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第12話 デート?

ある程度守りの訓練を行い、少しベンチに座って休憩していると、ガタイの良い、おそらく上級生の人が隣に座った。

そして、何となく硬派そうなその顔を俺に向けてくる。


「新入生か?」


「あ、はい。そうです」


「俺は3年の土屋健太だ」


「鈴木海人です」


「ふむ、お前は戦士なのか?守りを鍛えているようだが」


「いや、違いますよ。盗賊です、守りは弱点みたいなもんなんで鍛えておきたいんですよね」


土屋先輩は少し目を細めて俺を見た。厳つい顔立ちのせいで、その視線だけで圧がある。


「盗賊か…なるほど。守りを軽視するやつが多い中で、それを補おうとする姿勢は悪くない。

だが盗賊の長所である速さを捨ててはならん、それは自分の強みを無くすのと一緒だ」


「ええ、もちろんですよ。土屋さんの職業は何なんですか?」


「俺は騎士だ」


「騎士…希少職でしたっけ」


「ああ、そうだ。今のところ学園内に騎士は三人しかいないな」


そう言って、土屋先輩は500mlペットボトルのフルーツ牛乳を飲む。


「希少職って職業スキルの条件が特殊なものが多いんでしたっけ」


「そうだな。騎士のレベル1から習得している"騎士の誓い"という職業スキルは、全身鎧と盾、そして剣を装備してようやく効果が発揮する。

力,守のステータスが上昇する強力な職業スキルではあるんだがな」


「へぇ、そりゃ凄いな。でも、フル装備で戦うのは大変そうですね」


そう口にすると、土屋先輩はわずかに口元を緩めて笑みを浮かべる。


「その通りだ。重装備は体力の消耗も激しいしな。だが魔物のヘイトを集めて戦える有用な職業だ。

多数の魔物を引き寄せて戦うのは配信映えも良いしな」


「あれ、土屋さんみたいな人でもそういうこと気にするんですね。意外です」


「はは、俺だって一応は探索Lifeの配信者だからな。配信の数字は気にしないわけにはいかん」


土屋先輩はそう言って肩をすくめた。武骨そうな見た目に反して、現代的な一面もあるらしい。


「とはいえ、俺が見てるのは数字の先だ。配信で得た注目が、時に援助やスポンサーを呼ぶ。

より金を稼げれば、自分に最適なスキルや装備を揃えることもできる。強力なスキルや装備であるほど非常に高値だからな」


「なるほど。確かに、より高みを目指すなら配信のことも考えたほうが良いんですね」


「そうだ。そして、神崎啓介様のような探索者に……」


土屋先輩が物思いにふけてしばらく虚空を見つめると、ハッとした表情で現実に戻ってくる。


「とまぁ、そんなところだ。お互いに、より高みを目指すとしよう。ではな」


「はい」


土屋先輩は立ち上がると、訓練へと戻っていく。その鍛え上げられた姿は実力者のそれだ。


(次は力の訓練でもすっかね)


そう考えた俺は、力のトレーニングエリアへと歩いていった。





土曜日、俺は探索者協会美女木支部内にある広い休憩所で座って一之瀬さんを待っていた。

服装は支給された迷彩服上下セットだ。異空間収納の黒革のリュックもある。

ジュースを飲みながらスマホをいじって待っていると、一之瀬さんがやってきた。俺と同じ支給された迷彩服上下と黒革のリュックを背負っている。


「ごめんなさい。待たせたかしら?」


「大丈夫だよ。座ってスマホいじってただけだし」


一之瀬さんは俺の向かいに腰を下ろして微笑んだ。

こうして見ると俺なんかよりずっと強そうに見えるな。相変わらず美人だし。


「それじゃ、パーティー登録しちゃいましょうか」


「ん、何それ」


俺がそう言うと、一之瀬さんはジト目をこちらに向けた。


「…あんた、探索者用のスマホを全然見てないでしょう?

探索者用スマホからパーティー登録ができるの。報酬とかを自動で分配してくれるから便利なのよ」


「そうなんだ!全然見てなかったな。それじゃあちょっと教えてくれる?」 


「もちろん」


一之瀬さんは慣れた手つきで自分のスマホを操作しながら、俺の隣に椅子をずらして座る。


「まず、探索者専用アプリを開いて……この“パーティー管理”ってとこをタップ」


「えっと、これかな。おお、なんか出てきた」


「そこで“パーティー作成”を選んで、リーダーを決める。今回は私が誘うから、私がリーダーね」


俺が頷くと、一之瀬さんは俺のスマホのQRコードを読み取って、さくさくと登録を進めていく。


「はい、これで登録完了ね。ついでに友達登録もしておいたから、次から楽に誘えるはずよ」


「何から何までありがとう。それじゃあ、いくつか依頼を受けてから行く?俺は前に治癒の花の納品依頼をやったけど」


「そうね…まぁ見てみましょう」


スマホから美女木平原ダンジョンのズラーッと並ぶ依頼を見ていく。とは言っても俺らはG級なので受けられる依頼は少ない。


「それでも、けっこう種類あるのね……」


一之瀬さんがスマホの画面をスクロールしながら呟く。依頼内容は魔物ドロップ品や素材の納品依頼や、探索データの提供など多岐にわたっていた。


「『魔石 納品依頼』…これは魔石1つで200円貰えるみたいだね。どうせ魔物とは遭遇するだろうし、これは受けておこうか」


「そうね。それと、『マッスルピッグの肉 ×2 納品依頼』これは報酬が2万円で良いわね。これも受けておく?」


「いいね。とりあえず、こんなもんかな?今日は初めてのパーティー探索だし」


「そうしましょう。途中で何か取れたら、その納品依頼を受ければいいでしょうしね」


「…そっか、そういうやり方もあるのか」


俺は感心していると、パーティーのリーダーである一之瀬さんが依頼を受けていく。


「…一応言っておくけど、私今日がダンジョン初めてなのよね」


「あれ、そうだったんだ」


「ええ。平原に出る魔物は仮想戦闘で一通り倒せたんだけど…」


「なら大丈夫じゃないかな?盗賊の俺でも平原の魔物は倒せたし…そういえば武器は何なの?」


「斧よ。少しリーチが長めのね」


そう言うと、リュックから金属の斧を取り出した。それは1mほどの刃が両側にある斧だった。そこそこ重量があるように見えるが、戦士には扱うのが容易なのだろう。


「他にも剣があったんだけど、こっちのほうが威力がありそうだったからこっちにしたわ」


「うん。これだったら平原の魔物ぐらい楽に倒せるんじゃないかな。それじゃあ、ダンジョンドローンを起動して向かおっか」


「そうね」


俺と一之瀬さんはリュックから白い球体のダンジョンドローンを取り出して起動すると、2つとも宙に浮く。

そしてダンジョン入口の大扉に向かって歩き出した。人で賑わっている大通りを歩きながら、一之瀬さんは呟く。


「今日は随分と人がいるのね」


「あぁ、この前コウタtvって人が来たからじゃないかな。その時はすごい人集りだったし」


「コウタtvってC級探索者の人じゃない。最近ダンジョンスターに入った」


「有名な人なんだ?」


「有名だし、勢いがある人ね。ソロで色んなダンジョンに行って魔物達を次々と薙ぎ倒していくっていう配信スタイルの」


「ソロでそんなに活躍できるんだ。C級までなると、やっぱり別格なんだな」


俺がそう言うと、一之瀬さんは頷きながら通りの先にある大扉を見つめた。


「でも、毎回傷が付いたらポーションを頭から被ってるハチャメチャな人でもあるのよね。同じ近接職だから参考にはなるんだけど…」


「へぇ~、面白そうだね……っと、もう着くね」


ダンジョンの大扉が目前に迫ってくる。扉の先には青空が広がる平原が見えていて、探索者協会のスタッフが立っている。

一之瀬さんと俺は探索者カードを出して、スタッフがそれを端末に通し、探索者カードを返してもらうとダンジョンに入った。


「よし、行こっか」


「ええ。安全第一で行きましょう」

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