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第11話 職業

次の日、俺はBクラスの教室で授業を受けていた。


「次は、戦闘職と非戦闘職の違いについてだ」


教壇の後ろにある大きなディスプレイに各職業の一覧が表示された。

鬼龍先生が画面を操作すると、戦闘職と非戦闘職の特徴が並べて比較される。


「まず、戦闘職と非戦闘職の違いは、レベルが上がったときのステータスの上昇値だ。

非戦闘職は戦闘職と比べてステータスの上昇効率が悪い。それに職業スキルが戦闘と関与しないものがほとんどだ。

だが、スキルスクロールからスキルを獲得することはできるから一応は探索者として活動することは出来る。人並み以上の努力は必要だがな」


鬼龍先生は淡々と授業を進める。以前校長が言っていた、木こりや料理人でC級探索者になった人もいるってのもだいぶ凄いんだな。


「逆に戦闘職はステータスの伸びが良い。それに職業スキルも、戦闘や探索に最適な物が多い。

とは言っても非戦闘職が微妙なのかと言われると、そうでもない。料理人は自身が作る料理に様々なバフを付与することができるし、木こりはダンジョンに生えている特殊で丈夫な木を伐採することも容易だ。

他にも使用人や鍛冶職人なんかもあるが、あくまで非戦闘職は探索や戦闘に向いていないというだけだな」


ふむ、つまりは儲かるということか?昨日の焼き鳥なんかも疲労回復の効果が乗ってて2000円だったもんな。効果は絶大だったけど。


「ちなみに、この学園のクラスは、戦闘職と非戦闘職で分けられている。

CクラスとDクラスは非戦闘職、Bクラスは戦闘職、Aクラスは希少職だ。

もしかしたらその内、面倒なやっかみがあるかもしれんが、その際は報告しろ」




俺は授業が終わり、教室を出ると、一之瀬さんに話しかけられた。


「ちょっと」


「…! 一之瀬さん、どうしたの?」


「いや、少し話があって…予定はあるかしら?」


「これから基礎訓練に行こうとしてたところだけど」


「なら歩きながら話しましょう」


俺は頷いて、一之瀬さんと並んで歩き始めた。彼女の歩幅に合わせようとすると、自然と歩調が少し速くなる。


「で、話は?」


「この前話したダンジョンのことがあるじゃない、その……何かデートに誘うみたいで嫌ね、これ」


「ハハ!結局何を話したいのさ」


何となく照れながら言いづらそうにしている一之瀬さんを見て軽く笑うと、一之瀬さんは睨みつけてくる。


「おっとごめん、笑いすぎたかな」


「…いや、私が悪いわね。別に大したことじゃないのよ。土曜日、一緒にダンジョンへ行ってほしいってだけで」


「いいよ。探索者登録は?」


「もう済ませてあるわ。前にも言ったけど、私は戦士だから火力は出せると思うのよね」


「心強いな。俺なんかまだ索敵系のスキルすら無いから、ただ速くて足音が小さいだけなんだよね」


「でも、昨日頑張ってたじゃない」


一之瀬さんが顔を少し背けながら言う。まさか…俺の配信を見ていたのか!


「俺の配信見てたの!?」


「たまたま……まぁ、たまたま見つけたのよ。凄かったじゃない、あのフォレストベアへの立ち回り」


「そうかな?逃げ回ってただけのような」


「それでも、1人の人間を救ったんだから大したものよ」


その唐突な褒め言葉に、俺は一瞬だけ言葉を失った。


「…ありがとう」


照れ隠しに視線をそらすと、一之瀬さんも黙って歩き続ける。けど、その横顔はどこか柔らかくて、いつもの鋭さが少しだけ和らいで見えた。


「あの後、B級探索者の立花さんって人に怒られたよ。“次は迷わず見捨てろ”って」


「…それが正しいのかもしれないけど、私は好きよ」


「え?」


「誰かを助けようとして行動できる人」


足を止めてこちらを見つめてくる真っ直ぐなその目に、視線を逸らすことも出来なかった。


「土曜日、楽しみにしてるわ。じゃあね」


そう言って、一之瀬さんは基礎訓練施設とは逆方向に歩いていった。残された俺は、しばらくその背中を見送っていた。



しばらくして我に返った俺は、基礎訓練施設に入って、"守"のステータスを上げるエリアへと向かった。

そして、衝撃防御エリアに入る。そこは少し重めのボールを発射する装置がいくつもあり、それを手や足で弾いていくという訓練だった。俺は受付の端末でレベル1の初級プログラムを選択する。


中心の目印に立つと、ブォンという音と共に、目の前の壁に設置された球体発射装置が赤く光った。

次の瞬間、野球ボールほどのサイズの黒い球が高速で飛んでくる。反射的に腕を上げ、当たる直前に弾く。

ガンッ、と鈍い音がして腕に少し衝撃が走るが、なんとか弾く。


休む暇もなく、別の角度から第二射が飛んでくる。

足元、右下。俺はバランスを崩しながらも蹴り上げて弾いた。だが、わずかにタイミングが遅れて、球が脛をかすめた。


「ちっ、今のはミスか…」


衝撃で立ち位置がズレる。痛みはあるが、訓練用なだけあって大した怪我にはならない。

この繰り返しが“守”のステータスをじわじわと底上げしていく。


一之瀬さんの言葉が、頭の中で繰り返される。


「誰かを助けようとして行動できる人」


そんな風に言ってもらえたのは、正直嬉しかった。けど、それに見合うだけの実力は、俺にはまだ無い。

そんなことを考えていると、正面から発射された球体の反応に遅れた。おでこに球体が直撃する。


ドンッ!

「いでっ!」


思わずその場にしゃがみ込んだ。額に鈍い痛みが響き、視界が一瞬だけ白んだ。

装置は俺の動きを検知して自動停止するが、それでも恥ずかしさのほうが痛みより勝っていた。


「…ちょっと油断しすぎか」

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