まだ目がショボショボしている早朝、俺はあんこマーガリンパンとバナナを交互に食べて牛乳を飲みながら、テレビのニュースを見ていた。
そこにはダンジョンの大扉が映し出されており、その大扉は閉じられている。
「『今月のダンジョンの再構築期間では、千葉にある若葉ダンジョンは一足早く始まったようです。
幸いにも、探索者協会が予兆を事前に探知できたことでダンジョン内に閉じ込められた人はいませんでした』」
「そっか、もう少しで4月も終わりか」
再構築期間とは、ダンジョンがその構造や内部環境を再構成する期間だ。その間は大扉が閉じられ、運が悪ければ閉じ込められて遭難する。
ダンジョン内の大扉周辺に簡易的な物しか設置されていないのも、毎月に再構築期間が来るからだ。
女性キャスターは続けて解説する。
「『若葉ダンジョンの基本環境は迷宮型となっていますが、今回の通常よりも早い再構築期間の訪れは、その基本環境でさえも変えてしまう"大変革"の予兆なのではないのかという懸念もあると…』」
俺は牛乳を飲み干しながら、ニュースを眺める。
となると美女木ダンジョンも、水曜日あたりで再構築期間になるか。
だとすると学園の基礎訓練施設もそのうち混むな。今のうちに行っておこう。
俺はゴミをゴミ箱に入れてコップを洗って片付けると、探索用の迷彩上下セットを着て学園に向かった。
学園に到着すると、真っ直ぐ基礎訓練施設に向かった。
魔法スキルのライトニングを獲得したから、今日から"気"の訓練ができる。
基礎訓練施設に入って気の訓練エリアへと向かう。そして的あてのエリアへと入った。
端末から使用する属性と射程、そして難易度を"初心者"に設定すると、目前の空間にパチッという音とともにホログラムの3つの的が浮かび上がった。
3つの的はゆっくりと動いている。俺は左手を1つの的に向けた。
「ライトニング」
スキル名を口に出すと、バチバチッと音を立てながら紫の細い雷が真っ直ぐに放たれた。
雷がホログラムの的に当たると、的がガラス細工のようにバラバラに壊れる演出が入った。なかなかに凝ってるな。
二つ目の的が右へゆっくりと移動している。今度は右手で撃った。
「ライトニング」
放たれた雷光はまた的に直撃した。やっぱり雷は速いから当たりやすいな。
最後の1つは無言で撃ってみる。細く放たれる紫の雷を想像し、頭の中でライトニングと唱える。
バチィッ!
無事雷が放たれて、残る的を貫いた。ホログラムは一瞬遅れて壊れ、光の粒となって消えていく。
「うーん、普通にスキル名を言ったほうがやりやすい気がするな…ん?」
ふと体に若干疲労が溜まっていることに気が付いた。
まだ気のステータスが1だからか、あまり数は撃てないみたいだな。
「まぁ仕方ないな。地道にやろう」
そう呟くと、俺は休憩スペースへと向かった。
所々に訓練をしている生徒も見かけるが、そこまで多くないように見える。
道中、たまたま鑑定機の前を通りかかったので、ついでに鑑定することにした。
学生証を差し込んで、鑑定機に手を入れると、画面にステータスが表示される。
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〔鈴木海斗 年齢:16歳〕
〔職業:盗賊 Lv.2〕
[力:7][守:6][速:13][気:1][運:2]
〔職業スキル〕
[忍び足]
〔任意発動スキル 1/10〕
[ライトニング Lv.1]
〔常時発動スキル 0/5〕
ーーーーーーーー
「あれ!?レベル上がってるじゃん」
いや、そりゃそうか。それなりに魔物倒してたもんな。
俺は手を抜いて、学生証を取り出す。まぁでも"気"が上がっていなくて良かった。
これなら"気"の上昇効率に支障はないな。
そう考えながら休憩スペースへと歩き出した。
次の日、俺はBクラスの教室で自分の席に座ってスマホをいじっていた。思っていたよりも気の訓練はキツかった。
ライトニングの気力の消費が激しいからか、すぐに疲れちゃうんだよな。
というか、何故かクラスメイトからチラチラと見られているような気がするが、もしかして臭いのか、俺は。
なんとなく気まずいなかスマホをいじっていると、鬼龍先生が入ってきた。喋っていた生徒たちが各々自分の席へと戻り、教室が静かになる。
「皆揃っているな。それでは授業、と言いたいところだが、今日は4月30日だ。来月からは努力成果の提出がある。
ということで、提出が可能なものをより詳しく説明していく」
教壇の後ろの壁にある大きなディスプレイに資料が表示される。そこには「成果項目一覧」と題された表が映し出されていた。そして鬼龍先生は指し棒で画面上のステータスの上昇値という欄を指す。
「まずステータスの上昇値は、力,守,速,気のうち、2つのステータスが3以上あげられればそれで良い」
3か…絶妙だな。俺がレベル2になったら"速"が2、"力"が1上がっていた。
速は確実に上がるだろうが、次に力が上がるとも限らない。確実に訓練でステータスを上昇させる必要もあるだろうな。
「次はダンジョンの探索結果だ。まず依頼の達成数が5回以上であり、そして探索で得た報酬が30万を越えていれば良い。
ダンジョンの探索結果の条件は月ごとに少しずつ厳しくなっていくから油断するな」
達成数が5回で、報酬30万か。まぁ最初の条件はそこまで厳しくないな。
そう考えていると、鬼龍先生の説明はさらに続いた。
「次はスキルレベルと職業レベルの上昇値だ。これはどちらかが、2つ上がれば認められる。
最後に、模擬戦の評価。これは戦闘訓練施設での人が相手の仮想戦闘だ。これは勝利数が6回越えていれば良い」
6回勝てれば良いのか?そこまで難しそうでもないな。
何なら他のと比べると楽にさえ見える。
「とまぁそんなところだ。これらは正しい努力さえしていれば確実に達成できる範囲にある、皆励むように。
それでは授業を始める――」
授業が終わり、基礎訓練施設に行こうと教室を出ると、どこか焦っているような一之瀬さんに話しかけられた。
「ちょっと、鈴木くん」
「一之瀬さん、どうしたの?そんな変な顔して」
「その感じ、あんたネットニュースとか見てないわね」
一之瀬さんは呆れた顔を向けると、スマホを操作してとあるネットニュースを見せてきた。
そこには『若き男女のG級探索者2人が、力を合わせて亡くなった探索者の亡骸を持ち帰る』という記事があった。
内容の一部には『探索者協会からの通信からドロップ品の保有権までを報酬とされていたが、彼らはそのドロップ品を亡くなった探索者の異空間収納のリュックへと詰め込んだ』とも書かれている。
使われていた画像には俺と一之瀬さんが写っていた。
思わず顎が落ちて口が大きく開く。一之瀬さんもため息を吐いていた。
「え…?俺らのことじゃん。これ」
「そうよ。おとといの亡くなった探索者さんをダンジョン入口まで運んだのが少し話題になったみたいで、ネットニュースになったのよ。
それで、そのネットニュースのSNSがこれ」
そのネットニュースが掲載されたSNSでは、11万いいねを獲得していた。
「えぇ…?しばらくすれば落ち着くよね?これ」
「どうかしらね…」