです。
断言します。クソゲーです。
このゲームは親友の小林君に紹介されてプレイしたものです。
なぜ小林君がこのゲームを始める気になったのかは理解できないのですが、最終的に彼は手術を成功させるまでやりこんだのです。今回はその話です。
――
ゲームを起動すると、ベッドに寝ている患者がいます。
最近のゲームだと、なんらかのチュートリアルがあるのですが、当時のゲームにはそんなものはありません。
いきなり、現場に放り込まれるのです。
このゲームが虫垂炎の手術をすると聞いていた私は、カルテだけを見て手術を開始しました。
そして、メスを入れた瞬間。
「ぎゃあぁぁ……」
悲鳴が聞こえ、『おや、誰か来ましたよ』のメッセージ。
画面が変わって霊安室に横たわる患者さん。
さらに画面が変わって、眉のない外科部長が説明をしてくれます。
「患者さんは、あなたの外科的魔術によって、苦しみから永遠に解放されました」
くそっ、ちょっと上手いこと言いやがって。
そこで、小林君が助言をしてくれました。
「今の患者さんは、手術不要だよ」
えっ、手術するゲームじゃないの?
聞いたところによると、症状は全部で4種類。
虫垂炎だけじゃなく、お腹にガスが溜まっているだったり、感染症だったりというケースもある。
触診やレントゲンで原因を探り、症状によっては抗生物質を処方したり、様子を見るのが正解だったりします。
手術のゲームと聞いていたので、完全に裏をかかれた感じです。
何度かやってみて、ようやく虫垂炎の患者に遭遇した私は、満を持して手術を開始します。
「ぎゃあぁぁ……」
ああ、また……霊安室。
どうやら、最初に手を洗い、手袋を着用。患者のお腹も消毒する必要があるようです。
そのあとはシートのようなものでお腹以外をカバーします。
よし、今度こそ!
「ぎゃあぁぁ……」
「あなたは切り裂きジャックの真似をしましたね?」
うるせえ、眉なしがああ!
小林君がまた助言をしてくれる。
どうやら、麻酔をしていなかったようです。
この病院、麻酔科医もいないし、執刀医は麻酔の仕方もしらないんだぜ。
こんな医療事故を起こしても、メディカルスクールに出席するだけで許されるとは、世も末である。
脳外科医竹田君もこんな感じだったのかもしれません。
私、失敗しかしないので!
気を取り直して、次の実験体……ではなく患者に登場していただく。
今度は無事、麻酔もかけ、手術がスタートした。
私はこのとき初めて知ったのだが、人間の身体は肉が幾層にもなっていて、一枚ずつ捲っていくのだそう。
止血をしながら、メスで切り、捲っていくと……ある問題が。
切るところが無くなったのです。
実際の手術ではそんなことはないのだろうけど、これはゲーム。
一枚ずつ捲る度に、切れる範囲がどんどん小さくなっていくのです。
「なので、画面の端から端まで対角線に切ればいいんだよ」
と、小林君の新たな助言が。
いや、端から端までって、これもう切腹レベルの大きさだよ。
虫垂炎の手術って、数センチくらいの穴を空けて、なんか器具入れる感じじゃなかった?
「まあ、これはこういうゲームだからさ」
小林君は良い友人だが、素直すぎるところが欠点だと思う。
あと、アドバイスを小出しにするの、やめてもらっていいですか?
私が失敗するのを楽しんでいるでしょ?
ということで、ここでドクター小林に交代し、模範解答を見せていただくことに。
さすがに、やりこんだ彼の手術は見事なお手並みでした。
切腹レベルに切開された所から内蔵が出てきたときは、もう感動ものです。
患部を切除し、逆順に切ったところを戻していきます。
そして、手術完了! 長かった!
と、思ったら麻酔を切れ忘れていた、ドクター小林。
眉なしに怒られておりました。