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第9話 ライフ&デス(1988年 Software Toolworks)

 皆様、ごきげんよう。

 ♪(作者名)です。


 読者様の中にお医者様はいらっしゃいますか?

 私は医師免許を持っていないのですが、手術をしたことがあります。

 もちろん、ゲームの中ですけど。


 そのゲームの名は『ライフ&デス』。

 虫垂炎の手術を行うゲームです。

 断言します。クソゲーです。


 このゲームは親友の小林君に紹介されてプレイしたものです。

 なぜ小林君がこのゲームを始める気になったのかは理解できないのですが、最終的に彼は手術を成功させるまでやりこんだのです。今回はその話です。


 ――


 ゲームを起動すると、ベッドに寝ている患者がいます。

 最近のゲームだと、なんらかのチュートリアルがあるのですが、当時のゲームにはそんなものはありません。

 いきなり、現場に放り込まれるのです。


 このゲームが虫垂炎の手術をすると聞いていた私は、カルテだけを見て手術を開始しました。

 そして、メスを入れた瞬間。


「ぎゃあぁぁ……」


 悲鳴が聞こえ、『おや、誰か来ましたよ』のメッセージ。

 画面が変わって霊安室に横たわる患者さん。


 さらに画面が変わって、眉のない外科部長が説明をしてくれます。


「患者さんは、あなたの外科的魔術によって、苦しみから永遠に解放されました」


 くそっ、ちょっと上手いこと言いやがって。


 そこで、小林君が助言をしてくれました。


「今の患者さんは、手術不要だよ」


 えっ、手術するゲームじゃないの?

 聞いたところによると、症状は全部で4種類。


 虫垂炎だけじゃなく、お腹にガスが溜まっているだったり、感染症だったりというケースもある。

 触診やレントゲンで原因を探り、症状によっては抗生物質を処方したり、様子を見るのが正解だったりします。

 手術のゲームと聞いていたので、完全に裏をかかれた感じです。


 何度かやってみて、ようやく虫垂炎の患者に遭遇した私は、満を持して手術を開始します。


「ぎゃあぁぁ……」


 ああ、また……霊安室。

 どうやら、最初に手を洗い、手袋を着用。患者のお腹も消毒する必要があるようです。

 そのあとはシートのようなものでお腹以外をカバーします。

 よし、今度こそ!


「ぎゃあぁぁ……」


「あなたは切り裂きジャックの真似をしましたね?」


 うるせえ、眉なしがああ!


 小林君がまた助言をしてくれる。

 どうやら、麻酔をしていなかったようです。


 この病院、麻酔科医もいないし、執刀医は麻酔の仕方もしらないんだぜ。

 こんな医療事故を起こしても、メディカルスクールに出席するだけで許されるとは、世も末である。

 脳外科医竹田君もこんな感じだったのかもしれません。

 私、失敗しかしないので!


 気を取り直して、次の実験体……ではなく患者に登場していただく。

 今度は無事、麻酔もかけ、手術がスタートした。

 私はこのとき初めて知ったのだが、人間の身体は肉が幾層にもなっていて、一枚ずつ捲っていくのだそう。

 止血をしながら、メスで切り、捲っていくと……ある問題が。


 切るところが無くなったのです。

 実際の手術ではそんなことはないのだろうけど、これはゲーム。

 一枚ずつ捲る度に、切れる範囲がどんどん小さくなっていくのです。


「なので、画面の端から端まで対角線に切ればいいんだよ」


 と、小林君の新たな助言が。

 いや、端から端までって、これもう切腹レベルの大きさだよ。

 虫垂炎の手術って、数センチくらいの穴を空けて、なんか器具入れる感じじゃなかった?


「まあ、これはこういうゲームだからさ」


 小林君は良い友人だが、素直すぎるところが欠点だと思う。

 あと、アドバイスを小出しにするの、やめてもらっていいですか?

 私が失敗するのを楽しんでいるでしょ?


 ということで、ここでドクター小林に交代し、模範解答を見せていただくことに。

 さすがに、やりこんだ彼の手術は見事なお手並みでした。


 切腹レベルに切開された所から内蔵が出てきたときは、もう感動ものです。

 患部を切除し、逆順に切ったところを戻していきます。

 そして、手術完了! 長かった!



 と、思ったら麻酔を切れ忘れていた、ドクター小林。

 眉なしに怒られておりました。

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