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第15話 ヘビトカゲ

しばらくベンチに座っていると、一之瀬さんが喋り出した。


「軽く、何か食べてから行く?」


「いいね。屋台が並んでるとこがあるから、そこ行こうよ。

スマホからダンジョンポイントで支払いもできるし」


「良いわね。そこ行きましょ」


一之瀬さんが立ち上がる。俺もそれに続いて立ち、歩き出した。大扉のそばの広場には、探索帰りの者たちでそこそこ賑わっていて、簡易的な屋台が何軒も並んでいる。

焼き鳥、たこ焼き、カレーパン、匂いだけで腹が鳴りそうだ。


「私はたこ焼きと…焼きそばにしようかな」


「お、ガッツリ行くね。俺は焼き鳥買ってくるよ。あそこのテーブルで待ってるね」


「分かったわ」


それぞれ屋台に向かう。俺はあの疲労回復の効果がある2000円の焼き鳥だ。それのタレ2本と塩1本を購入した。


焼き鳥を受け取って、近くにあったテーブルに座って待っていると、少し唖然とした顔を浮かべた一之瀬さんが、たこ焼きと焼きそばを持ってやってきた。


「たこ焼きと焼きそばだけで8000円もしたわ」


「ハハ!ビックリするよね!やっぱり疲労回復が乗ってるやつ?」


「ええ。それと、たこ焼きはグランドオクトパスの足の一部が入ってるみたい」


「へぇ、グランドオクトパスって陸を歩く巨大なタコでしょ?危険度がC級の。逆に安いかもね」


「たこ焼きが6000円だったから安くはないんじゃ…?

いや、どうなのかしらね」


一之瀬さんは疑問を呟きながらも、たこ焼きを1つ口に運ぶ。すると、一之瀬の目が真ん丸に見開いた。


「おいしっ!」


その反応に、俺は思わず吹き出してしまった。


「そんなに?ちょっとちょうだいよ、それ」


「だめよ、高かったんだから。これは私のよ」


手元の容器を守る一之瀬さんを見て小さく笑うと、俺も焼き鳥の串を手に取った。タレの甘辛い香りが鼻をくすぐる。

口に入れた瞬間、ジュワッと肉汁が広がり、香りから予想していた通りの甘辛い味を感じる。

そして、体の奥から疲れが引いていく感覚があった。


一之瀬さんの方を見ると、いつの間にかたこ焼きは無くなっていて、今度は焼きそばを箸でつまんでいた。

ソースの香りがふわりと風に乗って広がる。


食事をしているあいだ、探索者たちの笑い声や、屋台の呼び込み、ダンジョンドローンの機械音などの周囲のざわめきが心地よく耳に入ってきた。

お互いに食べきって、少し休憩する。


「軽く食べるつもりが、結構お腹に溜まったわ」


「分かる。見た感じ、どこの屋台もボリュームあるよね。探索者向けってことなんだろうな」


「そうでしょうね…それじゃ、ダンジョンに行きましょうか。食事分くらいは稼ぎたいわね」


「それいいね。分かりやすい目標だ。まぁマッスルピッグ一匹で達成しちゃいそうだけど」


俺たちは空になった容器と袋をゴミ箱に捨てて、再び立ち上がる。そしてお互いにダンジョンドローンを起動させると、ダンジョン入口の大扉に向かって歩き出した。

そしていつも通りの手順で平原ダンジョンに入る。


「さっきとは違う方向に行ってみる?」


「うん、そうしよう。人がなるべくいない方…あっちかな」


一之瀬さんと並んで、草が生い茂る平原を歩き出す。午前中とは違って、所々に探索者たちを見かける。


「うーん、他の探索者が多いね。どこか空いてるとこないかな」


「そうね…右手にある小さな丘の向こうにいってみましょう」


俺たちは方向を変えて丘を目指した。雑草を踏み潰しながら歩いていき、丘の上にたどり着くと、周囲を見渡した。


「向こう側は人がいないわね。良かった、徒労で終わらなくて」


「ハハハ。探索者が多いところは本当に何もないね」


「そういうところは、もう散々狩られた後なのよ。魔物も、アイテムも残ってない」


一之瀬さんがそう呟きながら、腰のポーチを確認する。

丘の向こうは緩やかな傾斜が続いていて、草の背丈も低く、見通しが良い。俺たちはそこへ向かって歩き出した。


すると、少し先の膝ぐらいまである雑草がかき分けられているのが見えた。俺は短剣を取り出す。

一之瀬さんもそれに気が付いたのか、すぐさま盾と斧を構える。

そして、草むらからヒョコっと出てきたのは、頭が蛇のような大きなトカゲだった。

そいつの首は長く、ウネウネと動いている。


「スネークリザードね。噛み付きさえ気をつければ大丈夫」


「そうだね」


俺はスネークリザードの動きに集中しながら、じりじりと間合いを詰めた。

そいつの舌が空気を舐めるようにチロチロと動き、こちらの位置を探っている。


俺は地面を蹴って一気に踏み込んだ。奴は首を伸ばして噛み付こうとしてくるが、俺はそれを避けて、背中部分を斬りつける。

だが、予想以上に皮膚が固い。刃が浅くしか通らなかった。


スネークリザードがまた噛み付こうとすると、一之瀬さんがスネークリザードに接近して斧を振るった。

一之瀬さんの一撃はスネークリザードの側頭部に命中する。


バギンッ、と甲高い音が響き、スネークリザードが仰け反る。その隙を逃さず、俺はすぐに懐へ飛び込む。今度は腹部、軟らかい部位に狙いを定めて突き立てる。


「ギィィ…」


短剣が深く刺さると、スネークリザードは濁った悲鳴を上げ、体を震わせて倒れる。

そして、光となって消えた。


「ふぅ……倒したわね」


「うん。結構硬かったなぁ」


二人して息を整えながら、地面に落ちたドロップ品へと視線を向けた。そこには大きな鱗の皮とピンク色の肉、そして魔石があった。

それらを異空間収納のリュックに入れると、また歩き出した。



途中、治癒の花を見つけて摘み取りながらも進んでいると、ようやくマッスルピッグを見つけた。

俺達は屈みながら距離を詰めるタイミングを探った。マッスルピッグは鼻を地面に擦りつけながら、ゆっくりと草を食んでいる。まだこちらには気づいていない。


「この距離なら、奇襲できるわね」


一之瀬さんが小声で囁いた。俺は頷き、地を這うように前進する。風向きも悪くなく、俺たちの匂いが流れる方向にはマッスルピッグはいない。


一之瀬さんが小さく指を三つ立てる。三、二、一、ゼロの瞬間、俺は地面を蹴った。

踏み込みと同時に短剣をマッスルピッグの背中へと突き立てる。


「ブギィィィ!」


鈍い悲鳴と共にマッスルピッグが跳ね上がり、俺を振り払おうと暴れるが、動きは鈍い。

そこへ一之瀬さんが斧を大きく振りかぶり、頭へと一撃を叩き込む。


頭に斧が食い込むと、体の中から力が抜けるようにマッスルピッグが崩れ落ち、光となって消えていった。


「…食事代、回収完了ね」


一之瀬さんが笑みを浮かべながら呟く。


「ハハッ!そうだね。それじゃ、スキルスクロールも見たいし、帰ろうか」


「ええ、そうね」


マッスルピッグの肉と皮、そして魔石をリュックに入れると、俺たちは来た道を戻り始めた。


ダンジョン入口の大扉まで戻り、そしてアイテムの買取所に着いた。時間はまだ15時頃で、空は明るい。

ベルトコンベアの横にある端末台まで来ると、ダンジョンドローンが頭に浮かんだ。


「あっ、そういえばダンジョンドローンの残留エネルギーはどう?」


俺がそう言うと、一之瀬さんが探索者用のスマホを確認する。


「61%ね。あなたは?」 


「48%。これ魔石残るかな」


半笑いで、今ある魔石を取り出していく。

ゴブリンの魔石が2つ、マッスルピッグの魔石が2つ、スネークリザードの魔石が1つだった。


「一之瀬さんがゴブリンの魔石を2つ使って、俺がマッスルピッグの魔石を2つ使う…で良いかな」


「スネークリザードのは残すってことね。それで良いわ」


俺達は魔石をダンジョンドローンに当てる。俺は75%までエネルギーが回復した。


「うん、結構回復した。一之瀬さんは?」


「私は78まで回復したわ。充分ね」


「よかったよかった。依頼受けといて魔石の1つも納品しないなんて笑えないもんね」


「それもそうね」


一之瀬さんがクスクスと笑うと、ふと探索者用のスマホを開いた。


「どうしたの?」


「いや、スネークリザードと治癒の花の依頼があるかと思って見てみたけれど、無さそうね」


「ああ、そういうこと…そういえば、一之瀬さんここの使い方知らないよね?」


「ええ。教えてくれるかしら?」


「うん。まぁ難しいことでも無いんだけど」


探索者カードを端末台に差し込んで、報酬はダンジョンポイントでの受け取りを選択。

そしてベルトコンベアの上に板を乗せ、今日手に入れたものを全て並べた。

説明しながら一緒にやり、一通り終わると一之瀬さんが呟いた。


「結構簡単なのね」


「単純で良いよね。そしたら、このベルトコンベアにあるボタンを押すんだ」


俺がボタンを押すと、ベルトコンベアが稼働して、乗せたものが流れていく。


「少し経ったら端末台にあるタッチパネルに精算された物が表示されるよ」


「なるほど…便利ね」


一之瀬さんとタッチパネルの前で待っていると、精算されたものが表示された。


ーーーーーーーー

『マッスルピッグの肉 7kg』×1

9100円

『マッスルピッグの肉 6kg』×1

7800円

『マッスルピッグの皮』×2

2300円

『ゴブリンの錆びた剣』×2

1500円

『スネークリザードの肉 4kg』×1

8400円

『スネークリザードの皮』×1

12000円

『スネークリザードの魔石』×1

700円

『依頼報酬』

20200円


『売却費用』

−620円


合計61380円

ーーーーーーーー


「おお、結構稼げたな」


「ええ。これの半分が振り込まれるのよね」


「そうだと思う。それでも3万ちょっとだもんな。すげぇや」


俺はつい口元を緩めた。6万円を超える金額にちょっと驚いた。一之瀬さんも少し驚いている様子だ。


「スネークリザードの皮、高いのね」


「ほんとだね。1つで12000円って」


俺は確定を押すと、端末の下部からカードが吐き出された。

2人で探索者用のスマホを確認すると、無事ダンジョンポイントが振り込まれているのを確認できた。


「ダンジョンポイント、これでまた余裕ができたわ」


「だね。スキルスクロール見に行こうか?」


「ええ、行きましょう」

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