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第13話 連携

俺と一之瀬さんはダンジョン入口の大扉をくぐると、ダンジョンドローン2つを引き連れて歩き出す。

目の前にはのどかな平原が広がり、土と草の匂いが乗った気持ちの良い風が吹いている。


「パッと見た感じ、平原には思っていたよりも人が少ないわね」


「そうだね。森とかに行ってるのかな、稼ぎどきかも」


周囲を軽く警戒しながら、平原を進んでいく。

すると、錆びた剣を持つゴブリン2匹が歩いているのが見えた。一之瀬さんも気付いたようで、少し姿勢を低くする。


「ゴブリンだね。とりあえず、1人で戦ってみる?」


「…そうね。やってみるわ」


「うん。危なそうだったら加勢するから」


まぁ戦士の一之瀬さんには心配ないだろうが。

一之瀬さんは右手に斧を持ち、左手には円形の盾を構える。

盾も持ってたんだな、それなら手こずる要素は無いように見える。


ゴブリン達も一之瀬さんに気が付き、錆びた剣を振り上げ、襲いかかった。

一之瀬さんは地を蹴って前に出る。

錆びた剣が振り下ろされると、風を切る音とともに盾が一体のゴブリンの剣を弾き飛ばす。力強い金属音が辺りに響いた。

続けざまに斧を振り下ろし、避けきれなかったゴブリンの肩口に深々と食い込む。ゴブリンは悲鳴を上げて倒れた。


「ぐぎゃああ!」


残った一体が叫び声を上げて斬りかかるが、一之瀬さんは落ち着いた動きで半歩後退し、錆びた剣を盾で受け止めた。

そして盾を押し返してゴブリンの体勢が崩れると、そのまま斧で頭をかち割って倒した。


ゴブリンたちは光となって消えると、魔石2つと錆びた剣が2本をドロップした。

周囲に警戒しながらも、彼女は深呼吸ひとつで体勢を整える。


「ふぅ…何とかなったわね」


「完璧だったね。ベテランの戦士みたいだったよ」


そう軽口を言いながら近付くと、一之瀬さんは苦笑を浮かべる。


「褒めすぎよ。ただ、やっぱり実戦は違うわね。慣れないと」


「そうだね。俺も頑張らなきゃな」


魔石と錆びた剣を異空間収納のリュックにしまっていく。

風が一層強くなり、草原を揺らす音が耳に届く。俺たちの頭上ではドローンが静かに回転しながら、今の戦闘をしっかりと記録していた。


「配信のコメントとか、どうなってるんだろうな。あ、いや、別に気にしてるわけじゃないけど」


「気になるのは当然よ。見てくれてる人がいるなら、それは励みにもなるもの。

…試しに見てみましょうか。"コメント表示"」


一之瀬さんがダンジョンドローンに向かってそう言うと、ドローンからホログラムのコメント欄が表示された。

そこにはまばらにコメントが流れており、“パワー系女子や!”とか“盾受けカッコイイなぁ”といった好意的なコメントが並んでいて、彼女は微かに頬を赤らめた。


「…悪い気はしないわね」


「そりゃそうだよ。ベテランの戦士みたいだったって言ったでしょ?」


ベテランの戦士なんて見たこと無いけど。


「はいはい、"コメント非表示"。

さぁ、次行きましょう」


「うーっす」


そう言って前を向く一之瀬さんの背中を追う。

再び歩いていくと、切り株の根元に灰色の傘が大きなキノコを4つ見つけた。


「あー、これなんだっけ」


「確か、食用のキノコよね。豚肉に似た味がするっていう、ヴィーガンに人気だったはずだわ」


「あっ、そうだ。豚キノコだ。高く売れるはずだから採っていこう」


俺はしゃがみ込んで、慎重に豚キノコを根元から採取する。傘の裏側には独特のひだがあって、ほんのりと焦げた肉を思わせる香りが漂ってきた。凄いな、焼いてすらいないのに。


俺はキノコをリュックに丁寧に仕舞った。そのとき、不意に草むらの奥から、ガサリと低い音が響いた。

俺たちは同時に身構える。


「……聞こえた?」


「うん。なんだろう」


草をかき分けて現れたのは、筋肉が発達した豚、マッスルピッグだった。鼻をヒクヒクと動かしている、もしかしたら豚キノコの匂いに誘われたのかもしれないな。

俺は短剣を構えて、一之瀬さんも斧を構える。


「一之瀬さんがなるべくヘイトを買いながら戦って、俺が隙をついて攻撃するって感じで良いかな」


「分かったわ」


マッスルピッグが地面をえぐって土を撒き散らしながら、こちらに突進してくる。

一之瀬さんはそれを盾で受け流すと、マッスルピッグが若干体勢を崩す。


俺はすぐさまマッスルピッグに接近して、短剣をマッスルピッグの肩に突き刺した。そしてすぐに引き抜いて後退する。

ひるんだマッスルピッグに一之瀬さんが斧を振り下ろすと、マッスルピッグの背中に斧が深々と食い込む。


刃は骨まで到達して、マッスルピッグは一瞬だけ硬直した後、崩れるように倒れ込んだ。


大きく息を吐いて、俺たちは勝利を確認した。

マッスルピッグが光となって消えると、その場には魔石とマッスルピッグの皮、そしてマッスルピッグの肉をドロップした。

俺たちは自然と目を合わせて、少し笑みを浮かべる。


「上手くいったね」


「ええ。さすがにマッスルピッグ相手は緊張したけど、倒せて良かったわ」


「そうだね。やっぱり2人だと効率が段違いだ」


マッスルピッグのドロップ品をリュックにしまいと、俺は軽く肩を回す。

一之瀬さんは斧の柄を軽く握り直しながら、前を見つめていた。


「…あそこにあるの小型ダンジョンじゃないかしら?」


視線の先には丘があり、そこには人が立って歩けそうなぐらいの洞穴があった。


「本当だ。自然洞窟のタイプかな。でも、さすがに俺らにはまだ早いかな」


「そうね。探索者協会に報告しておきましょうか」


そう言うと、一之瀬さんは探索者用のスマホを取り出して、洞穴の写真を撮ると、それを探索者協会に位置情報と共に送った。


「できたわ。あの洞穴から少し離れましょうか」


「そうだね……うん?なんだあれ」


洞穴から何か浮いているものが出てくるのが分かる。

目を凝らして見てみると、それはダンジョンドローンだった。それはダンジョン入口の大扉に向かってふよふよと飛んでいく。

それを見た一之瀬さんはハッと何かに気付いたような表情を浮かべた。


「帰還モード…」


「帰還モード?」


「ええ…ダンジョンドローンが稼働している状態で、持ち主が死亡したことが確定するとなるモードよ」


「つまり、あの洞穴の中で…」


「そうなるわね」


ドローンはゆっくりと進んでいく。それを見届けた一之瀬さんが、深く息を吐いて口を開く。


「油断は禁物ってことよね。私たちも慎重にいきましょう」


「そうだね」


一之瀬さんと俺はお互いに頷くと、足早に洞穴から距離をとった。

なんとなく不穏な雰囲気な中でも、草原の気持ちの良い風が吹いていた。

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